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~「動く電場」とAI画像解析で、世界最高エネルギー級の陽子加速を実証~

プレスリリース

ゆっくり長く陽子を光の50%まで加速!
~「動く電場」とAI画像解析で、世界最高エネルギー級の陽子加速を実証~

掲載日:2026年10月2日更新
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ロゴQSTロゴNCUロゴ2026年10月2日
国立大学法人大阪大学
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
台湾国立中央大学(NCU)


ポイント

  • レーザーが生み出す「動く電場」に陽子を捕捉し、長時間・長距離にわたって加速することで、パルス幅が比較的長い高強度レーザーを用いたイオン加速として、世界最高エネルギーの陽子加速(光速の50%)を達成。
  • 世界最薄・最強のグラフェンをイオン加速のターゲットに用いることで、「動く電場」の形成・伝搬に適した条件を実現。
  • AIを用いて数百万枚の検出器画像を解析し、希少な高エネルギー陽子を確実に捉えることに成功。オンライン計測技術を組み合わせることで、AIを活用した自律型レーザー実験システムへの発展に期待。

概要

 大阪大学大学院情報科学研究科の南卓海特任助教(常勤)(情報数理学専攻 非線形数理講座)、同大学院工学研究科の蔵満康浩教授(極限プラズマ工学)、台湾国立中央大学(NCU)のWei-Yen Woon 教授(物理系)、量子科学技術研究開発機構(QST)関西光量子科学研究所の福田祐仁上席研究員(光量子ビーム科学、大阪大学招へい教授)らの研究グループは、パルス幅が比較的長い高強度レーザー※1とグラフェン※2の薄膜を用いて、132メガ電子ボルト (MeV)※3に達する高エネルギー陽子の生成・検出に成功しました。

 世界的には、レーザーエネルギーを数十フェムト秒(1フェムト秒=10-15秒)という短時間に集中させ、ピーク強度を高めるイオン加速研究が主流です。これに対して本研究では、高強度レーザーの中ではパルス幅が比較的長く、ピーク強度の低いピコ秒(1ピコ秒=10-12秒)レーザーを用いて、イオンを長時間加速することに着目しました。このレーザー条件に適した極薄ターゲットを用い、ゆっくり長くイオンを加速することで、陽子を光速の約50%まで加速しました。100フェムト秒より長いレーザーとしては世界最高の陽子エネルギーを実現しており、短パルスレーザーの実験結果を含めたレーザー陽子加速全体でも世界第2位となる陽子エネルギーです。

本研究の実験配置および検出された陽子のエネルギー分布。
​図1.本研究の実験配置および検出された陽子のエネルギー分布。
​ピコ秒の持続時間をもつ大阪大学LFEXレーザー(a)を大面積自由表面グラフェンターゲット(b)に照射し、加速された陽子を積層CR-39検出器(c)で計測した。検出器から得られる数百万枚に上る顕微鏡画像をAIで自動解析することで、(d)に示す陽子のエネルギー分布を取得した。8層および16層のLSGターゲットで得られた結果を示しており、16層のLSGターゲットでは最大132 MeVの陽子を検出した。破線(背景ノイズ+5σ)は信号を統計的に有意とみなすための検出限界(しきい値)を示しています。実験データ(点)はいずれもこのラインを大きく上回っており、ノイズではない明確な信号(データ)が得られていることがわかります。

 薄膜を用いたレーザーイオン加速では、効率の良い加速を達成するために、レーザーの条件に応じてターゲットをナノメートル程度まで薄くする必要があります。しかし、このような極薄ターゲットは作製が困難であることに加え、レーザーパルスのノイズ成分であるプレパルス※4によって、主パルスが到達する前に破壊されやすいという問題がありました。今回、研究グループは、世界最薄・最強の材料として知られ、厚さをナノメートル精度で制御できるうえ、プレパルスに対して高い耐性をもつグラフェンを16層に重ねた極薄ターゲット(厚さ約16ナノメートル)を用いました。これにより、レーザーがターゲットプラズマ全体に作用し、「動く電場」の形成・伝搬に適したターゲット条件を実現しました。プラズマ粒子シミュレーション※5から、レーザーによって形成された「動く電場」がターゲット前方へ伝搬し、陽子がこの電場に捕捉され、電場とともに約0.3ミリメートル進みながら、3ピコ秒以上にわたって加速されることで、132 MeVに到達することが明らかになりました。

 さらに、高エネルギーまで加速された少数のイオンを確実に捉え、そのエネルギー分布を定量的に評価することも困難でした。本研究では、AIを活用した画像解析技術により、人手では解析が困難な数百万枚に上る顕微鏡画像を自動解析し、希少な高エネルギー陽子を確実に検出するとともに、そのエネルギー分布を定量的に評価することを可能にしました。

 本成果は、イオンを長時間・長距離にわたって加速することで、高エネルギー化を実現できることを示した成果です。今回生成された132 MeVの陽子は光速の約半分に達する準相対論的な領域にあり、将来の相対論的イオン加速や、宇宙で起こる高エネルギー粒子加速を実験室で研究する新たな手法への発展が期待されます。また、本研究で実証したAI画像解析をオンライン計測技術と組み合わせることで、AIを活用した自律型レーザー実験システムへの発展が期待されます。

 本研究成果は、国際学術誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に、10月2日(金)9時(日本時間)に公開されました。​

研究の背景

 これまで、粒子線がん治療や素粒子・核物理実験に用いられる加速器は、装置が非常に大型で、建設コストも高額になりがちでした。これは、従来型の加速器では、電場の大きさが、装置を構成する材料の絶縁破壊や放電などによって制限されているためであり、高エネルギーまで荷電粒子を加速しようとすると、加速距離を大きく、つまり装置自体を大きくする必要があるからです。そこで、材料の絶縁破壊による制約を受けにくいプラズマ※6を利用するのが、レーザー粒子加速の研究です。従来型の加速器よりも何桁も高い電場を利用することで、次世代の加速器の実現を目指した研究が行われています。

 レーザーイオン加速において、加速イオンのエネルギーを向上させるためには、加速電場の強度を高めるか、加速時間を長くするかが考えられます。加速時間を長くするには、レーザーの持続時間であるパルス幅を伸ばすことが有効ですが、これまで主流であったレーザーのエネルギーを数十フェムト秒の短時間に圧縮して照射する手法に比べてレーザーの強度は低くなります。そうした高強度レーザーの中ではパルス幅が比較的長く、ピーク強度の低いレーザーを用いてイオンを効率よく加速するには、ターゲットはナノメートル程度の厚みまで薄くする必要があります。しかし、このような極薄ターゲットは作製が非常に困難であることに加え、プレパルスの影響を受けやすいという問題があります。

 また、加速される高エネルギーイオンを計測することにも課題がありました。レーザーイオン加速実験において一般的に用いられるトムソンパラボラ計測器※7は、オンライン検出器と組み合わせることで、実験中に即座にデータを取得することができますが、非常に高いエネルギーまで加速された少数のイオンを捉えることは苦手でした。一方、固体飛跡検出器※8は、一つ一つのイオンを検出できるほど高感度な検出器ですが、その解析には百万枚規模の膨大な顕微鏡画像を精査する必要があり、こうした大規模なデータを人手で解析することは現実的に困難でした。

(上段)レーザーが炭素イオンプラズマを加熱し、その前面に生成された「動く電場」によって陽子を加速するイメージ図。(下段)
​図2.(上段)レーザーが炭素イオンプラズマを加熱し、その前面に生成された「動く電場」によって陽子を加速するイメージ図。(下段)
プラズマ粒子シミュレーションによる、電場とイオンの時間発展。各時刻における電場の空間分布を、時間の経過に沿って縦方向に積み上げて表示している。オレンジで示す炭素イオンの前方に黒線で示す「動く電場」が生成され、時間の経過とともに前方へ伝搬している。図には、シミュレーション結果のうち約2ピコ秒、約0.18ミリメートルまでを示している。シミュレーション全体では、青色で示す陽子がこの「動く電場」に捕捉され、電場とともに進みながら、3ピコ秒以上、約0.3ミリメートルにわたって加速され、132 MeVに到達した。

研究の内容

 研究グループは、大面積自由表面グラフェン(LSG)※9ターゲットを用いることで、ピコ秒レーザーによる長時間加速を実現しました。LSGターゲットは、グラフェンの積層数を変えることで、ナノメートルの精度で厚みを制御できるため、レーザー強度に応じた最適なターゲット設計が可能です。また、過去の研究でプレパルスに対する高い耐性が示されています。本研究では、パルス幅約1.5 ピコ秒の大阪大学LFEXレーザーを、厚みを精密に制御したLSGターゲットに照射しました。層数の異なるLSGターゲットを比較した結果、16層(厚さ約16ナノメートル)のターゲットを用いた場合に、最大132 MeVの陽子を検出しました。また、希少な高エネルギー成分を精度よく捉えるため、固体飛跡検出器であるCR-39を多数枚重ねた積層CR-39検出器を用いました。AIを用いた画像解析技術を開発し、膨大な顕微鏡画像データを自動解析することで、132 MeVまで加速された高エネルギー陽子の定量評価を可能としました。

 プラズマ粒子シミュレーションを用いることで、この高エネルギー陽子が、「動く電場」との相互作用により加速されていることが明らかになりました。レーザーとの相互作用によって、厚みを最適化したLSGターゲットはプラズマ化し、レーザーがその裏面まで到達することでプラズマ全体が加熱されます。この時に、図2の上段に示すように、質量の大きな炭素イオンは陽子の後方に位置し、炭素イオンと電子の電荷分布のずれによって、その前方に電場が形成されます。さらに、長いパルス幅を持つレーザーによって加熱が続くことで、炭素イオンプラズマは膨張し、それに伴って電場も前方へ伝搬します。図2の下段には、シミュレーションにより明らかになった「動く電場」の様子が示されています。陽子はこの「動く電場」に捕捉され、電場とともに3ピコ秒以上、約0.3ミリメートルにわたって進みながら加速され、132 MeVに到達しています。 この加速機構は、これまでの典型的な加速時間(数十〜数百フェムト秒)および加速距離(0.01ミリメートル程度)に比べて一線を画すものであり、それが今回の高エネルギー陽子加速に繋がっています。最適化されていない、より厚いターゲットを用いた場合は、レーザーはターゲットプラズマ全体を加熱することができず、動く電場も生成されません。また、より薄い場合には、ターゲット中に含まれる炭素イオンが少なくなるため、生成される電場も弱くなり、加速効率が低下します。すなわち、適切なLSGの厚さと比較的長いレーザーパルスの組み合わせが、「動く電場」の形成と持続的な伝搬の鍵となっています。図3に示すように、このエネルギーの陽子加速は、100 フェムト秒を超えるパルス幅を持つレーザーを用いた実験結果としては世界最高であり、短パルスレーザーの実験結果を含めても世界最高エネルギー級の成果です。

本研究成果と、これまでに報告された代表的なレーザー陽子加速実験との比較。
図3.本研究成果と、これまでに報告された代表的なレーザー陽子加速実験との比較。
本研究は、100フェムト秒を超える比較的長いパルスレーザーを用いた陽子加速として世界最高エネルギーとなる132 MeVを達成した。また、レーザー陽子加速全体でも、短パルスレーザーを用いて達成された最高記録150 MeVに迫る、世界最高エネルギー級の成果である。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 今回、高強度レーザーの中ではパルス幅が比較的長く、ピーク強度の低いレーザーによって形成された動く電場が陽子に長時間作用し、世界最高エネルギー級となる132 MeV(光速の約50%)の陽子生成につながることが示されました。今回、陽子を光速の約50%まで加速し、相対性理論の効果が重要になる「相対論的領域」に近づく高エネルギー領域に到達しました。今後、加速時間をさらに伸ばしたり、複数の加速過程を組み合わせたりすることで、より光速に近い高いエネルギーを持つイオンの生成につながることが期待されます。こうした相対論的なイオン加速を実験室で実現できれば、宇宙で起こる高エネルギー粒子加速を支配する基礎過程を実験室で研究する新たな手法となり、宇宙線加速の未解決問題※10の理解に貢献することが期待されます。

 一方、本研究では、AIを用いて膨大な検出器画像を解析し、高エネルギーイオンの情報を自動的に取り出す計測手法を実証しました。今後、このようなAIによるデータ解析をオンライン計測技術と組み合わせることで、実験結果を迅速に解析し、次のレーザー照射条件やターゲット条件の選択に反映することが可能になります。将来的には、AIが実験結果を解析し、次の実験条件を自ら選びながら、より高エネルギーのイオンを生成する条件を効率的に見つけ出す、自律型レーザー実験システムへの発展が期待されます。

特記事項

 本研究成果は、2026年10月2日(金)9時(日本時間)に国際学術誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Proton Surfing Acceleration via Propagating Electrostatic Waves Induced by Intense Laser Irradiation on Large-Area Suspended Graphene”

著者名:Takumi Minami, Che-Men Chu, Kentaro Sakai, Tomoya Taguchi, Takamasa Hihara, Naoya Tamaki, Soichiro Suzuki, Fuka Nikaido, Yuki Abe, Hideaki Habara, Yu-Tzu Liao, Leonard Döhl, Nigel Woolsey, Yasunobu Arikawa, Akifumi Yogo, Alessio Morace, Youichi Sakawa, Yao-Li Liu, Chun-Sung Jao, Tatiana Pikuz, Hideki Kohri, Atsushi O. Tokiyasu, Satoshi Kodaira, Shogo Isayama, Harihara Sudhan Kumar, Naofumi Ohnishi, Nathaniel Saura, Sadruddin Benkadda, Satoshi Hamaguchi, Naoki Watamura, Hideyuki Suzuki, Masato Kanasaki, Yuji Fukuda, Wei-Yen Woon, and Yasuhiro Kuramitsu

DOI:https://doi.org/10.1093/ptep/ptag130

 なお、本研究は、日本、台湾、イギリス、フランスとの国際共同研究のもと行われました。国内参加機関は、大阪大学大学院情報科学研究科・工学研究科に加えて、量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所、核融合科学研究所、大阪大学レーザー科学研究所、大阪大学先導的学際研究機構(OTRI)、公益財団法人レーザー技術総合研究所、大阪大学核物理研究センター、東北大学先端量子ビーム科学研究センター、量子科学技術研究開発機構 放射線医学研究所、九州大学総合理工学研究院、東北大学大学院工学研究科、神戸大学海事科学研究科です。

 また、本研究は、台湾科学技術部(課題番号:MOST-109-2628-M-008-004-MY3)、JSPS科研費(課題番号:JP19K21865, JP20KK0064, JP22H01195, JP22H00119, JP22H01206, JP23K20038, JP23H04864, JP24H01624, JP24H01816, JP24K17029, JP25H00622, JP25K00221, JP26H02028, JP26H02029)、JSTムーンショット型研究開発事業(課題番号:JPMJMS2021)、JST先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(課題番号:JPMJAP2321)、JSPS二国間交流事業(課題番号:JPJSBP120203206, JPJSBP120229940)、JSPS拠点形成事業(課題番号:JPJSCCA2019002, JPJSCCB20190003)、宮田若手研究者支援プログラム(課題番号:JM00000130)、自然科学研究機構(NINS)分野融合型共同研究事業(課題番号:01422301, 01412302)、自然科学研究機構OPEN MIX LAB(OML)プロジェクト(課題番号:OML012508, OML012509, OML012608)、核融合科学研究所(NIFS)共同研究(課題番号:NIFS24KIIQ010, NIFS25KSPQ005, NIFS26KSPQ007)、文部科学省「先端研究基盤共用促進事業(研究設備利用促進プログラム)」(課題番号:JPMXS0450300021)の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 高強度レーザー
光のエネルギーを時間的・空間的に極限まで集中させることで、きわめて高いパワー密度(単位面積あたりの光の強さ)を実現したレーザー。この光を物質に照射すると、物質は瞬時にプラズマ化し、太陽中心部に匹敵するような高圧・高温状態を作り出すことができる。数十 フェムト秒 (1フェムト秒=10-15秒)程度の極短時間にエネルギーを圧縮しより高い強度を得ることができる短パルスレーザー、および、同じエネルギーの短パルスレーザーと比べると、ピーク強度は低いものの比較的長い数ピコ秒(1ピコ秒=10-12 秒)程度の持続時間を持つレーザーがある。
※2 グラフェン
1原子厚みの炭素のシート状物質。この厚みでは、極めて高い機械的強度を持つ。ほぼ透明で、熱伝導度や電気伝導度も非常に高い。
※3 メガ電子ボルト(MeV)
エネルギーの単位。1 MeVは100万eVを表す。132 MeVの陽子の速さは光速の約50%であり、このエネルギー帯のことを準相対論的領域という。準相対論的エネルギーのイオン加速は、1 ギガ電子ボルト(1 GeV=1,000 MeV)の相対論的エネルギーに到達するまでの重要な足掛かりとなる。
※4 プレパルス
高強度レーザーの主パルスがターゲットに到達する前に、先行して到達する微弱なレーザー光。強度は主パルスより低いが、極めて薄いターゲットでは、主パルス到達前に加熱や変形、破壊を引き起こす場合がある。
※5 プラズマ粒子シミュレーション
プラズマ中の電子やイオンの動きと、それに伴う電場・磁場の変化をコンピュータ上で再現する数値計算手法。電子やイオンが電場・磁場から力を受けて運動し、その運動によって電場・磁場も変化する過程を計算することで、粒子加速の仕組みを調べることができる。
※6 プラズマ
固体、液体、気体に続く物質の第4の状態。原子から電子がはぎ取られ正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子が混在するが、全体として電気的に中性を保った状態を指す。宇宙の見える物質の99%以上がプラズマの状態にあると言われている。
※7 トムソンパラボラ計測器
電場と磁場を同じ方向に印加し、荷電粒子の電荷と質量の比(Q/M)ごとに、エネルギー分布を計測する手法。エネルギーが高い粒子ほど、電場と磁場で曲がりにくいので、電場と磁場を印加しない場合の直線的な軌道からのずれの大きさからエネルギーの大きさを見積もれる。
※8 固体飛跡検出器
高速の陽子などの粒子が通過した際に生じる微小な「飛跡」を記録する検出器。化学処理によって飛跡を可視化し、顕微鏡で観察することで粒子を検出する。本研究では、固体飛跡検出器の一種であるCR-39を複数枚重ねて、高いエネルギーのイオンほど深い層まで到達することを利用して、イオンのエネルギーを評価した。
※9 大面積自由表面グラフェン(LSG)
Large-area suspended graphene。グラフェンを、高強度レーザー実験のターゲットとして用いるために開発したもの。穴の開いた基板にグラフェンを保持することで、両面が真空に面した極薄膜ターゲットとして利用できる。本研究で用いたLSG一枚の実効的な厚さは約1 ナノメートルであり、枚数を重ねることでナノメートル程度の精度で厚みを制御できる。過去の研究では、LSGターゲットがプレパルスに対して高い耐性を持ち、高強度レーザーによるイオン加速実験に適していることが示されている。関連する南特任助教らの論文は下記。
Y. Kuramitsu, T. Minami et al., "Robustness of large-area suspended graphene under interaction with intense laser", Scientific Reports 12, 2346 (2022), DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-022-06055-4
※10 宇宙線加速の未解決問題
宇宙線は、太陽系外から地球に飛来する高エネルギー粒子のこと。宇宙線が大気中の酸素や窒素に衝突して発生する中性子が、地上の電子機器の半導体に衝突しソフトエラーと呼ばれる電子機器の誤作動を引き起こすなど、宇宙線は、私たちの生活とも無縁とは言えない存在である。特に100京eVのエネルギーを超えるものは超高エネルギー宇宙線と呼ばれ、その生成機構はまだ完全に解明されてはいない。