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日本初となる回転ガントリーを用いた重粒子線がん治療を開始

掲載日:2018年12月26日更新
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日本初となる回転ガントリーを用いた重粒子線がん治療を開始
―患者にとってより優しい治療の実現へ―

発表のポイント

  • 脊髄や神経を避けて任意の角度から重粒子線*1)をがんに照射する回転ガントリー*2)装置を用いた臨床研究を開始した。
  • 臨床研究終了後、本装置を用いた先進医療*3)・保険診療を開始する予定。
  • 重粒子線がん治療における本装置の普及の加速や副作用の更なる低減を含む、患者にとってより優しい治療の実現が期待される。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)放射線医学総合研究所(以下「放医研」という。)は、このたび回転ガントリーを使用した重粒子線治療の臨床研究を開始しました。1例目となる頭頸部がん患者の治療は、平成29年5月9日に開始し、16回照射(4週間)を行い、6月2日に終了しました。従来の重粒子線がん治療では、患者に対して垂直または水平方向の二方向からしか照射することができず、脊髄や神経などの重要器官を避ける必要がある場合には、患者を傾けて不自然な体位で治療をするなどの制約がありました。そこで、今回の臨床研究では平成29年1月に完成した、腫瘍に対して360度任意の角度から重粒子線照射を可能とする回転ガントリーを用いて治療を行いました。角度を細かく調節することにより、重要器官を避けてがんに重粒子線を集中できるため、副作用の更なる低減など、患者にとってより優しい治療を実現できると考えられます。現在、治療後の早期副作用の有無や程度、腫瘍縮小効果を確認するため、経過観察を行っています。
今後、頭頸部がん、骨盤部がんで計10例程度臨床研究を行い、それらの結果が、従来の二方向からの照射で治療した結果と比べて、副作用や治療効果が同程度であることを確認します。
本装置は平成29年5月25日付で医薬品医療機器等法による医療機器承認を得たことから、量研放医研では、この臨床研究終了後に、回転ガントリー装置を用いた治療の安全性と効果を見極めて、本装置を用いた先進医療・保険診療を開始する予定です。これらが開始されることにより、今後の国内外の重粒子線治療における回転ガントリーの普及が加速されることが期待されます。

研究開発の背景と目的

重粒子線がん治療は放射線の一種である重粒子線を用いた治療法です。従来は、患者に対して垂直または水平方向の二方向からしか重粒子線を照射することができず、脊髄や神経などの重要器官を避ける必要がある場合には、患者を傾けて不自然な体位で治療をするなどの制約がありました(図1)。そこで、360度どの角度からでも患者に重粒子線を照射できるよう、量研放医研では株式会社東芝と共同で、世界で初めて超伝導磁石を採用した回転ガントリーを完成させました。(図2、平成28年1月8日プレスリリース)この装置と、細いビーム状の重粒子線で腫瘍を塗りつぶすように照射する3次元スキャニング照射装置*4)を組み合わせた回転ガントリーシステムで治療することで、腫瘍の周囲に脊髄や神経などの重要器官がある場合でも、それらを避けて、腫瘍に線量を集中することができます。
このたび、回転ガントリーの治療機器としての性能や品質に関する試験等が終了したことから、回転ガントリーシステムによる重粒子線治療が安全かつ有効であることを臨床的に確認するため、臨床研究を開始しました。

図1 患者を傾けて治療する様子の画像
図1 患者を傾けて治療する様子

図2 重粒子線回転ガントリー(右)と治療室(左)の画像
図2 重粒子線回転ガントリー(右)と治療室(左)

研究の手法

この臨床研究では、呼吸に伴う臓器の移動が少ない頭頸部がんと前立腺がんの患者計10名程度を対象とします。1例目となる頭頸部がん患者の治療は、平成29年5月9日に開始し、16回照射(4週間)を行い、6月2日に終了しました。現在、治療後の早期副作用の有無や程度、腫瘍縮小効果を確認するため、経過観察を行っています。

図3 回転ガントリーによる重粒子線治療の画像
図3 回転ガントリーによる重粒子線治療

今後の展開

今後、頭頸部がん、前立腺がんで計10例程度臨床研究を行い、治療後3か月以内の早期副作用の有無や程度、6か月以内の治療効果(腫瘍の縮小効果)を評価します。臨床研究の患者登録は平成29年10月31日までに終了する予定です。臨床研究終了後、研究の結果が、従来の二方向からの照射で治療したこれまでの症例の結果を比べて、副作用や治療効果が同程度であることを確認します。
回転ガントリーは平成29年5月25日付で医薬品医療機器等法による医療機器承認を得ました。これを受けて、量研放医研ではこの臨床研究により安全性と効果を見極めて、回転ガントリーシステムを用いた先進医療・保険診療を開始する予定です。これが開始されれば、平成31年開業予定の山形大学病院重粒子線施設においても導入されることなどと併せて、今後の国内外の重粒子線治療における回転ガントリーシステムの普及が加速されることが期待されます。量研では企業と共同で、次世代の重粒子線がん治療装置で「量子メス」の研究開発を進めています。この回転ガントリーシステムの開発や治療等を通じて得られた経験や知見は、「量子メス」に超伝導技術を利用する際に重要な役割を果たすと考えられます。

用語解説

*1)重粒子線

原子番号がヘリウム以上の元素をイオン化し、それを加速器で高速に加速して作られる放射線の一種です。量研では炭素イオンを加速して重粒子線(炭素線)とし治療に用いています。

*2)回転ガントリー

放射線治療の分野ではガントリーとは放射線発生装置、照射口を含む筺体を指します。X線治療機ではこのガントリーが回転可能で、任意の角度からの治療が可能です。陽子線や重粒子線治療装置の場合は、放射線発生装置は治療室の外に設置されますが、患者の周囲を照射口が回転し照射をおこなう点が同じことから、こうした装置を回転ガントリーと呼びます。

*3)先進医療

先進的な医療技術の中で臨床試験を重ね、安全性と治療効果が確認された新しい治療法として厚生労働省が承認したものです。診察料、検査料、投薬料、入院料など通常の治療と共通する部分は保険診療となりますが、技術料は全額自己負担となります。

*4)3次元スキャニング照射装置

加速器からの細いビームを腫瘍の形に合わせて塗りつぶすように照射する装置です。スキャニング照射法は、複雑な形状の腫瘍でも正常組織を避けて集中的に重粒子線をあてることができるという利点があります。

図4 3次元スキャニング照射の模式図の画像
図4 3次元スキャニング照射の模式図