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ポロニウム210事件時に滞在していた日本人の汚染検査を実施

掲載日:2018年12月26日更新
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放医研、ポロニウム210事件時にロンドンの汚染地域に滞在していた日本人の汚染検査を実施し、汚染された可能性が無いことを確認

概要

独立行政法人放射線医学総合研究所(米倉義晴理事長)緊急被ばく医療研究センター(藤元憲三センター長)は、英国でリトビネンコ氏が放射性核種であるポロニウム210(Po-210)を原因として2006年11月1日に発病し、同11月23日死亡したとされる「ポロニウム210事件」に関連し、事件当時、英国・ロンドンの汚染地域に滞在していた日本人で連絡先がわかった7名のうち希望があった2名(40代及び50代の男性)の汚染検査を実施しました。

汚染検査は被験者の24時間尿を採取し、その尿中のポロニウム210の濃度を調べ、事故に関連して体内にポロニウムが混入したか否かを調べるものです。

ポロニウムは自然界にも存在する放射性核種であり、国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告書では、日本人が食品を通して一年間に摂取するポロニウムの量は、220Bq(ベクレル)とされています。この値から、日本人のポロニウム210の尿中排泄量は一日当たり0.072Bqになるものと予測されます。また、自然界からの寄与に比べて、被験者の尿中濃度が高いか否かを判定する必要があるため、事件と関わりのない一般人6名の尿中のポロニウム濃度と比較しました。

その結果、汚染地域に滞在していた被験者の尿中ポロニウム濃度は、国連科学委員会による報告値に比べて十分低い量であることに加え、一般人のポロニウム濃度のばらつきの範囲内にあり、汚染された可能性が無いことが確認され、被験者に報告されました。

  • 平均値±標準誤差(Bq/日)
  • 40歳代男性0.036±0.0045(Bq/日)
  • 50歳代男性0.028±0.0020(Bq/日)
    (独立して行った3回の平均値±標準誤差)

本件は、今回の汚染検査の実施責任者である放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター被ばく医療部 明石真言部長により、3月27日、英国保健局(Health Protection Agency)主催のもとロンドンで開催される、ポロニウム210の公衆への影響対応会議(Polonium210:The Public Health Response)に報告されます。

背景

ポロニウム210事件の発生に伴い、放射線被ばく事故時に被ばく患者を受け入れる三次被ばく医療機関として指定されている放射線医学総合研究所は、2006年12月以降、ポロニウム汚染に関する数多くの問い合わせを受けることとなりました。これに対応して、同年12月5日にはポロニウムに関する解説記事を研究所のホームページに掲載するなどしました。

こうした中、放射線医学総合研究所は、英国の保健局(Health Protection Agency)から、外交ルート経由及び直接放医研に連絡された、事故発生当時汚染していると判明した場所にいた日本人に対して、汚染検査の希望の有無を確認した上で、検査を希望される数名の方々の汚染検査を行うこととしました。

尿中ポロニウムの分析結果

英国で発生した放射性核種ポロニウム210による事件に絡み、犯行現場とされるロンドン・ミレニアムホテルに2006年11月1日前後に立ち寄った日本人(以下、被験者と呼びます)について、ポロニウム210の摂取の有無を検査しました。

ポロニウム210の半減期は138日ですが、体内に入った場合の生物学的半減期は50日であり、体外へは尿や便として排泄されます。このため被験者がポロニウム210を摂取したか否かを調べるため、その尿を採取して尿中ポロニウム210を分析しました。

この結果、被験者の24時間蓄積された尿において若干のポロニウム210を検出しました。一方、事件と関係のない日本人6名を対照者として選び、同時に分析した尿からも、平均で0.033±0.029Bq/日のポロニウム210を検出しました。その場合、最高値は0.085Bq/日、最低値は0.012Bq/日というようになっていて、個人による差異が極めて大きいことが分かりました。今回、被験者から検出された量は、国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告書から計算した日本人のポロニウム210の一日当たり尿中排泄量に比べて十分低く、また事件とは無関係であった日本人対照者の濃度範囲内のレベルであり、正常な値と見なされるものでした。この分析結果から、今回の事件に関連してポロニウム210を摂取した可能性は無いと判断されます。

参考

ポロニウム210は天然の放射性核種で、土・水・空気のいづれにも存在するため、人は食品や飲料水を介し、あるいは呼吸により絶えず体内に摂取しています。国連科学委員会(UNSCEAR)の2000年報告書(表1)によれば、食品を通じて日本人が1年間に摂取しているポロニウムの量は220Bqであり、中国(68-130Bq)などとともに他のヨーロッパ地域などよりも多い(世界の参考値58Bq)とされています。

(表1)食品に含まれるポロニウム210(Po-210)の年摂取量

  年摂取量(Bq)
日本 220
米国 22
アルゼンチン 18
中国 68-130
インド 20
イタリア 40
ポーランド 44
ルーマニア 51
ロシア 40-55
英国 28-44
参考値 58

国連科学委員会2000年報告書付属書B表16より

国際放射線防護委員会ICRPの線量換算係数などを用いて評価すると、日本の公衆成人がポロニウム210を慢性的に経口摂取した場合、摂取1Bq当たり尿中排泄量は1日当たり0.12Bqとなることから、日本人のポロニウム210の尿中排泄量は1日当たり0.072Bqになるものと目されます(同様に世界平均では1日当たり0.019Bqとなります)。今回検出された被験者の尿中ポロニウム210の量は、自然界起源のポロニウム210から予測される量とほぼ同一レベルであり、この点からも検出量が異常値ではなく通常の範囲にあると考えられます。

本件の問い合わせ先

独立行政法人 放射線医学総合研究所 広報室
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp