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リアルタイムで「進行がん」などの病気の進行状況をキャッチする 実験動物用の三次元高精細造影CT手法を確立

掲載日:2018年12月26日更新
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リアルタイムで「進行がん」などの病気の進行状況をキャッチする
実験動物用の三次元高精細造影CT*1手法を確立

概要

独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)基盤技術センター研究基盤技術部放射線発生装置利用技術開発課の宮原信幸主任研究員らと、放射線防護研究センター防護技術部動物病理支援室の大町康主任研究員らの研究グループは、株式会社リガク(社長:志村晶)及び松本歯科大学(学長:森本俊文)の新井嘉則教授との共同研究により、小動物のがんの進行状況など生体上で移り変わる軟らかい組織の病態を、画素サイズ0.02ミリメートルという精細な分解能で、ほぼリアルタイムで映し出すことができる三次元高精細造影CT手法を確立しました。

宮原、大町らは、株式会社リガク製の実験動物用のCT(3DμCT装置R_mCT*2)を用いて、軟らかい組織に適した撮影・画像処理手法を新たに開発しました。本手法は、小動物用のCTでは用いられることの無かった安価なヨウ素系水溶性造影剤*3を、新たに開発された小動物用インジェクタ*4により実験動物に注入するものです。本手法によって、がん患部を取り巻く0.2ミリメートルの血管や、初期がんの発生状況といった、これまで得ることのできなかった三次元精細画像を入手することに成功しました。

本手法の成功により、一般的に実験動物の病理解剖によって行われてきた薬剤の効果の確認や、放射線治療の効果の確認といった研究手法が一気に精緻化されることが期待できます。特に、生体上でのがんの進行などを解剖によって停止することなく連続して観察できることから、創薬や治療法の開発など幅広い応用が期待されます。さらに、撮像によって得られる画像が極めて精細であることから、解剖実験で見逃されてきた初期の腫瘍を発見できるなど優れた特徴を備えています。

背景

がんをはじめ、様々な疾病の解明や薬剤の開発などにおける研究開発過程において、小動物実験は欠かせない手法となっています。こうした場合では、腫瘍の存在や変化を解剖によって観察する方法が一般的に行われています。生体のまま体内の変化を把握するために開発されたX線CTは、その分解能並びにコストの問題からヒトに対してのみ適用されており、マウス、ラットに対する適用は一般的ではありませんでした。人体上では不可能な化学療法の効果の確認や放射線治療の効果の確認を可能にする動物実験は、研究に不可欠な過程であり、経時的に精密な観察ができる実験手法の開発が望まれていました。一方、小動物用の画像診断装置としては、小動物用PETやMRIが開発されていますが、これらは、生体機能の分子レベルでの解析を目的とするもので、形態上の経時的な診断には本手法に利点があります。

CT装置および開発した造影手法の特徴

  • 3DμCT装置R_mCTは、歯科用のCTをベースとしており、主に骨などの硬い組織の撮影に適した実験動物用CTとして開発されました。このため、肝や腸管等の軟らかい組織をコントラスト良く撮像することは出来ませんでした。今回、X線エネルギーの最適化、ならびに画像処理フィルターを新たに開発したことにより、従来から観察が容易であった硬い組織のみでなく、軟らかい組織についてもコントラストの良い画像を得ることができました。これによって画像解析の信頼性、特に軟部組織の診断精度が飛躍的に向上しました。
  • 従来の実験動物用造影剤は脂溶性*5で、1mlあたり3万円と非常に高価であり、投与から撮像までに数時間を要していました。一方、今回開発した手法で使用する水溶性のヨウ素系造影剤は、投与1、2分後からさまざまな軟らかい臓器をコントラスト良く撮像することができることに加えて、1mlあたり100円と安価であり、研究費用の大幅な低減を可能にします。

今後の展開

本手法により、今後、以下のような研究の進展が期待されます。
(発がん研究)今回考案されたリアルタイム生体イメージング技術により、従来極めて困難であったがんの発生や発育・転移などの進展過程を、血管の誘導などがんを取り巻く環境の変化とともにとらえることが可能になり、新たな視点に基づく実験発がん研究が期待できます。

(がん治療実験)経時的にマウスのがんの診断が可能なことから、がん移植マウスやがんを誘発させたマウスなどのモデルを用いた抗癌剤や放射線などの治療効果をリアルタイムに記録し、精密な腫瘍の大きさや転移の状態を指標にした研究を行うことができます。さらに、今回撮像したCT画像は、DICOM*6と呼ばれる医療標準フォーマットで出力できるので、ヒトに対する撮像で用いているものと同じ治療計画装置に画像を取り込むことが可能となります。また、予後の観察も、検体を殺処理することなく継続して観察が可能となります。

(薬効・毒性評価研究)血管を含む軟部組織の明瞭な画像化、3次元解析が可能であることから、循環器疾病等のモデルマウス等の血管自身、あるいは血管に流れる血流を指標とした薬効・毒性の影響過程を経時的に観察・解析することが期待されます。

参考 造影CT画像例

新規に開発した造影法(図1)では、動脈から発生した腫瘍、大動脈、肝臓、脾臓にとどまらず腸管の構造が鮮明に観察でき、腎臓内の構造まで確認できる。また、各臓器の輪郭もよりシャープに描出されている。さらに、本造影剤は従来造影剤に比較して非常に安価であり(1mlあたり3万円:従来1mlあたり100円:新規)研究コストの低減にも寄与する。

マウスがん造影CT観察例
図1. マウスがん造影CT観察例

マウスがんCT三次元再構成画像
図2. マウスがんCT三次元再構成画像

図2では骨は白、脂肪は黄色、がんは小豆色で表現されている。大動脈・静脈ならびに腎臓、腫瘍の関係がよく理解できる。

マウスがん3次元画像を腹腔内から観察
図3. マウスがん3次元画像を腹腔内から観察

図3では大動脈からがん(血管肉腫)が発生している様子がよくわかる。また、がんに栄養を与えている血管の走行もよく観察できる。はっきり確認できる血管のもっとも細い直径は0.2mm程度である。

用語解説

*1)三次元高精細造影CT手法:

従来平板であったCT画像をコンピューターを用いて画像処理を施し、立体的に映像化したものです。目的に応じて条件を設定し、必要な画像を絞り込んで提示できるほか、画像を回転し、あらゆる角度から観察することができます。

*2)3DμCT装置R_mCT:

株式会社リガクと松本歯科大学の協力によって開発された実験動物用小型CT。歯科用CTをベースとして開発されました。(既報)

*3)ヨウ素系水溶性造影剤:

人体用のCT検診においてごく一般的に用いられる造影剤。安全性が高く生体への影響が少ないと考えられています。

*4)小動物用インジェクタ:

造影剤を決まった量連続的、又はあるタイミングでパルス的に動物に注入する自動注射器です。

*5)脂溶性造影剤:

脂に溶ける性質の造影剤で脂肪に蓄積しやすく長期に停留し易い性質があります。従来実験動物用CTに用いられてきました。

*6)DICOM:

DICOM(ダイコムと発音)とは、Digital Imaging and COmmunication in Medicineの略で、米国放射線学会(ACR)と北米電子機器工業会(NEMA)が開発した医用画像と通信の標準規格です。

本件の問い合わせ先

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