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千葉地区共通情報

放医研、新規転写物データを含む マウスES細胞HiCEPデータベースを公開

掲載日:2018年12月26日更新
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概要

独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)重粒子医科学センター 先端遺伝子発現研究グループの安倍真澄グループリーダーらは、独自に開発したHiCEP(高精度遺伝子発現プロフィール解析)技術により、マウス胚性幹細胞(以下、ES細胞)を解析し、世界で初めて、全遺伝子の約70%に相当する発現情報を取得しデータベースとして公開しました。HiCEPを用いた遺伝子発現の解析は、従来のマイクロアレイ法などと違い、未同定の転写物及び発現量の少ない転写物の検出と、(最低1.2倍の変動までの)定量的情報を得られる特徴を持っています。今回のデータベースでは、既に検出されている14,383種類のピークに関し、由来となる遺伝子もしくはゲノム領域が、16,873種の転写物として特定されました。また、約14,000種類の既知転写物に加え少なくともこれまで知られていなかった941の転写物(alternative transcriptsなども含む)を発見しました。このなかには、これまで全く遺伝子の存在が確認されていなかった698種類の新規遺伝子座が含まれています。また、今回公開するE14細胞株データベースが、他のES細胞株の解析にも適応できる情報であることもあわせて公開しています。本データベースは、http://133.63.22.11/peakdb/tools?request=downloadで2006年12月よりダウンロード可能となっています。

データベース公開の背景

ES細胞は、全ての細胞及び組織への分化が可能なことから万能細胞とも呼ばれ、再生医療の主役として大きな期待が寄せられています。これまでに医学的に有用な種々の細胞系譜への誘導培養条件が見出されており、一方で、分化した体細胞核の初期化を通したES細胞株の樹立の可能性など、拒絶反応の問題を克服する再生医療に欠かせない成果も報告されています。さらに最近では、成熟個体の精巣からのES様細胞の樹立や、線維芽細胞を直接ES様細胞に変換できる可能性が示されるなど、ES細胞を人の臨床治療に利用するに際して、胚から細胞を取得することに対して生じていた倫理的問題も克服されつつあります。一方で、ES細胞の利用には、まだまだ多くの壁が存在しています。分子レベルでの解析は、そうした壁を取り去り、ES細胞に関する理解・応用を進めるにあたって最も有効なアプローチと考えられています。日本がこの分野をリードするためには、情報及びリソース等の整備が急務となっています。

こうした中、安倍らは、ES細胞の研究には未知転写物及び低発現転写物の検出が不可欠になるとして、独自に開発したHiCEP技術を用いて、これらの定量的情報を網羅的に取得する研究に取り組んできました(平成15年10月、プレス発表)。今回、研究グループは、従来技術が有する種々の問題点を克服する遺伝子発現プロフィール解析技術(HiCEP:High Coverage Expression Profiling analysis)を用い、マウスES細胞のトランスクリプトームを明らかにし、そのデータベースを公開しました。またデータベースの検索ソフトなども同時に公開し、外部ユーザーにとって利用しやすいシステムとしています。同技術は、全発現遺伝子の70~80%の転写物を1.2倍の発現変動の精度で観察することが可能であり、それぞれの転写物由来のシグナルはピークとして検出し、ピークの大きさそのものが発現量の情報を提供します。また、擬陽性ピークが全体の4%以下であることから、ほとんどのピークに関し、遺伝子との1:1の対応付けが可能です。

HiCEPは、未知遺伝子を含む遺伝子発現の全体像(トランスクリプトーム)の解析を可能にする初めての技術であり、従来法のように予めcDNA情報の取得を必要としない事が決定的な利点となっています。このHiCEPを用いてマウスES細胞株を解析した結果、従来の技術によりこれまで長年に渡り世界で蓄積されてきたES発現遺伝子数を大きく越える約3万4千種の転写物検出に成功しました。その中には多くの未知転写物が含まれており、タンパク質をコードしないnon-coding transcriptsも多数含まれていました。(Non-coding transcriptsは遺伝子発現制御の未知の機構に関与している可能性が高く、最近、大きな注目を集めています)

今回のデータベース公開は、マウス胚性幹細胞(ES細胞)を解析し、発現している全遺伝子の約70%に関する発現情報を公けにするもので、ES細胞研究の進展に大きく寄与すると考えられます。

今後の展開

これまで研究されてきた数種のES細胞(ES様細胞を含む)は、胚から分離されたES細胞と同等の分化能を有していますが、一方において新たながんを発生させる懸念が指摘されており、医学材料として用いる場合には、さらなる研究が必要です。これらのES細胞間での類似点・相違点を明らかにし、医学材料としての適正を分子レベルで判断するとともに、ES細胞の適切な状態管理技術を確立する観点からも、HiCEP法と今回公開されるデータベースは大きな意味を持っています。

マウスESピークデータベースおよびHiCEP法により、これまで解析が全く不可能だった多くの未知遺伝子および低発現遺伝子の網羅的発現変動観察も可能となります。再生医療、発生学の緊急課題である全能性および分化決定の分子機構解明のスピードが抜本的に変わり、それらの医学応用が飛躍的に早まることが期待されます。

本件の問い合わせ先

独立行政法人 放射線医学総合研究所 広報室
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp