琉球大学、放医研と「教育、研究及び医療の協力に関する協定書」を締結
包括的な連携・協力体制を構築
概要
国立大学法人琉球大学(沖縄県中頭郡西原町、学長:岩政 輝男)と独立行政法人放射線医学総合研究所(千葉県千葉市、理事長:米倉 義晴、以下、放医研)は、放射線医科学領域において世界をリードし、併せて優れた高度な専門的人材の育成を行い、同分野における社会のニーズに応えるべく、研究・教育及び医療にかかわる活動を連携して推進するための包括的な協力協定の締結に合意、11月12日、琉球大学本部にて締結式を行いました。
本協定は、わが国で唯一「離島医療人養成プログラム」を持つ琉球大学が放射線科学、放射線診断学および放射線治療の領域を強化・展開することを目的に、放射線防護研究、緊急被ばく医療研究、重粒子線がん治療研究、画像医学(分子イメージング)研究などで放射線と人の健康にかかわる研究を総合的に推進してきた放医研との間で、研究・教育及び医療の分野での密接な連携・協力体制を構築することを目指して締結されるものです。
今回の協定締結により沖縄県の地域医療等社会的ニーズに対応した放射線診断、放射線治療の発展が期待されます。
協定締結の背景
琉球大学は、1950年、沖縄戦により灰燼に帰した首里城の跡地に創設された、比較的新しい総合大学です。琉球大学憲章に示されているように、同大学には、広大な海域を含む島嶼地域における拠点大学として、豊かな自然環境を守り、地域社会の持続的発展に寄与することが求められています。
琉球列島は広大な海域に広がる多くの島々からなり、アジア・太平洋地域及び中国本土との交流が盛んであったことから、歴史的過程において多様な文化を開花させてきた世界的にも極めてユニークな地域です。琉球大学は、広大な海域に広がる多くの島々に住む人々に平等な医療を施さねばならないという使命を与えられており、平成17年には離島医療人養成プログラムを発足させました。このプログラムを遂行するためには、地域における医療人の育成・確保と同時に、最新の医療技術や医療機器を早期に導入するために他研究組織との連携が必須であることから、国内外の研究機関との間で協力協定の締結が進められています。今回の放医研との協定締結はその先がけとなるものです。
放医研は、昭和32年の設立以来、一貫して放射線安全と放射線の医学利用に関わる研究を実施し、平成18年4月からは、「放射線医学に関する科学技術の水準の向上」を目的とした第2期中期計画を開始しました。本計画では、優れた治療成績をあげている重粒子線がん治療研究や放射線生体影響研究、最先端の画像診断技術を駆使した分子イメージング研究等の放射線ライフサイエンス研究を推進するとともに、放射線安全や緊急被ばく医療にかかわる研究や業務を着実に実施し国民の安全と安心に寄与することを目標に掲げています。
こうした分野の研究開発業務では、放射線科学に関する広範な知の集積を図るとともに、国内外の研究機関の設備や人的資源を有効に活用することが不可欠であることから、放医研は大学をはじめとする諸研究機関と積極的に包括的な連携協力協定を締結しています。
今回締結した協定は、地域医療人の育成に必要な最新の放射線治療技術と先進医療機器の開発導入を目指す琉球大学と、基礎から臨床までを含めた放射線医学の先導的な研究機関である放医研とが、包括的な研究協力をすすめることにより、地域医療・離島医療の質を高め、ひいてはアジア・太平洋地域における放射線科学領域の研究拠点の形成を目指すものです。
連携協力の範囲と形態
今回の協定は、放射線医学分野に関する研究・教育及び医療について、両機関間で包括的に連携、協力するためのものです。具体的には下記の4項目の連携協力を実施します。
- 教職員、学生、研究生等の交流に関すること
- 研究資料、刊行物及び研究情報の交換等に関すること
- 施設、設備の共同利用に関すること
- 上記のほか両者間で合意した事項
有効期間
協定の有効期間は、締結日より平成23年3月31日までとしています。
ただし、本協定の有効満了日の1か月前までに、相互いずれからも書面をもって終了の申し出がないときは1年間延長するものとし、その後も同様となっています。
琉球大学の取組
琉球大学は、開学以来地域へ貢献する大学として、また「地域特性と国際性」を持ち未来へ発展し続ける大学として、琉球王国時代に世界と交易し発展した歴史と亜熱帯環境に基づく地域特性等に基づき、様々な研究と特色ある教育を行い、広く世界に知の貢献を行っています。
特色ある研究としては、(1)サンゴ礁海域の生物に関する研究、(2)熱帯や亜熱帯農学の研究やバイオテクノロジー、(3)先端的医学による熱帯感染症や腫瘍、さらに老化の研究、(4)地域特性を生かした工学や情報科学の研究、(5)沖縄の歴史や文化、民族学の研究、アメリカ研究等に取り組んでいます。
教育活動においては、これらの特色ある研究をふまえ、琉球大学の特色科目(沖縄の自然、文化、歴史、言語等)として開講しているとともに、幅広い教養や基礎科学を修習するため、現在、世界の56大学と交流協定を結び、英語教育の充実を計るとともに、ドイツ、フランス、スペイン語に加え、アジア諸国の言語(中国語、韓国語、タイ語、インドネシア語及びベトナム語等)の講義を行っています。
医学部附属病院の放射線医療の取組
放射線治療においては、県内の放射線治療の中核的病院として離島を含めた多くのがん患者の治療を行ってきました。その結果沖縄のがん患者には疫学的にみて、頭頸部がん、肺がん、食道がんや子宮頸がんが多いという特徴がわかってきています。昨年まで放射線治療専門医が常勤する県内唯一の病院であったことも相まって、多数の治療症例の解析による優れた臨床研究結果を国内外で発表しています。最近では放射線治療を中心とした多施設共同臨床試験にも積極的に参加するなど、放医研を含めた県外の研究施設との交流も加速しています。更に、放射線治療抵抗性低酸素細胞の関連遺伝子探索等のトランスレーショナルリサーチに関しても積極的な取組が開始され、徐々に業績をあげつつあります。
放射線診断においては、県内の放射線診断医の診断能力向上を目指して、多数の研究会や勉強会を主催しています。また、画像診断学の研究も推進し、特に肺がんを主体とする胸部画像診断学では、優れた研究成果を発表しています。また、IVRによるがん治療法の開発にも着手し、斬新な骨盤内閉鎖循環下抗がん剤灌流療法による進行大腸がん、前立腺がんなどの治療成績は県内だけではなく国内からも注目を浴びています。
放医研の取組
放医研は、放射線による人体への影響と障害予防、診断・治療方法の開発、並びに放射線の医学利用に関する研究開発を総合的に行う我が国唯一の中核的研究機関として、主に下記の4分野での独創的で先進的な業務に取り組んでいます。
放射線防護研究分野:環境における放射性物質の動態と低線量放射線影響研究や発達期被ばく影響、宇宙放射線による生体影響に関する研究など放射線防護基準策定に寄与する研究を実施しています。国際原子力機関(IAEA)の協力センターにも選定されるなど、国際的な基準・規制策定等にも寄与しています。
緊急被ばく医療研究分野:我が国の緊急被ばく医療体制の中核機関(中央防災会議の定める三次被ばく医療機関)として位置付けられ、急性放射線障害の機構・治療研究や緊急時の線量評価研究及び除染剤・防護剤研究において多くの成果を挙げるとともに、先のJCO臨界事故時には三人の被ばく患者を受け入れる等、具体的な貢献も行ってきています。
重粒子線がん治療研究分野:独自に開発した重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いたがん治療、特に難治性がんの治療研究については、世界的に高く評価されています。その他、重粒子線がん治療装置の小型普及機開発に向けた研究や、ゲノム診断研究、粒子線生物研究、先端遺伝子発現研究といった基礎研究にも注力しています。
分子イメージング研究分野:世界的な分子イメージング研究の隆盛とともに、平成17年度に文部科学省の分子イメージング研究プログラムのPET疾患診断研究拠点に採択されたことを受け、当該分野の優秀な人材を集中させることによって、国際的にも最高レベルの研究センターとするための研究開発に注力しています。
これらの研究は、人類の健康の維持と安全・安心な社会を構築する上で極めて重要であり、今後とも放射線に関する総合研究機関として、放射線安全や医学利用に関する研究成果の世界への発信と、緊急被ばく医療体制及び国際的基準の枠組み整備に貢献するべく取り組んでいきます。
本件の問い合わせ先
独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報室
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp