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放射線を3秒で測定 計測速度を従来型の10倍高速化した放射線検出器を開発

掲載日:2018年12月26日更新
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放射線を3秒で測定
計測速度を従来型の10倍高速化した放射線検出器を開発
-原子力施設の日常管理や緊急時の測定に威力を発揮-

概要

国立研究開発法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴、以下、放医研)、応用光研工 業株式会社(社長:江原 直行、以下、応研)、および株式会社天野研究所(社長:天野 豁、以下、天野研)は、原子力の事故、放射線の事故などで飛散する放射性物質から放出されるガンマ線(γ線)やベータ線(β線)を予測処理という手法を用いて、従来型のサーベイメータで必要な測定時間の約1/10の3秒以内の計測を可能とすると共に、これを搭載した、原子力施設等の汚染検査を自動的に行うことができる、自走式ロボット測定装置の試作機を完成させました。

この新型サーベイメータは自然レベルから高濃度汚染レベル*1の放射線まで測定可能です。この新型サーベイメータを用いることにより、例えば原子力防災に必要な広範な場所における汚染(自然レベルの3倍以上)の発見や被災者の汚染検査などに威力を発揮するのみならず、日常の放射線管理にも大いに貢献するものと期待されます。

なお、今回の新たな放射線検出器に関わる技術について、関連特許を出願いたしました(特願:2009-14790、再公表:2006―090634、特開:2008-101922)。

背景・方法・結果

原子力関連の機器の管理区域外への搬出、管理区域内の汚染検査、事故時に飛散した放射性物質による汚染の検査をする場合、現在サーベイメータを始めとする可搬型の放射線検出器を作業者が手で持ち運んで計測を行っています。しかし、サーベイメータを移動させながら汚染場所を探し、汚染していると思われる場所でサーベイメータをかざしても、30秒ほどその場を動かないで計測を行う必要がありました。これは安定して正確な計測を期すためには欠かせない手順で、体温計で体温を計測する時に約1分間程度の時間を必要とするのと同じです。この1箇所の測定で30秒もの時間を要することは、広範囲を短時間で汚染検査しようとする場合の大きな課題となっていました。そこで放医研、応研と天野研は共同研究を進め、サーベイメータが放射線を感受して、その線量値を表示し始める初期段階の3秒程度のデータから予測応答原理*2によって最終的な指示値を素早く予測する方法を発明し、試作機を製作しました(図1)。

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図1 新たに試作・開発した放射線検出器(サーベイメータ)
(サイズ:縦22cm、横16cm、重量3.5kg)

この新型サーベイメータの具体的な原理は次の通りです。計測を開始してから0.1秒ごとに線量値を記録し、その連続した2点の値から最終値を次々に予測していきます。最初のうちはこれらの予測値の差は大きく、安定しませんが、この動作を繰り返していくうちに3秒程度で予測値の差がほぼ無くなり、安定した値になってきます。この安定状態になったときに計測値として表示します(図2)。

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図2 試作放射線検出器(サーベイメータ)による実際の放射線測定結果の波形

  • 被検用放射性物質:ストロンチウム90(法規制外の微弱な線源)
  • 縦軸:出力(計数値)1分当たりで換算するといくつ計数したかという数値
  • 横軸:時間で秒単位
  • 青:予測値は5倍以上高感度、2秒で応答
  • 赤:従来の値、低感度、その場で30秒待つと青の予測値になる。

この予測処理の原理は、サーベイメータの検出感度*3を従来型の5倍にまで高めるのに貢献しています。この処理システムを組み込んだ試作機を用いた、バリウム133(γ線を出す放射性物質)、ストロンチウム90(β線を出す放射性物質)、コバルト60(β線とγ線を出す放射性物質)による模擬汚染検査を実施した結果、汚染が極めて少ない場合(0.8Bq/cm2)*4でも十分検知できることを確認しました。

また、従来型のサーベイメータを用いる未知の汚染箇所の検知では、サーベイメータを移動させながら探すのですが、静止状態での表示値を100とすると、移動時はその値が10~20程度まで激減します。これは従来型のサーベイメータで安定した値を得るためには、上記のように30秒程度の計測時間を必要とするためですが、これが熟練者以外の測定者が汚染を検査する場合の汚染箇所の発見を難しくする要因となっていました。今回試作したサーベイメータでは、この従来の汚染検査の欠点を克服し、計測速度を10倍も高速化できたことから、サーベイメータを移動しながらでも最終的な計測値を正確に予測できるので、誰にでも容易に汚染場所を発見ができるようになりました。

このように本サーベイメータは簡便な測定器として、原子力発電所、再処理工場などの原子力施設等で広範囲を短時間で汚染検査するとか、多くの作業員等の汚染の有無を迅速に調べることが必要となる場合、さらに、それらの施設に十分な人数の放射線計測の専門家がいない場合において特に、その威力を発揮することが期待されます。また、これらの施設での使用を想定し、汚染検査用の自走式ロボット測定器も同時に試作しました(図3)。

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図3 試作した自走式ロボット測定装置

(ロボットサーベイメータ、直径30cm程度、重量10kg程度、秒速1mで動き回り、原子力発電所等の管理区域の日常の汚染検査の作業に活躍が期待できる)

用語解説

*1 自然レベルから高濃度汚染レベル

測定範囲(ダイナミックレンジ)は1分間当たり200個(自然レベル)~10万個(高濃度汚染レベル)。

*2 予測応答原理

検出器の出力(最終応答まで30秒程度が必要)が出始めた初期段階の2つ時刻、t1とt2の時のそれぞれの出力値N1、N2用いて最終値N0を、N0=N1+(N2-N1)/(1-C)及びC=e-(t2-t1)/T(ここで、t2-t1=0.1秒)で予測する原理。Tは出器の応答を表す時定数(例えば10秒)を表す。

*3 検出感度

図2のように従来の検出器の出力(計数値)は秒速5cmで移動させた場合400程度であるが、この検出器では予測処理の工夫をしたため2000程度の大きな出力が得られている。今回の場合、5倍程度の出力が得られ、この状態を高感度と呼ぶ。

*4 0.8Bq/cm2

単位面積(cm2)当たりの放射能(Bq:ベクレル、1秒当たりいくつの原子核が壊れるかを示す)が0.8Bqであることを示す。4Bq/cm2を超える汚染がある場合、汚染した物は放射線管理区域から外に持ち出せない。それよりも5倍も厳しい値を原子力発電所では採用している。

問い合わせ先

国立研究開発法人 放射線医学総合研究所 広報課
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:05;nfo@nirs.go.jp