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千葉地区共通情報

重粒子線がん治療登録患者数、延べ4,000名を突破

掲載日:2018年12月26日更新
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重粒子線がん治療登録患者数、延べ4,000名を突破
先進医療患者数が増加、一般医療としての認知が進展

概要

重粒子医科学センター(鎌田正センター長)において、重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いて1994年6月より開始した重粒子線がん治療の延べ登録患者数は、2006年11月、3,000名に到達し、その後も順調に患者数が増え、2007年度末には3,819名に、そして、このほど、4,000名を突破(4,007名)しました(図1)。

登録患者数4,007名を部位別に見ると、前立腺672名(同399名)を筆頭に、肺511名(同25名)、頭頸部475名(同188名)、骨軟部腫瘍416名(同242名)、肝臓258名(同57名)などの順になっています(図2)。先進医療*1については、開始した2003年度の登録患者数は56名でしたが、その後年々増加し2007年度には476名になっています。先進医療の下で登録患者数の増加が続いていることは、固形がん治療の第一選択肢として重粒子線治療を希望する患者が年毎に増加していることを示すものであり、一般医療としての認知が進んでいるものと注目されます。

背景

1994年度、患者数21名の臨床試験でスタートした重粒子線がん治療は、毎年3月に開催される所外学識経験者、部位別研究班、臨床試験統括者によるネットワーク会議の厳正な評価のもとに優れた治療成績を残し、登録患者数は右肩上がりに推移してきました。特に、2003年10月の厚生労働省による高度先進医療の承認以降は、先進医療による登録患者数の増加が進んでいます。

こうした中で、研究の進展に伴い肺癌や肝臓癌を中心により少ない照射回数でも高い治療効果が得られることが判明し、他の疾患でも照射回数(治療期間)の短縮が図られ、結果として登録患者数の増加に貢献してきました。照射回数(治療期間)の短縮は、固形がん治療において、外科治療と並ぶ第一選択肢としての重粒子線治療の可能性を大きく高め、難治性患者の身体的負担を軽減すると同時に、重粒子線治療の普及に向けて、重粒子線がん治療施設を効率的に運用する面からも極めて大きな利点と考えられます。また、これまでに肺など呼吸とともに動く部位への照射システムの開発や、より優れた線量分布を生み出す積層照射法*2を開発するなどより高度な治療が可能となっています。

今後の展開

放医研が1994年6月から開始した重粒子線治療の実績は日本国内に留まらず、海外においても注目されています。特にヨーロッパ諸国における評価は高く、既に原子核実験用の重イオンシンクロトロンを用いて治療を開始しているドイツ・ダルムシュタットの重イオン科学研究所(GSI)の他、ドイツ(ハイデルベルグ大学他2カ所)、イタリア、オーストリア、フランスおいて炭素イオン線を用いた治療を目指した新しい施設の建設計画が進行しています。また、全世界の粒子線治療を推進している研究者が集まり研究情報の交換を行う国際粒子線治療共同グループ(PTCOG)*3(チェアマン:放医研辻井博彦理事)の会合が、昨年には中国で開催され、今後、アジア諸国においても重粒子線治療の普及、展開が図られるものと期待されます。

こうした中、放医研による重粒子線治療の登録患者数が4,000名に達したことは、世界に類を見ない臨床治療データ数を蓄積するもので、日本(放医研)が国際的に重粒子線治療を牽引する顕著な優位性を示すものとして注目されます。

また、国内においても、群馬大学における重粒子線治療装置小型普及機の建設や人材育成など、重粒子線治療の普及に向けたさまざまな取り組みが進んでいます。

さらに、放医研の重粒子線治療の実績や成果、国際的な動向を背景に、放医研では、より高度な重粒子線治療を目指した次世代照射システムの開発を進めています。稼働中の治療照射施設に加えて、3次元ビームスキャニング*4装置が搭載された水平・垂直照射ポートを配置した2つの照射室などを備えた、新たな治療照射施設の建設に着手することとしています。これらの開発により、より一層、確実でしかも患者の身体的負担の少ない重粒子線治療に進展していくものと注目されます。

放医研における重粒子線治療の登録患者数推移
(図1)放医研における重粒子線治療の登録患者数推移
放医研における重粒子線治療の部位別登録患者数
(図2)放医研における重粒子線治療の部位別登録患者数

用語解説

*1 先進医療

厚生労働大臣が定める保険に収載されない高度の医療技術を用いた療養。有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用が可能。

*2 積層照射法

放医研が独自に開発した照射装置制御方法で、多数の層状に分割した腫瘍のそれぞれに対して適切な照射野を形成して連続的に照射する。従来と同じ照射装置を用いながら従来よりも腫瘍の3次元形状に合わせた線量分布形成ができるため、さらなる治療効果向上と副作用低減が期待されている。現在までに積層照射法を治療に利用しているのは世界的にもHIMACだけだが、建設中の群馬大学施設も採用する。

*3 国際粒子線治療共同グループ(PTCOG)

PTCOGは、Particle Therapy Cooperative Groupの略称。
粒子線治療を行っている研究者が集まって情報交換を行うために設立された国際会議で、既に30年以上の歴史を有している。設立当初は参加者が50人前後の比較的小さな国際会議であったが、世界的な粒子線治療の進展に伴い、これに従事する研究者や事業者等の参加メンバーが急増し、同分野を代表する国際会議に成長した。会議でのプログラムは、生物学、物理学、臨床医学など粒子線治療に関連する全ての分野がカバーされている。2006年10月、第4代チェアマン(任期3年)に放医研辻井博彦理事が選出されている。本年の会議は5月に米国フロリダ州ジャクソンビルで開催され約700人が参加している。

*4 3次元ビームスキャニング

加速器から取り出した細いビーム(鉛筆程度の太さなのでペンシルビームと呼ばれる)を極力そのままの形状で用い、電磁石とエネルギー吸収体でビームの位置と体内到達深度を高速に制御して、腫瘍の3次元形状を塗りつぶしていく要領で実施する照射方法。従来方式では、まず細いビームを直径20cm程度の平坦域をもつ広いビームに加工し、それを機械的に可能な範囲で腫瘍形状に合わせて切り出して利用しているが、それに比べて積層照射法以上の線量分布の良さ、ビーム利用効率の向上、腫瘍毎に機械加工する照射器具が不要などの利点がある。