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千葉地区共通情報

世界初、iPS細胞の出現の瞬間が見えた!―iPS細胞への転換メカニズム解明に大きな前進―

掲載日:2019年2月8日更新
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独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉 義晴)
重粒子医科学センター 先端遺伝子発現研究グループ
安倍 真澄グループリーダー
荒木 良子チームリーダー
(兼任:独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的 創造研究推進事業さきがけ)

概要

iPS細胞誕生の動画はこちら mp4版(1)

iPS細胞誕生の動画はこちら mp4版(2)

長時間にわたって細胞ひとつひとつを時系列的に動画として記録する方法を用いて、世界で初めてiPS細胞出現の瞬間の撮影に成功しました。この映像から、体細胞からiPS細胞への変化は、早いものではiPS化の処理後数時間で始まり、48時間以内にはiPS化するほとんどの体細胞で変化が始まっていることがわかりました。この研究成果は、iPS細胞の生成メカニズムの解明に大きな前進をもたらすものであり、今後、より安全なiPS細胞の作製やiPS化促進因子の発見などにも貢献するものと期待されます。
本成果は、幹細胞学の国際誌『Stem Cells』に近く掲載されます。
また、iPS細胞が出現する瞬間の動画は放医研ホームページからダウンロードできます。

本研究の一部は、独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「iPS細胞と生命機能」研究領域(研究総括:西川伸一)における研究課題「iPS法と核移植法の比較による初期化機構の解明」(研究者:荒木良子)の一環として行われたものです。

研究の背景と目的

京都大学・山中教授らの研究グループが体細胞に4つの因子を導入することにより、あらゆる組織や臓器の細胞に変化できる可能性を持つiPS細胞を樹立して以来、医学応用のための様々な研究が行われてきました。その中で最も注目されている研究のひとつが「安全な(移植してもがん化しない)iPS細胞の樹立法」で、これにはがん遺伝子であるc-Mycを用いない方法などが次々に報告され、大きな進展がありました。しかしながら一方、iPS細胞化の基本的なメカニズム解明に向けた取り組みは多くありません。その主な理由は、iPS細胞の出現がおよそ1000分の1と低頻度の現象であり、どの細胞が将来iPS細胞に変化するか予測できないことから、時系列での細胞生物学・生化学的解析が極めて困難なためです。これを解決するには、数多くの体細胞がiPS細胞に変化していく様子を連続して観察する事が重要です。

研究手法と結果

研究グループは、「いつ、どのような体細胞が、どのようにiPS細胞へ転換するのか?」に答えるため、「iPS化の瞬間」の撮影を試みました。

本研究には、マウス胎児線維芽細胞にレトロウイルス感染によって4つの因子を導入し、細胞培養装置でiPS細胞化する実験系を用いました。通常、マウス胎児線維芽細胞を用いる場合、因子導入後、約2週間で境界が明瞭なiPS細胞コロニー(iPS細胞の塊)を観察できます。しかしながら、開始時点ではどの細胞がiPS細胞になるか不明なため、ねらいを定めることができず、広い視野の撮影を余儀なくされます。

詳細な画像解析を行うため、細胞培養装置に顕微鏡システムが組み込んだ装置を用い、細胞分裂した後も各々の細胞を追尾できる短いインターバルでの撮影も可能としました。そして、「10分前後のインターバル」「広い視野」「2週間の撮影」による80万個、600GB以上という膨大な画像数の処理を可能としました。2週間後、最終的にiPSコロニーが出現した部分について、過去に遡って観察(バックトラッキング)を行い、「どの細胞がiPS細胞の祖先の細胞であるか」、「その祖先の細胞からiPS細胞はいつ生じるか?」、「そのときの形態は?」について解析を試み、最終的に28個のiPS細胞コロニーについて完全な解析に成功しました。

その結果、以下のような事が分かりました。

  1. ほとんどの体細胞で、4因子導入後48時間以内にiPS化が起きている。また一部の細胞では、数時間でiPS化が始まる。
  2. iPS化が起こるときの細胞形状は元の線維芽細胞に近い。
  3. iPS化が起こった後は、分裂を行いながら徐々にiPS細胞コロニーの形に変わる。
  4. iPS化は始まったものの、途中で完全なiPS細胞化に失敗している細胞が多く観察された。すなわち、4因子を導入する事により、従来考えられていたより遥かに高頻度にiPS化が始まっている。

研究結果

本研究の成果と今後の展開

これまでの研究では、iPS細胞が幹細胞に特有な目印を出した後の画像は得られていましたが、体細胞がiPS化を始めた瞬間の画像は得られていませんでした。本研究によって、体細胞がiPS細胞へ変化していく全過程が世界で初めて映像として記録されました。

今後は、この実験システムを用いて更なる研究を進める事により、iPS化に関わる4因子がどのステップに関わるか、iPS化しない細胞とする細胞の違いは何かなど、iPS化の基本的なメカニズム解明が大きく進むものと期待されます。

また、この手法を応用する事により、「細胞がガン化する瞬間」「細胞が別の細胞へと分化する様子」など、現象は確認されているものの、確率が低く観察できない類似の現象に対しても有効な手段と考えられます。

用語解説

1)iPS細胞と体細胞

iPS細胞(分化多能性を有する)は、体細胞(分化多能性を有しない)に、いくつかの遺伝子を発現させることにより樹立できる。

2)マウス胎児線維芽細胞

マウスの胎児より得られる、皮膚などの結合組織に多量に存在する体細胞。生物学では一般的に用いられる実験材料である。最初のiPS細胞樹立はこの細胞を用いて行われた。

3)山中4因子とレトロウイルスによる細胞への導入

山中教授らはES細胞で重要な働きをしているいくつもの転写因子のうちOct3/4,Sox2,Klf4,c-Mycの4つを働かせるのみで、体細胞がiPS細胞化することを発見した。このとき、4つの遺伝子は、レトロウイルスベクター(マウスレトロウイルスの仕組みを利用し、外来遺伝子を細胞ゲノムに組み込ませ、恒常的に遺伝子を発現させることができる遺伝子導入システム)を用いて発現させたことが成功のひとつの鍵となった。その後、他の様々なベクターが検討されているが、多くの場合レトロウイルスベクターを用いるより効率が悪いことが報告されている。

問い合わせ先

国立研究開発法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp