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千葉地区共通情報

統合失調症の病態に脳内炎症が関与-統合失調症の原因解明に進歩-

掲載日:2018年12月26日更新
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独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉 義晴)
分子イメージング研究センター※1
菅野 巖センター長、須原 哲也グループリーダー、
高野 晶寛 研究員(現・カロリンスカ研究所、スウェーデン)
日本医科大学(学長:田尻 孝)精神神経医学教室
大久保 善朗 教授の共同研究

概要

陽電子断層撮影(PET※2)装置を用いた統合失調症患者の大脳皮質の研究により、脳内の免疫系に関連するミクログリアの活性化の度合いが、症状や罹病期間と関連することを世界で初めて明らかにしました。
この結果は、脳内免疫系が統合失調症のような精神疾患においても関与している可能性を示すものであり、今後の統合失調症の原因解明や治療法の開発に貢献するものと期待されます。

本研究は放医研および日本医科大学との共同研究による成果で、英国の精神神経薬理学の専門誌『The International Journal of Neuropsychopharmacology』のオンライン版に本日(3月31日)に掲載されました。

研究の背景と目的

統合失調症は、人口の約1%が罹患するとされており、幻覚、妄想、無為、自閉、認知機能障害等の様々な症状が認められます。しかし、その原因については不明な点が多く、まだ十分に解明されておりません。これまで報告されているド-パミンなどの神経伝達系の変化だけでなく、脳内の炎症反応や免疫系の変化も統合失調症の原因であるとする仮説がありました。

脳内の免疫防御を担っている細胞のミクログリアは、脳内で炎症などがおきると、形を変えて活性化し、神経細胞の修復を助けるような様々な成長因子や、逆に細胞を傷害する複数の因子を放出することがあります。この活性化したミクログリアには、末梢性ベンゾジアゼピン受容体と呼ばれる分子が発現します。近年、放医研で開発された、[11C]DAA1106というPETプローブ※3は、その末梢性ベンゾジアゼピン受容体に強く結合するために、脳内のミクログリアの活性化を測定することが可能です。これまでに、このPETプローブを用いてアルツハイマ-病で脳内の活性化したミクログリアの量が増加していることを報告しています。

本研究では、この[11C]DAA1106を用いて、脳内の活性化したミクログリアを測定し、統合失調症患者と健常対照者を比較しました。さらに、臨床症状や罹病期間との関連を検討することで、統合失調症の背景に脳内の免疫系が関与しているかどうかについて研究を進めてきました。

研究手法と結果

1)研究方法

本研究では、14名の統合失調症患者と14名の健常対照者に、[11C]DAA1106を用いたPET検査を行い、脳内の末梢性ベンゾジアゼピン受容体の量(結合能)を測定しました(図1)。患者群には、罹病期間などの聴取を行い、統合失調症の症状評価で最もよく使われる指標であるPANSS※4を用いて、検査当日の臨床症状の評価を行いました。患者と健常者で脳内の末梢性ベンゾジアゼピン受容体の量を比較し、患者群ではPANSSの得点との関連を検討しました。

[11C]DAA1106のPET画像
[11C]DAA1106のPET画像(MRI画像に重ね合わせて表示)。

2)結果

脳内の末梢性ベンゾジアゼピン受容体の量について、統合失調症患者群と健常対照群との比較では有意な差は認められませんでしたが、患者群では脳内の末梢性ベンゾジアゼピン受容体の量と幻覚や妄想といった陽性症状との間に正の相関が認められました(図2)。

統合失調症患者群の大脳皮質[11C]DAA1106結合能とPANSS陽性尺度の画像
図2 統合失調症患者群の大脳皮質[11C]DAA1106結合能とPANSS陽性尺度。

本研究の成果と今後の展開

統合失調症患者群では幻覚や妄想といった陽性症状が強いほど脳内末梢性ベンゾジアゼピン受容体の量が増加していました。これは、統合失調症の脳内で、症状に関連して免疫系の変化がおきていることを表していると考えられます。統合失調症などの精神疾患では、原因が不明なものがいまだ多く、客観的な指標に乏しいことが現実です。今回の成果のように、脳内免疫系を調べることで統合失調症の発症に関わる新たな脳内メカニズムが見つかる可能性があり、それらをターゲットとしたこれまでにない治療薬が開発される可能性があります。今後、分子イメージング技術を用い、精神疾患の原因解明や治療法の開発に貢献していきます。

用語解説

※1)分子イメージング

生体内で起こるさまざまな生命現象を外部から分子レベルで捉えて画像化することであり、生命の統合的理解を深める新しいライフサイエンス研究分野。
体の中の現象を、分子レベルで、しかも対象が生きたままの状態で調べることができる。がん細胞の状態や特徴を生きたまま調べることができるため、がんができる仕組みの解明や早期発見を可能とする新しい診断法や画期的な治療法を確立するための手段として期待されている。放射線医学総合研究所(放医研)分子イメージング研究センターは、文部科学省委託事業分子イメージング研究プログラムのPET疾患診断研究拠点として研究活動を行っている。

※2)PET

Positron emission tomographyの略称で、陽電子断層撮像法のこと。陽電子断層撮像(PET)装置は、画像診断装置の一種で陽電子を検出することにより様々な病態や生体内物質の挙動をコンピューター処理によって画像化する技術。

※3)PETプローブ

陽電子断層撮像(PET)装置を用いて画像診断を行うために必要な放射性薬剤(放射性同位元素で標識された化合物)のうち、腫瘍や精神・神経疾患の診断・検査等で用いられるものを指す。測定したい機能の種類に応じて適切なPETプローブを選択するが、本研究では[11C]DAA1106を用いている。

※4)PANSSの指標

Positive and Negative Syndrome Scaleの略称。統合失調症の症状評価で最もよく使われる指標のひとつ。陽性尺度、陰性尺度、総合精神病理評価尺度の3カテゴリーからなる。陽性尺度には妄想や幻覚による行動、興奮などの項目が含まれる。

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