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パーキンソン病における認知機能障害の原因解明に進歩~パーキンソン病では病初期より認知症に関与する神経障害がある~

掲載日:2018年12月26日更新
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【陽電子断層撮影装置による脳機能研究】
パーキンソン病における認知機能障害の原因解明に進歩
~パーキンソン病では病初期より
認知症に関与する神経障害がある~

独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)
分子イメージング研究センター※1
菅野巖センター長、須原哲也グループリーダー、島田 斉研究員
千葉大学(学長:齋藤 康)
医学研究院神経内科 桑原 聡教授の共同研究

概要

陽電子断層撮影(PET※2)装置を用いて、パーキンソン病患者の脳内では、病初期より大脳皮質のアセチルコリンエステラーゼ活性が低下していること、また、その活性の程度が、パーキンソン病における認知機能障害の重症度と関連することを明らかにしました。これらの研究成果は、パーキンソン病における認知機能障害の原因の一部を明らかにするものであり、今後パーキンソン病の原因解明や治療法の開発に貢献することを期待しています。

本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金によって実施され、放射線医学総合研究所と千葉大学の共同研究により研究成果が得られたものです。この成果は、神経科学・医学の分野で特にインパクトの大きい論文が数多く発表されている米国の神経内科学雑誌「Neurology」2009年7月28日号に掲載されました。

研究の背景と目的

パーキンソン病は高齢者に多く、65歳以上ではおおよそ100人に1人が発症するとされています。本邦でも人口構成の高齢化に伴い、患者数は増加しています。典型的には、振戦(手足の震え)、筋強剛(関節の抵抗が大きくなる症状)、寡動・無動(動作が緩慢になったり、動けなくなったりする症状)、姿勢反射障害(バランスが悪くなる症状)等のさまざま症状が認められます。
これまで、パーキンソン病では認知機能障害は認められないと考えられていましたが、病気の進行に伴い認知症が出現してくる例があることや、病気の初期からさまざまな認知機能障害が認められる例があることが注目されるようになっています。しかし、その原因については解明されていません。
認知機能障害がおこる理由として、アセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が関与する神経系(コリン神経系)の障害が想定されています。これまでのPETを用いた研究では、パーキンソン病患者においては、大脳皮質のコリン神経系の機能低下があること、認知症を伴う症例においては、より重度の障害を認められることが報告されてきました。しかし、パーキンソン病患者において、どの時点からコリン神経系の障害が認められるかということや、コリン神経系の障害と認知機能障害の程度との関連に関する研究はこれまで行われていませんでした。
本研究では、放射線医学総合研究所で開発された[11C]MP4AというPETトレーサー※3を用いて、パーキンソン病の発症3年未満の早期例、発症3年以上で認知症を伴う症例と伴わない症例など、さまざまなパーキンソン病患者群と健常対照者群のコリン神経系の機能の指標である脳内アセチルコリンエステラーゼ活性を測定し、各群を比較しました。また、臨床症状指標との相関を調べることで、パーキンソン病における認知機能障害の原因を探ることを目的としました。

研究手法と結果

1)研究方法

さまざまな病期の認知症を伴わないパーキンソン病患者18名と、認知症を伴うパーキンソン病ならびにレヴィ小体型認知症患者※421名、および健常対照者26名を対象に[11C]MP4Aを用いたPET検査を行い、脳内のコリンエステラーゼ活性を測定しました(図1)。同時に、全被験者でMMSE※5による認知機能障害の評価を行いました。脳内のさまざまな部位でのコリンエステラーゼ活性を比較し、患者群ではMMSEの得点との関連を検討しました。

脳内の[11C]MP4AによるPET画像。
図1 脳内の[11C]MP4AによるPET画像。

2)結果

パーキンソン病患者群では、健常対照と比較して約12%の大脳皮質コリンエステラーゼ活性の低下が認められ、特に後頭葉内側面において顕著であることが確認されました。未治療の早期パーキンソン病群においても同様の傾向が認められました。認知症を伴うパーキンソン病並びにレヴィ小体病群においては、さらに広範で重度の大脳皮質コリンエステラーゼ活性の低下(約23-27%)が認められました(図2)。また、患者群の大脳皮質コリンエステラーゼ活性とMMSEの総得点との間には、正の相関が確認できました(図3)。

健常対照群と比較した患者群の脳内コリンエステラーゼ活性の低下部 位。
図2 健常対照群と比較した患者群の脳内コリンエステラーゼ活性の低下部位。
(Shimadaら、Neurology、2009年より改変。)

患者群のMMSEの総得点と大脳皮質コリンエステラーゼ活性。
図3 患者群のMMSEの総得点と大脳皮質コリンエステラーゼ活性。
(Shimadaら、Neurology、2009年より改変。)

本研究成果と今後の展望

健常対照群に比べると、パーキンソン病群の脳内アセチルコリンエステラーゼ活性は、未治療の早い時期から状態から低下している。認知機能障害が重度になればなる程、コリンエステラーゼ活性が低下傾向にある。という結果が得られました。これらの結果から、パーキンソン病患者の脳内コリン神経系は病気の初期より障害されており、この障害がパーキンソン病における認知機能障害に関与していると考えられます。本結果は、パーキンソン病における認知機能障害の原因の一部を明らかにするものと考えています。

パーキンソン病をはじめとする神経疾患は、未だ原因不明なものが多く、また通常のCTやMRIによる検査では客観的な異常を認めない疾患もありますが、今回の研究成果のようにPETを用いた神経疾患の原因解明は、新たな治療法の開発に大きく貢献すると期待しています。

用語解説

※1)分子イメージング研究

生体内で起こるさまざまな生命現象を外部から分子レベルで捉えて画像化すること。生命の統合的理解を深める新しいライフサイエンス研究分野。放医研ではPET(陽電子断層撮像法)およびMRI(核磁気共鳴撮像法)装置を用いて腫瘍イメージング研究や精神・神経疾患など4つの分野について研究を行っている。

※2)PET(陽電子断層撮像法)

Positron emission tomographyの略称。画像診断装置の一種で陽電子を検出することによって様々な病態や生体内物質の挙動をコンピューター処理によって画像化する技術。

※3)トレーサー

PET装置のがん診断・検査に使用する放射性物質(ポジトロン標識薬剤)。一般的な標識薬剤は、[18F]FDG(フルオロデオキシグルコース)、[18F]フルオロドーパ、[11C]メチオニン、などがある。[11C]MP4Aは、アセチルコリンと類似した化合物であり、脳内の局所のコリンエステラーゼで加水分解を受けて捕捉されることで、コリンエステラーゼ活性を測定する事ができるPET検査用のトレーサーである。

※4)レヴィ小体型認知症

鮮明な幻視を伴う認知症が出現し、発症後1年以上してからパーキンソン病に類似した身体症状が出現する疾患。現在認知症を伴うパーキンソン病との異同が議論されている。

※5)MMSE

Mini-mental state examinationの略称。様々な認知症の症状評価で最もよく使われる指標のひとつ。認知症を伴わないパーキンソン病においても、注意力障害などの認知機能障害のため、部分的な失点が見られることがある。

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