現在地
Home > 千葉地区共通情報 > 須原グループリーダーらのチームがベルツ賞を受賞

千葉地区共通情報

須原グループリーダーらのチームがベルツ賞を受賞

掲載日:2018年12月26日更新
印刷用ページを表示

ベルツ賞

第46回(2009年度)ベルツ賞の1等賞に、分子神経イメージング研究グループ須原哲也グループリーダーらの研究チームの論文が選ばれ、2009年11月18日、東京・広尾のドイツ大使公邸で贈呈式が執り行われました。

ベルツ賞は、日本の近代医学の発展に寄与したドイツ人医師エルウィン・フォン・ベルツ博士の名を冠し、1964年ドイツの製薬会社べーリンガーインゲルハイムが創設した非常に権威ある医学賞です。

毎年特定のテーマに沿って学術論文の募集を行い、優れた論文に対して賞が贈呈されています。今年の募集テーマは、「精神疾患-うつ病、統合失調症など-」で、須原グループリーダーらの受賞論文は「精神疾患の病態解明と客観的治療評価に向けたPETイメージング研究」と題し、陽電子断層撮像法(PET)を応用し、統合失調症で脳内のドーパミン伝達に異常があることを報告するなどしたものです。

放医研が文部科学省のPET疾患診断研究拠点として推進する分子イメージング研究や精神神経疾患研究が高く評価されたものであり、今後もより一層の発展が期待されます。

なお、受賞されたのは以下の方々です。

  • 須原 哲也1)グループリーダー
  • 大久保 善朗2)主任教授
  • 安野 史彦1)研究員
  • 高野 晶寛1)研究員
  • 高橋 英彦1)主任研究員
  • 荒川 亮介1)2)研究員
  • 一宮 哲哉1)2)研究員
  • 伊藤 浩1)チームリーダー
  • 加藤 元一郎3)准教授
  • 樋口 真人1)チームリーダー
  1. 放射線医学総合研究所
    分子イメージング研究センター分子神経イメージンググループ
  2. 日本医科大学精神医学教室
  3. 慶応義塾大学精神神経科

べーリンガーインゲルハイム取締役会会長アンドレアス・バーナー博士か ら賞状とメダルを受け取る須原リーダーの画像
べーリンガーインゲルハイム取締役会会長アンドレアス・バーナー博士から賞状とメダルを受け取る須原リーダー

受賞された皆さん
受賞された皆さん。右から3人目が須原リーダー、4人目が駐日ドイツ大使のフォルカー・シュタンツェル閣下、5人目がべーリンガーインゲルハイム社会長アンドレアス・バーナー博士。

受賞後に挨拶をする須原リーダーの画像
受賞後に挨拶をする須原リーダー

受賞内容:

精神疾患では脳内の神経伝達機能に正常からの偏位があることが予想されて来ましたが、実際病気の脳内の、どの領域でどのような神経伝達の異常があるかについてはほとんどわかっていませんでした。須原らは、言語や行動によってのみ診断される精神疾患の臨床研究に、ポジトロンCT(PET)という非侵襲的に人間の脳内分子を画像化する技術を応用することにより、これまで生体ではアプローチできなかった精神疾患の脳内分子の測定に多くの実績を上げてきました。須原らの業績で特筆されるのは、統合失調症の病態に重要と思われていた脳内ドーパミン神経系に関し、脳の高次機能への関わりに着目した大脳皮質や視床といった脳内領域でのドーパミン神経伝達に関する研究成果です。これまでに統合失調症の前頭前野におけるドーパミンD1受容体の低下および認知機能の障害が強いほどその程度が強いことを明らかにしたのをはじめとして、前部帯状回および視床におけるドーパミンD2受容体の低下と幻覚や妄想といった症状との関係などを世界に先駆けて明らかにしてきました。特に視床におけるドーパミンD2受容体、ドーパミン生成能、ドーパミントランスポーターなどの異常を見いだしたことは、これまで仮説が先行していた統合失調症における視床の役割を裏付ける重要な成果と考えられます。また精神科薬物療法の分野では、脳内でどの程度標的分子に結合しているかを示す占有率という指標を用いて、ドーパミンD2受容体を標的とする抗精神病薬の一部に、臨床用量がきわめて過大に設定されているものがあることを明らかにし、客観的な用量設定の重要性を広く認識させたことが重要です。さらに抗うつ薬の標的部位として注目されるセロトニントランスポーターの画像化とその臨床応用を世界に先駆けて行い、抗うつ薬のセロトニントランスポーター占有率を初めて報告したのもこのグループでした。これらの方法は、その後日本で初になる第I相臨床治験でのPETによる新規抗うつ薬の用量設定試験の実施や、新規抗精神病薬の用量設定試験へと発展し、精神科領域における創薬プロセスの革新に貢献しています。また精神疾患の背景にある、人の性格傾向が脳内の神経伝達によって方向づけられていることを明らかにしてきたことも重要です。うつ病になりやすいといわれている神経質傾向と視床のセロトニントランスポーターに正の相関があるという事実は、うつ病の視床でセロトニントランスポーターが増加しているという結果とよく符合します。須原らの研究はこれまで提唱されてきた精神疾患の病態仮説を実際の臨床研究で検証、修正してきただけでなく、薬の評価方法に関してもこれまでの経験的な評価法に慣れた精神科医の認識を一変させました。これらの成果が日本で行われた臨床研究の成果として世界に発信されたことは、日本の精神医学の大きな業績と考えられます。