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量子生命・医学部門

革新的放射線モニタリングシステム「ラジプローブ(仮称)」を開発

掲載日:2018年12月26日更新
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革新的放射線モニタリングシステム「ラジプローブ(仮称)」を開発
ー緊急車両等に搭載し、そのエリアの放射線量、エネルギーの情報、位置情報などが、遠隔地でリアルタイムに確認可能ー

2011年10月18日
独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)
研究基盤センター情報基盤部情報基盤システム課 四野宮貴幸
緊急被ばく医療研究センター被ばく線量評価部生物線量評価室 高島良生
研究基盤センター安全・施設部安全計画課 宮後法博

本研究成果のポイント

  • 緊急車両に放射線計測器を搭載し、放射線量、エネルギーの情報、測定位置、現場映像を遠隔地の災害対策の拠点からリアルタイムに確認できるシステムを開発
  • 初動対応者の被ばく低減化にも有効
  • 特定エリアの汚染状況も非常に容易に把握できる。スマートフォンにも対応し、市内、町内だけでなく公園の汚染マップ作成も可能

 原子力災害時の混乱している状況下において、放射能汚染や現場の状況を素早く把握することが非常に重要であることが、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故を通じての教訓となっています。

 独立行政法人 放射線医学総合研究所(以下「放医研」)の四野宮主任技術員らのグループは、市販の放射線検出器、GPSユニット、通信機器等と独自開発のソフトウエアを組み合わせることにより、革新的な放射線モニタリングシステム『ラジプローブ』(仮称)を開発しました。このシステムは、検出器を搭載した緊急車両を走行させることにより、走行ルート上の放射線量、放射性物質の種類を知るのに必要なエネルギーの情報(エネルギースペクトル)、走行中の地図上の位置と実際の映像を、例えば災害対策の拠点に置かれたパソコンにおいて、リアルタイムに表示することができます。本システムは衛星通信も使用することが可能で、地上の通信回線が不通の場合にも使用することができます。さらに、初動対応者に避難の必要性が生じた場合には、避難指示を出すことも可能で、初動対応者の安全確保に非常に有効です。

 本システムは、原子力災害現場だけでなく、現在求められている地域や公園等の汚染状況の把握にも有効です。車や自転車、徒歩で移動することにより、現地の画像付きでリアルタイムに汚染状況が把握できると共に、空間線量率マップの作成にも使用できます。線量情報、エネルギーの情報、位置情報、現地の映像が相互にリンクしており、計測終了後に線量グラフから放射線の高い位置を特定したり、逆に、特定の位置の放射線量や放射性核種を表示させたりすることができます。また、本システムはスマートフォン(カメラとGPS付き)にも対応しており、様々な応用が考えられます。

 本システムについては既に特許出願が行われ、平成23年10月20日から福井市の福井県産業会館等で開催される「北陸技術交流テクノフェア2011」で展示・実演されます。

研究の背景と目的

 原子力災害時の混乱している状況下において、放射能汚染や現場の状況を素早く把握することが非常に重要です。また、現地作業者の安全を図るためには、その作業位置とその空間線量の状況を、災害対策の拠点でリアルタイムに把握し、かつ時系列的な変化を確認しながら、効率的に放射線量を計測できるシステムが求められています。

 放医研は、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に対して当初より様々な支援活動を行っています。そこで得られた様々な知見や経験を基に、電話など通常の通信が困難な状況においても使用可能で実用的な放射線モニタリングシステムの開発に取り組んできました。

研究手法と結果

 図1は、放医研が開発した革新的放射線モニタリングシステム『ラジプローブ(仮称)』の構成図です。ラジプローブ(仮称)は、現場作業者(緊急車両に搭乗する者)が携帯する市販のガンマ線スペクトロメータ※1、GPSユニット、環境監視用カメラ、情報収集・発信機器、放射線データ・位置情報・画像のデータを集積するPC、地上および衛星データ通信機器、データ集積・配信用サーバ、遠隔監視用端末より構成されます。現場作業者から送られた放射線の測定情報(線量及びエネルギースペクトル)、位置情報、現場のカメラ画像等が通信機器により、災害対策の拠点等に設置されたサーバに送られます。災害時には携帯電話の回線が使えなくなることがありますが、その場合には、衛星通信を使用することができます。送られたデータは、Webページ用に自動的に加工され、解析されたデータがインターネットを通じて、災害対策の拠点側の管理者のパソコンに送られます。

 現場のカメラ画像は、走行状況だけではなく、搭乗者の状態の把握にも使用できるほか、救護所に停車中であれば、現場の対応状況を対策本部から把握できます。

 図2は、管理者が見ているパソコンの画面です。この画面では、現在の位置情報と移動軌跡(左上)、ガンマ線線量及び中性子線線量の経時変化図(左下)、ガンマ線のスペクトル(右上)、ガンマ線及び中性子線の数値(中央下)、カメラによる現場の画像(右下)をリアルタイムに見ることができます。これらの情報は、そのパソコンのみならず、イントラネットもしくはインターネットに接続したパソコンにおいてWebブラウザで閲覧可能であるため、災害対策の拠点内部及び更に遠隔にある支援組織での情報共有が容易になります。ガンマ線のスペクトルを見ることができるので、その場所にどのような核種が存在するかを確認することができます。さらに、測定器に中性子線も測定できる装置を用いれば、ガンマ線のみでなく中性子線のカウント数も記録として残すことができ、今後1999年茨城県東海村で発生したJCO事故のような臨界事故が発生した場合にも記録をすることができます。

 対策本部はこの数値を参考にして現場作業者へ退避指示や、待機指示等の緊急メッセージを送ることができます(図3)。災害のため携帯電話が不通であっても衛星回線で利用可能です。また電話が話中の場合でもクライアント画面に緊急指令のメッセージを表示することができます。

 また、非常時に2台以上の車で活動しているときには、お互いの位置を確認することは重要です。衛星回線を搭載して音声での会話ができたとしても、土地勘のない地域で、音声通話だけでお互いの位置を確認し合うことは非常に困難です。そこで、このシステムにはリアルタイムでお互いの位置を確認し合うことができるようにしました。また、他の車両のカメラ動画も見ることができるため、他の車の事故や危険を一早く知ることができ、迅速な対応が可能です。

 もちろん、単独での使用も可能で、携帯電話、衛星回線が災害により使用不能になった場合でも、現場作業者には地図での位置情報、放射線計測の計測値、過去の計測地、車の軌跡が表示できます。これにより、孤立した状態で自力で避難する状況になった場合の助けになります。

 これらの機能を、別々のソフトウェア及び機器で実現することはフリーソフト等でも簡単に可能ですが、緊急時のように混乱した状態では使用が困難です。キーボードでメールを打つことすら困難な悪路走行中でさえも容易に作業ができるように、シンプルな1画面構成&マウス操作のみにしたこともラジプロープの特徴のひとつです。

 本システムは原子力災害時を目的に開発されましたが、現在求められている地域や公園等の汚染状況の把握にも有効です。車や自転車、徒歩で移動することにより、現場の画像付きでリアルタイムに汚染状況が把握できると共に、空間線量率マップも作成できます。線量情報、エネルギーの情報、位置情報、現場の映像が相互にリンクしており、計測終了後に線量グラフから放射線の高い位置を特定したり、逆に、特定の位置の放射線の測定情報(線量及びエネルギースペクトル)を表示させたりすることができます。また、本システムはスマートフォン(カメラとGPS付き)にも対応しており、小型の放射線計測器とセットにして非常に詳細な汚染マップを作るなど、今後、様々な応用が考えられます。

「ラジプローブ(仮称)」の概要説明図
図1:「ラジプローブ(仮称)」の概要説明図

管理クライアント画面
図2:管理クライアント画面

緊急指示画面
図3:緊急指示画面

緊急避難指示(退避場所を地図上で表示可能)、至急の連絡指示(電話番号も表示可能)、他のグループへの支援指示(他の車が故障した際など、位置を地図上で表示可能)、その場への待機指示等を画面上に出すことができます。

本研究成果と今後の展望

 本システムは、原子力災害や核テロなどが新たに発生した場合、発災現場に向かうモニタリングカーや救急車、作業者、作業ロボット等に計測装置を装着し、本システムを使用することにより、空間線量率や放射性同位元素等による汚染状況及び作業者の被ばく状況をリアルタイムに把握することができます。また経時変化から線量率の高い方面を推測し、その方面を避けるなどにより、現地作業者及び初動対応者の被ばく線量低減化にも役立ちます。さらに、線量積算機能や音声による通信機能も追加し、対策本部から避難指示等が出せるようにする予定です。これにより、初動にあたる自衛隊、消防機関、放射線関連機関での活用が期待できます。

 また、様々なエリアの汚染状況把握にも有効で、地図上の任意な地点でのガンマ線線量及びガンマ線スペクトルを容易に得ることができ、空間線量マップや放射性核種ごとの汚染マップを作成する助けとなります。ガンマ線線量の経時変化図の任意の点に該当する地図上の地点を検索することも可能なことから、特異値を探し、現地の画像などから原因を推察することも可能です。これらの用途については、自治体や広い敷地を持つ工場等での活用が期待できます。

 本システムは、現バージョンでの販売等は予定されておりませんが、今後、本件の研究成果や知財を活用し、国、自治体やIT企業等の皆様のご協力を得て、産学官連携による共同研究開発を推進いたします。これにより、本システムを内外の市場ニーズに合致した、より使いやすいシステムへ改良し、製品化に向けた取り組みを加速していく予定です。

用語解説

※1 ガンマ線スペクトロメータ

 一定時間に計測したガンマ線のエネルギーをグラフに示す装置。ガンマ線のエネルギー(単位:keV)を横軸にとり、カウント数を縦軸に示す。特定の放射性核種が放出するガンマ線のエネルギーの値は、核種によって決まっているため、ガンマ線のエネルギーを調べることで、たいていの放射性核種の種類を決定することができます。また、カウント数で決定された放射性核種のおおよその量を推定することもできます。

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