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千葉地区共通情報

脂肪肝の発症及び進行をPETでモニタリングすることに成功

掲載日:2018年12月26日更新
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脂肪肝の発症及び進行をPETでモニタリングすることに成功
―PET検査が脂肪肝の診断や進行度判定に有効な手段となる可能性―

2012年9月4日14時
独立行政法人 放射線医学総合研究所

本研究成果のポイント

  • 脂肪肝を超早期に診断できるPET薬剤[18F]FEDACを開発した。
  • マウスにおける脂肪肝の発症及び進行をPETでモニタリングすることに成功した。

 放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター※1分子認識研究プログラム分子プローブ開発チームの謝琳(しゃりん)博士研究員らは、肝硬変や肝がんにつながる脂肪肝※2を超早期に診断できるPET※3薬剤を開発し、マウスにおける脂肪肝の発症や進行をモニタリングすることに成功しました。
 脂肪肝は、食べ過ぎや飲み過ぎによって肝臓に中性脂肪やコレステロールがたまった、肝臓の肥満症ともいえる状態です。それ自体は自覚症状もなく病気の部類ではありませんが、早期に発見し生活習慣改善等の対応をすることで、肝硬変などの重篤な病気への進行を避けることができます。脂肪肝の診断には、血液検査や、超音波検査、CT、MRIなど各種画像検査が行われますが、唯一の確定診断法である肝生検は患者に負担が大きく、容易には実施できません。そのため患者に負担が少なく、より簡便で早期に発見できる診断方法が期待されています。
 今回の研究では、様々な肝疾患においてミトコンドリア障害※4が起きていることに着目し、ミトコンドリア膜に存在する特定のタンパク質に特異的に結合するPET薬剤[18F]FEDAC※5を開発しました。脂肪肝モデルマウス※6に対し[18F]FEDACを用いてPETでモニタリングした結果、脂肪肝から脂肪性肝炎、肝硬変への進行に伴い、肝臓における[18F]FEDACの集積が増加する画像が得られました。また、肝臓における[18F]FEDAC集積レベルは、脂肪肝の病理スコアと高い相関性を示しました。
 今回の研究成果をヒトへの応用を考え発展させることで、PET検査が、脂肪肝の診断や進行度の判定に対しても有効な手段となる可能性が期待できます。今回の結果の最終稿は9月4日19時(日本時間)にJournal of Hepatologyのオンライン版に掲載されます。

研究の背景と目的

 脂肪肝とは肝臓内部に中性脂肪が過剰に入り込んでいる状態をいいます。正常では3-4%ですが、脂肪肝では中性脂肪が30%以上の過剰な状態になります。脂肪肝の状態が続くと肝臓が繊維化し、肝機能が低下し、脂肪性肝炎から肝硬変を経て肝がんに移行することが分かっています。脂肪性肝炎の診断には血液検査や、超音波検査、CT、MRIなど各種画像検査は困難であり、肝生検のみが現段階では唯一の方法です。しかし、この方法は患者に負担が大きく、容易に実施できる検査法ではありません。そのため臨床では多くの脂肪性肝炎患者が存在しているのに関わらず、診断が行われず肝硬変へ進展していく患者が少なくありません。そこで、患者に優しく、判断が容易で、より早期に検出できる脂肪肝の診断方法が期待されています。
 そこで、我々は、様々な肝疾患においてミトコンドリア障害が起きていることに着目しました。肝細胞が異常に活性化した時、ミトコンドリア膜に存在するトランスロケータータンパク質(TSPO)※7が増加します。その結果、ミトコンドリア膜の透過性が強まり、中性脂肪や活性酸素が増加し、さらにはアポトーシス誘導が増加して脂肪肝に至りますが、このTSPOに特異的に結合するPETプローブ[18F]FEDACを用いることで、脂肪肝マウスの肝臓における放射能濃度を測定しTSPOの量との相関を確認することによって、マウスを大きく傷つけることなく脂肪肝の発症及び進行を鑑別できる画像診断法の開発を行いました。

研究手法と結果

 肝臓内のミトコンドリアは肝臓が行う分解や解毒などすべての処理に必要なエネルギーを通常はグリコーゲンを分解することにより作っています。脂肪が細胞の中に大量に入り込むと脂肪からエネルギーを作るようになりますが、その際、コレステロールなどに親和性の高いTSPOが増加します。そして、TSPOの増加によりミトコンドリアはより多くの活性酸素種を放出して肝細胞を傷つけてしまい、相乗的に肝細胞の状態を悪化させてしまいます。そのため時間が経つごとにマウスの肝臓は単純性脂肪肝から、炎症・繊維化へと状態が悪化していきます。
 実験に使用した脂肪肝モデルマウスは、MCD食(メチオニン・コリン欠損食:methionine/choline-deficient diet)を投与することで作製し、肝重量/体重比、血清AST/ALTなどを測定したうえで、脂肪肝の病理変化を経時的に調べました。その結果、時間の経過につれ、肝臓が単純性脂肪肝から肝炎を経て肝硬変に悪化していることを確認できました。

研究手法と結果の画像1

 そこで、MCD食投与後0週、2週、4週、8週の脂肪肝マウス及び正常なマウス、それぞれ1匹ずつに麻酔をかけた後、TSPOに特異的に結合する[18F]FEDAC(3.5-3.7MBq/0.1mL)を静脈注射し、直ちに小動物用PET※8で肝臓における放射能濃度を測定し、PET画像(撮像時間は30分)及びCT画像を取得しました。
 その結果、脂肪肝の進行に伴い、肝臓における[18F]FEDACの集積は経時的に増加し、遺伝子解析の結果からもTSPOの発現量及びTSPO機能に関わる各遺伝子の発現量も高くなっていたことが明らかとなりました。一方、同時に取得したCT画像のシグナルは低く、脂肪肝の進行に伴う経時的変化はあまりみられませんでした。

マウスの肝臓のPET画像とCT画像。
図 マウスの肝臓のPET画像とCT画像。

 マウスのPET画像は脂肪肝の病変が進むにつれて画像が明るくなっているのがわかる。マウスの右下に写っているのは胃。使用したPETカメラはSmall-animal Inveon PET scanner(Siemens,Knoxville,TN)。PET終了後、すぐCT撮像を行う。使用したCTカメラはSmall-animal CT system, R_mCT2(Rigaku,Tokyo)。

研究手法と結果の画像2

本研究成果と今後の展望

 今回の研究を通じて、我々はミトコンドリア膜に存在する特定のタンパク質であるTSPOに特異的に結合するPET薬剤[18F]FEDACをPETで使用することにより、脂肪肝の進行度を高い定量的な相関性で示すことを発見しました。これらの結果から、脂肪肝の早期診断や進行度の判定及び分類に対し、[18F]FEDAC-PETは高感度かつ特異性をもつ有用な診断ツールであることが世界で初めて証明され、今後臨床への応用が期待されます。
 また、脂肪肝だけでなく、ミトコンドリア障害に関わる他の生活習慣病の診断と予防に役に立てていきたいと考えています。

用語解説

※1 分子イメージング研究センター

 平成17年度に放医研に創立された分子イメージング研究を行っている研究センター。腫瘍や精神疾患に関する基礎研究や臨床研究のほか、分子プローブの開発や放射薬剤製造技術開発、PETやMRIの計測技術開発や病態適用など、分子イメージングの基礎研究から疾患診断の臨床研究まで幅広い研究を行う世界屈指の分子イメージング研究拠点。文部科学省が推進する「分子イメージング研究戦略推進プログラム」の「PET疾患診断研究拠点」として選定を受けている。

※2 脂肪肝

 肝臓に中性脂肪が異常に蓄積した状態。栄養過多のほか、過剰な飲酒によっても引き起こされる。過剰な飲酒によって引き起こされる脂肪肝をアルコール性脂肪肝といい、過食が原因で脂肪肝から肝炎・肝硬変となる病気を非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼んでいる。このプレスでの脂肪肝とはNASHに至る脂肪肝を示す。

※3 PET

 PETとはPositron emission tomographyの略称で、陽電子断層撮像法のこと。PET装置は、画像診断装置の一種で陽電子を検出することにより様々な病態や生体内物質の挙動をコンピュータ処理によって画像化する。

※4 ミトコンドリア障害

 ミトコンドリア自体の減少、またはミトコンドリア内の酵素不足により、細胞内のエネルギーの通貨とも言えるATP(アデノシン三リン酸)が不足し、細胞の機能が損なわれること。ミトコンドリアは、細胞内に存在する器官で、栄養源を分解してATPを作る能力を持つ。

※5 18F-FEDAC

 N-benzyl-N-methyl-2-[7,8-dihydro-7-(2-18F-fluoroethyl)-8-oxo-2-phenyl-9H-purin-9-yl]acetamideの略。2009年に放医研がPET用に開発した、TSPO(ベンゾジアゼピン受容体ともいう)に特異的に結合する性質を持った試薬。半減期が110分程度の18Fを付けている。

※6 脂肪肝モデルマウス

 研究用に脂肪肝を発生させたマウス。四塩化炭素などの薬剤投与でも発生させることができる。今回の場合は、6-8週齢のC57BL/6マウスに、MCD食(メチオニン・コリン欠損食:methionine/choline-deficient diet)を投与することにより、作製した。コリンの欠乏は、体内での活性酸素種を過剰に発生させ、肝細胞障害及び脂肪化を引き起こす。

※7 TSPO

 ミトコンドリア外膜に存在する輸送タンパク質。他の蛋白質と複合体を形成することにより、ミトコンドリア膜を通り抜けるための穴を作る。生理学的役割に不明な点はあるが、免疫機能の調整や、ステロイド生合成、細胞増殖に関与するとされている。

※8 小動物用PET

 分子イメージング技術の向上のために、実験用の小動物を測定するPET。スキャンをする対象物が小動物であるため、臨床用の装置と比べて空間分解能が高く、開口径が小さい傾向にある。

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