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千葉地区共通情報

CT撮影における被ばく線量を評価するWebシステムを開発

掲載日:2018年12月26日更新
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CT撮影における被ばく線量を評価するWebシステムを開発
-医療現場での患者の線量管理に有益なシステムWAZA-ARI-

2012年12月21日
公立大学法人大分県立看護科学大学
独立行政法人日本原子力研究開発機構
独立行政法人放射線医学総合研究所

発表のポイント

  • CT撮影における被ばく線量を評価するWebシステムWAZA-ARIを開発し、平成24年12月21日より試験運用を開始。
  • 各医療機関からインターネットを介して利用でき、撮影条件に応じた線量情報を迅速に提供。
  • 事前の線量予測による最適な撮影条件の設定、患者の被ばく線量管理への活用を期待。

 公立大学法人大分県立看護科学大学(学長:村嶋幸代)と独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長:鈴木篤之)は共同研究(文部科学省科学研究費補助金平成20年度-22年度、研究代表者:甲斐倫明大分県立看護科学大学教授)によって、コンピュータ断層(以下「CT」という)撮影における被ばく線量を評価するシステムWAZA-ARIを開発しました。今般、WAZA-ARIについて、平成24年12年21日より、独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)において試験運用を開始することとしました。
 近年、医療現場では、病巣の有無の確認、治療方針の決定等のため、CT撮影が広く普及しています。一方で、CT撮影では、胸部レントゲン撮影等と比較して、高い被ばく線量を受けるため、国際原子力機関(IAEA)等は過剰な被ばくを受けないように患者の被ばく線量の最適化や管理の必要性を提唱しております。
 そこで、医療関係者に対して、CT撮影の条件に応じて患者の被ばく線量を迅速に評価し、提供できるWebシステム※1WAZA-ARIを開発しました。WAZA-ARIは、利用者がパーソナルコンピュータ(PC)へのインストールやメンテナンス作業等を行うことなく、インターネットを介して、WAZA-ARIのホームページ(HP)へアクセスすることで、必要な時に利用することができます。
 利用者は、アクセス後にPCに表示されるインターフェイス画面※2を通じて、簡単な操作により、診断に使用するCT装置の機種、患者の情報、撮影範囲等を入力するだけで、被ばく線量の情報を入手することができます。WAZA-ARIは、利用者が入力したCT撮影の条件に対して、日本人の成人男女や小児(4才児)の体格特性を考慮して、被ばく線量を迅速に計算し、撮影条件等の入力後、十秒程度で、利用者のPCの画面に評価結果が表示されます。
 WAZA-ARIの利用により、CT撮影前の被ばく線量の予測による最適な撮影条件の設定や、患者の被ばく管理に必要な線量の情報を入手できます。
 なお、WAZA-ARIは、試験運用の段階では、下記のHPへアクセスし、登録手続き等は必要とせずに、利用することができます。今後、他の体格や年齢の患者に対応した被ばく線量が計算できるように機能の拡張を進める予定です。
URL: https://waza-ari.nirs.qst.go.jp/

研究開発の背景と目的

人口100万人当たりのCT装置の台数(OECD Health at a glance 2009より抜粋)
図1 人口100万人当たりのCT装置の台数(OECD Health at a glance 2009より抜粋)
*日本のデータは厚生労働省の2008年医療施設調査を引用

 近年、日本国内の医療現場では、病巣の有無の確認、治療方針の決定等のため、CT撮影が有用な医療技術として広く普及してきました。日本の単位人口当たりのCT装置の台数※3は世界的にも最も多く(図1)、撮影の件数もトップクラスと推測されております。一方で、診断画像を取得するためのCT撮影では、例えば、胸部のレントゲン撮影と比較した場合、頭から胴体にわたる広い範囲でエックス線の照射を受け、患者の受ける被ばく線量は高くなることが知られております。そのため、CT撮影では、過剰な被ばくを受けないように撮影条件を設定し、患者ごとに被ばく線量を評価、管理する必要性がIAEA等より提唱されております。
 以上の背景から、大分県立看護科学大学と日本原子力研究開発機構は、東海大学医学部付属病院や新別府病院などの診療放射線技師の協力の下、CT撮影における患者の被ばく線量を評価し、提供するWebシステムWAZA-ARIを開発しました。また、医療機関が容易に利用できるよう、放射線医学総合研究所の協力の下、平成24年12月21日よりWeb上で試験運用を開始することになりました。

WAZA-ARIの特徴

 既に、欧米では、CT撮影における被ばく線量を評価できるシステムがいくつか開発されております。これらのシステムでは、利用者が線量評価の対象とするCT撮影の条件等を入力し、被ばく線量を計算します。この線量計算では、CT撮影でのエックス線放出や患者を想定したモデルを用いてシミュレーション計算※4を行い、その解析で得た被ばく線量に基づき整備したデータベースを使用します。
 一方、国内の医療機関でこれらのシステムを利用する場合、以下の通り、考慮すべき点がいくつかありました。

  • 欧米で開発された既存のシステム※5の利用者は、PC等で、システムを動作するための環境を整備したうえで、インストールして、その後のメンテナンスを行う必要がありました。
  • 線量計算に使用する線量データベースは、日本人用のCT線量を計算するため、CT撮影を受ける患者の体格を日本人に合わせて整備する必要がありました。
  • CT装置の技術開発は継続して進められており、新たに導入されてきた撮影技術へ対応した線量評価も必要とされます。

 そこで、これらの課題を解決した線量評価システムとすべく、WAZA-ARIの開発を進めました。なお、日本で開発したシステムであることを明確にするため、世界的に通用する日本語として、柔道の技ありにちなんで、システムをWAZA-ARIと名付けました。
 まず、WAZA-ARIはWebシステムとして開発することで、利用者のインストール、メンテナンスの作業に関する負担をなくしました。各利用者は、登録手続きをした後で、CT撮影における線量評価が必要な場合は、いつでもHPへアクセスするだけで、利用することが可能となりました(ただし、試験運用の期間中は、HPへアクセスすることで、どなたでも利用できます)。WAZA-ARIへアクセスした場合、図2に示すインターフェイス画面を用いて、複雑な操作を必要とせずに、被ばく線量の計算対象とする撮影条件等を設定できます。ここでは、CT撮影に用いる装置の機種とその設定条件を入力し、患者の情報として、成人の性別、小児を選択します。そして、右側に表示される人体の画面を目視で確認しながらドラッグし、撮影範囲を設定します。
 利用者側で必要な操作は、撮影条件の入力のみで、これらの情報に基づき、WAZA-ARIでは撮影条件に応じて、被ばく線量を計算します。WAZA-ARIの開発においては、国内で用いられている数種類のCT装置による撮影で、平均的な日本人の成人男女、小児(4才児)の体格特性を持つ患者が受ける被ばく線量をシミュレーション計算で解析し、線量計算に用いる線量データベースを整備しました。WAZA-ARIを管理するサーバー側は、図2の画面において、利用者が設定したCT装置の機種、患者の情報から、整備した線量データベースより最適なデータを選択して、撮影範囲、エックス線強度等の情報に基づき、被ばく線量を計算します。
 最近のCT装置には、撮影される画像の品質を保ちつつ、被ばく線量を低減できる技術が導入されております。その中には、撮影対象とする体の位置に応じて、エックス線の強度を調整することのできるCT-AEC(Auto Exposure Control、自動露出管理機能)※6があります。WAZA-ARIでは、このCT-AECの機能を作動させ、撮影中にエックス線強度が変化した場合に応じた被ばく線量を計算する機能も有しております。
 そして、被ばく線量は撮影条件等を入力後、最大でも十秒程度で、WAZA-ARIへのアクセスに使用したPC等の画面上に計算結果が表示されます。

撮影条件の入力画面(左:成人女性、右:小児-4才児)
図2 撮影条件の入力画面(左:成人女性、右:小児-4才児)

試験運用により期待される成果、今後の予定

 現在、既存の欧米で開発された線量評価システムが利用可能ですが、上述の通り、日本人よりも大柄な体格を想定して、CT撮影における被ばく線量が計算されます。あるいは、人体を代用するアクリル製の円筒形のファントム※7の内部で実測される線量が、CT撮影における被ばく線量の指標※8として、患者の受ける被ばくの程度を把握するために用いられております。
 一方、WAZA-ARIでは、日本人成人の平均的な体格、あるいは小児(4才児)の体格を考慮して、CT撮影における患者の被ばく線量を計算できます。そのため、特に国内での患者の受ける被ばくに対して、体内の臓器線量をより正確に把握することが可能となり、CT撮影前の被ばく線量の予測による最適な撮影条件の設定や、撮影ごとの患者の被ばく線量の管理への活用が期待されます。
 この線量情報を医療機関では、インターネットを介して、WAZA-ARIのHPへアクセスするだけで、表示される画面を通じた容易な操作や確認により、入手することができます。
 また、WAZA-ARIは、試験運用として公開されている期間については、HPへアクセスすることで、どなたでも利用できます。なお、今後も平均的な日本人の成人男女、4才児以外の体格や年齢の患者に対応した被ばく線量計算ができる機能の拡張等を進めていく予定です。

用語解説

※1 Webシステム

 インターネットを介して動作するシステムをいいます。利用に当たって、利用者は、PCでインターネット環境を整備するだけで、他のインストールやその後のメンテナンス作業を行うことなく、利用できる利点を持ちます。

※2 インターフェイス画面

 利用者が、PCの画面上に表示されるウィンドウ、アイコン、メニュー等をマウスやキーボード等を用い、視覚的に計算条件等を入力するための画面をいいます。

※3 日本国内の単位人口当たりのCT装置の台数

 厚生労働省の2008年医療施設調査によると、日本国内の医療機関で所有するCT装置の数は100万人当たり94.1台です。この数字は、国連科学委員会2008年報告書にある各国の統計データと比較しても、世界的に最も多くなっております。また、CT撮影の件数についても、世界で米国と並びトップクラスと推測されております。

※4 シミュレーション計算

 放射線の物質中での振る舞い(挙動)については、コンピュータで数値的に模擬することができます。CT撮影による被ばく線量についても、装置内でのエックス線発生から、人体内での挙動までを、シミュレーション計算で評価することができます。シミュレーション計算を利用することで、多様な撮影条件について、系統的に被ばく線量を解析することができますが、装置内のエックス線の挙動、患者を正確に数値でモデル化することが重要となります。WAZA-ARIの開発では、日本原子力研究開発機構が中心となって開発した「粒子・重イオン輸送計算コードPHITS」を用いたシミュレーション計算により、線量データベースを整備しました。

※5 欧米で開発された既存のシステム

 既存のシステムの中では、旧英国放射線防護局(NRPB、現:英国健康保健局HPA)が中心となって、1990年代初頭に開発したImPACTが日本国内でも利用されています。このプログラムは、一般的に利用されている表計算ソフトウェアを利用して、CT装置に用いる機種、撮影範囲等を設定し、線量計算を行います。

※6 CT-AEC(Auto Exposure Control、自動露出管理機能)

 一般に肩周辺では、人体断面の質量が大きく、診断に必要な画像を取得するためには、管球の電流(管電流)を高くして、より多くのエックス線を照射する必要があります。一方で、空気を含む肺の周辺では質量が小さいので、より低い管電流でも鮮明な画像は取得できます。最近の装置に導入されているCT-AECを動作した場合、撮影中に患者の体型を測定し、画像取得に必要な管電流を設定したうえでエックス線を照射しますので、一定の管電流で撮影した場合よりも被ばく線量は低減されます。

※7 ファントム

 線量測定では、人体を代用するファントムと呼ばれる物体を用いることがあります。ファントムの形状や材質は、目的とする線量評価で異なりますが、CT撮影による被ばく線量の指標の測定では、アクリル製の円筒形の物体をファントムとして用います。

※8 CT撮影における被ばく線量の指標

 CT装置のベッド上にアクリル製の円筒形ファントムを置きます。このファントムの周辺部及び中央部には孔が開いており、その内部に検出器を挿入して実測した線量をCT撮影における被ばく線量の指標としております。

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