現在地
Home > 千葉地区共通情報 > 切除不能な脊椎肉腫に対して安全かつ有効な重粒子線治療 ―治療成績の解析結果―

千葉地区共通情報

切除不能な脊椎肉腫に対して安全かつ有効な重粒子線治療 ―治療成績の解析結果―

掲載日:2018年12月26日更新
印刷用ページを表示

切除不能な脊椎(せきつい)肉腫※1に対して安全かつ有効な重粒子線治療※2
―治療成績の解析結果―

2013年8月13日
独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉 義晴)
重粒子医科学研究センター病院 今井礼子 医長

本研究成果のポイント

手術による切除が不可能な脊椎肉腫47症例(48病巣)において、重粒子線治療により良好な腫瘍制御率、生存率が得られることがわかりました。この成果は重粒子線治療が、切除不能な脊椎肉腫に対する有望な治療の選択肢となることを示しています。

 独立行政法人放射線医学総合研究所(以下、放医研)重粒子医科学センター病院治療課今井礼子第1治療室医長らの解析の結果、1996~2011年に重粒子線治療を受けた切除不能な脊椎肉腫47症例(48病巣)において、重粒子線治療によって良好な腫瘍制御率、生存率が得られることがわかりました。この成果は重粒子線治療が、切除不能な脊椎肉腫に対する有望な治療の選択肢となることを示しています。
 脊椎肉腫に対しては手術による切除が第一選択となります。しかし、肉腫が存在している場所や患者さんの状態によっては、手術ができないことがあります。その場合は、化学療法や放射線療法が選択肢に入りますが、肉腫の中にはこれらの治療が効きにくいものも多く、治癒を期待できないことも少なくありません。また、放射線療法が有効な場合でも、十分な効果を得るには高い照射線量が必要であり、一般的に利用されるX線では、脊髄など周辺の正常組織の放射線障害を避けることが困難なために治療が難しいこともあります。しかしながら、放射線療法の一つである炭素イオンを利用する重粒子線治療は、肉腫に高い線量をピンポイントで照射でき、正常組織への影響を少なく抑えられるため、治療後の患者さんの生活の質を維持できる可能性が高くなります。
 今回の調査では、重粒子線治療の有効性および安全性を評価するために、切除不能な脊椎肉腫症例に対する治療成績と副作用について解析しました。その結果、治療してから5年目までに、重粒子線治療を行った場所にがんが再発しなかった割合(5年局所制御率)は79%、治療してからの5年生存率は52%でした。今まで切除できなかった症例は、がんが大きくなったり、転移を生じたりするので長期間の生存は期待できなかったことから、非常に良い成績といえます。特に腫瘍の大きさが100cm3未満(約直径6cm未満)であった15例は再発しませんでした。
 治療後の副作用については、重度の皮膚炎が1例、脊髄炎が1例を生じましたが、生命にかかわる重篤なものは起こりませんでした。また、7例は照射した脊椎の圧迫骨折により外科的手術が行われ、その後症状は改善しました。最も近い時期に受診された時点で、28例の生存例のうち22例は、杖なしで歩くことができています。今回の成果は脊椎肉腫の重粒子線治療に関する初めてのまとまった報告です。
 本治療の成果は2013年8月13日午前1時(日本時間)にがんに関する国際誌“Cancer”のオンライン版に掲載されます。

研究の背景と目的

 1994年度、患者数21名の臨床試験でスタートした重粒子線治療は、毎年3月に開催される所外学識経験者、部位別研究班、臨床試験統括者によるネットワーク会議の厳正な評価のもとに優れた治療成績を残し、登録患者数はほぼ右肩上がりに推移してきました。特に、2003年10月の厚生労働省による高度先進医療の承認以降は、先進医療による登録患者数の増加が進んでいます。切除不能骨軟部腫瘍(脊椎肉腫を含む)に対する重粒子線治療は1996年6月から安全性と有効性を確かめるために臨床試験として開始されました。2003年10月から先進医療として厚生労働省に認められ、現在も実施しています。
 (参考)放医研における重粒子線治療の実績
 https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/whyus/

 脊椎肉腫に対する根治的治療は、外科的切除を第一の選択枝として選ばれますが、実際には切除困難と判断されることが多く、実施可能な施設も限定されています。
 その場合、放射線治療が選択されますが、一般的であるX線による放射線治療は、腫瘍を抑えるのに必要な線量と、脊髄が耐えうる線量が近い値のため、多くの場合、腫瘍を長期間抑えることは困難とされています。
 一方、重粒子線は、側方への線量の広がりが少なく、また深部方向へはその飛程終端で急激に線量が増加し、さらにその深部で急峻に線量が低下する特性(ブラッグピーク)を有しています。そのため腫瘍の部位に線量のピークを合わせれば、腫瘍周辺の正常組織への影響を少なく抑えることができ、治療後の患者さんの生活の質を維持できる可能性が高くなります。このようなことから、放医研では他に有効な治療法がないことが多い体幹部をはじめとする骨軟部腫瘍患者に対する、重粒子線治療の適応拡大を図っています。

研究手法と結果

 放医研では、重粒子線治療後、3~6か月ごとの定期診断を行っています。今回の調査では、重粒子線治療の有効性および安全性を評価するために、切除不能な脊椎肉腫47症例(48病巣)に対する治療成績と副作用について解析しました(2011年12月までの結果に基づいています)。追跡調査の期間は中央値が25か月です。
 その結果、治療してから5年目までに、がんが再発しなかった割合(5年局所制御率)は79%、5年生存率は52%でした。切除不能な脊椎肉腫の患者さんに対する治療ということを考えると、この結果は非常に良い成績が得られたといえます。特に腫瘍の大きさが100cm3未満(直径6cm未満)であった15例は再発しませんでした。
 治療後の副作用については、1例で重度の皮膚炎、別の1例で脊髄炎を生じましたが、生命にかかわる重篤なものは起こりませんでした。7例は照射した脊椎の圧迫骨折により外科的手術が行われ、その後症状は改善しました。最も最近受診された時点で、28例の生存例のうち22例は、杖なしで歩くことができています。

本研究成果と今後の展望

 今回の成果は脊椎肉腫の重粒子線治療に関する初めてのまとまった報告であり、重粒子線治療が、切除不能な脊椎肉腫に対する有望な治療の選択肢となることを示しています。

用語解説

※1 脊椎肉腫

 脊椎腫瘍は脊椎骨に発生する腫瘍で稀な疾患です。良性と悪性(がん)、原発性(脊椎骨から生じた腫瘍)と転移性(体の他の場所にがんがあり、脊椎骨に転移したもの)に分かれます。原発性で悪性のものは脊椎肉腫といわれます。初発症状は痛みですが、腫瘍が大きくなると脊髄を圧迫するため病巣部位より下の麻痺が発生します。
 第一選択となる治療法は腫瘍切除術(手術)で、脊柱再建術を伴うこともあります。その他、抗がん剤を投与する化学療法、放射線療法を組み合わせることがあります。腫瘍の中には通常の放射線治療(X線)が効きづらい腫瘍があることも知られています。治療法は進歩していますが、手術が難しいと判断された患者さんでは、有効な治療法が少ないというのが現状です。放医研では1996年6月から骨軟部肉腫に対する治療の臨床試験が開始されました。脊椎肉腫の重粒子線治療は64GyEを16回に分割して照射することが基本です。(GyE:炭素イオン線の照射線量の単位)1週間につき4回照射を行い、約4週間かけて治療を行います。放医研のホームページでは、「骨・軟部腫瘍」に相当し、以下のサイトで概要を知ることができます。
https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/radiotherapy/explanation/doctor08.php

※2 重粒子線治療

 重粒子線とはヘリウム以上の重さを持つ元素をイオン化し、それを加速器で高速に加速して作られる放射線の一種。放射線医学総合研究所では炭素イオンを光の約70%の速さまでに加速した重粒子線(炭素イオン線)を使っています。このプレスリリースでは、「重粒子線」は「炭素イオン線」を示します。この放射線を利用してがん治療を行うことを「重粒子線がん治療」と呼び、日本では、一部のがんに対して先進医療として認められています。近年、肺がんの一回照射や膵臓がんの抗がん剤との併用治療が先進医療として認められ、対象となるがんの拡大が図られています。
 なお、日本国内における重粒子線がん治療装置は下表の通りの状況です。

千葉県千葉市 放射線医学総合研究所 治療中
兵庫県たつの市 兵庫県立粒子線医療センター 治療中
群馬県前橋市 群馬大学重粒子線医学センター 治療中
佐賀県鳥栖市 九州国際重粒子線がん治療センター 2013年治療開始予定
神奈川県横浜市 神奈川県立病院機構 2015年治療開始予定

プレスリリースのお問い合わせ

ご意見やご質問は下記の連絡先までお問い合わせください。

独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp