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千葉地区共通情報

高速ホットスポットモニター“R-eye”の開発に成功 - 測定を点から面で行うことが可能に -

掲載日:2018年12月26日更新
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2013年11月21日17時
独立行政法人 放射線医学総合研究所
応用光研工業株式会社

本研究成果のポイント

  • 従来のサーベイメータよりも測定スピードを10倍近く上げ、移動しながら探査が可能な高速ホットスポットモニターR-eyeの開発に成功
  • 汚染箇所の確認をこれまでと比較して短時間で行うことが可能※1
  • 除染作業の効率化、居住地等の線量の迅速で正確な把握等に貢献

 独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長米倉義晴、以下、放医研)白川芳幸研究基盤技術部長、応用光研工業株式会社(代表取締役社長江原直行、以下、応研)鎌田貴志計測機器部課長代理らの研究チームは高速ホットスポットモニター“R-eye(アールアイ)”の開発に成功しました。本成果の詳細は日本放射線安全管理学会第12回学術大会(札幌、11月27日~29日)で報告されます。
 従来のサーベイメータは正確な値を求めるために10秒から30秒静止させていなければなりません。狭いスポット(点)の測定には向いていますが、広い面積を探査するには、膨大な時間と作業量が必要となります。このため、環境省が公表している除染関係ガイドライン(平成25年5月第2版)では、除染場所の設定や除染効果の確認は、対象の中から数点を選択し、その地点の空間線量率(ガンマ線を測定、マイクロシーベルト毎時)や表面汚染の計数率(ベータ線を測定、カウント毎分)を測定することと示されています。
 白川・鎌田らの研究チームは、サーベイメータを移動させながらでも静止させた時と同様に値を求めることができる予測応答原理を開発し、サーベイメータの応答を10倍以上高速化しました。この技術を福島のホットスポット探査に応用し、従来のサーベイメータと比較して測定時間を約10分の1に短縮することにより、面で測定することを可能とする高速ホットスポットモニターR-eyeの実用化に成功しました。
 R-eyeの開発により、除染作業のための測定を広い面積で行うことができ、さらに、歩きながら測定ができる簡便さから、除染のための測定の負担を減らすことができます。
 R-eyeを活用することで、除染作業を効果的、効率的に行うことが可能となります。

R-eyeの画像1

R-eyeの仕様

  • 幅42cmx長さ63cmx高さ90cm
  • 重量 約20kg
  • 検出範囲 300平方cm、幅16cm
    (将来 800平方cm、幅25cmに拡大予定)
  • 予測時間 1秒
    (従来品より10倍以上高速)
  • 予測範囲 毎分1500カウント以上
    (この装置のバックグランドの5倍程度)
  • 速度 時速1.8km程度

R-eyeの特性試験

  • 時速1.8km程度で装置を移動させ、繰り返し測定を行い、精度を評価
  • 微弱セシウム137線源、7kBqに対して十分に時間をかけた測定では毎分3000カウント、1秒での予測応答は毎分3000±600カウント
  • ホットスポットの判断(例えば毎分1500カウント以上)は問題なし

R-eyeの画像2
R-eyeの画像3

R-eyeのフィールド試験

  • 道路、芝生、窪地、など多様な敷地環境でのハンドリングを検証
  • 測定者に分からないように芝生内に置いた微弱セシウム137線源、7kBqを容易に発見(およそ通常歩行の半分程度の速さで探索)

背景と目標

 東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質(特にセシウム137〈Cs-137〉)は、福島県内などにホットスポットと呼ばれる空間線量の局所的に高い場所を作り出しました。除染作業の効率化のためには、除染場所の放射性物質の分布を知ることが必要です。また、除染作業が終わった地域内でホットスポットが十分に除去されたかどうか、放射性物質の移動によって新たなホットスポットができていないかどうかが関心事項となると考えられます。
 現在、除染の際には空間線量率はいくつかの限られたポイントで測定されています。空間線量率(ガンマ線※2)や表面汚染の計数率(ベータ線※2)を測るサーベイメータでは1か所の測定に10~30秒かかるため、広い面積を探査するには、膨大な時間と作業量が必要になります。そこで研究チームは測定時間を10倍以上短縮し、ポイント測定から全面積探査を実現することを目標にしました。

従来技術との比較
従来技術との比較(イメージ)(図1)

探査原理

 この目標を実現するために、放医研が開発した予測応答原理を応用しました。放射線検出器(サーベイメータなど)が放射性物質を感じると指示針が動き出します。この指示針は測定値が安定するのに時間を要し、最終的な値に落ち着くには30秒ほどかかります。これは体温計の指示値の変化に似ています。この安定するまでの時間を短縮するために変化が起き始めた最初の1秒間の針の動きから最終的な値を推定するのが予測応答原理です。
 説明図で緑色は従来のサーベイメータの出力(応答といいます)を示し、赤色は予測応答原理の結果を示します。図2は基準の場所にベータ線を出す線源があり、その10cm上を毎秒5cmでサーベイメータを動かした時の値の変化です。サーベイメータが動いていると非常に小さな応答になってしまいます(例えば時定数10秒※3、毎秒5cmの場合は静止時の応答のおよそ10%の応答)。これは、まだ値が落ち着いていないのに体から体温計を抜いた現象に似ています。本当の体温は37℃であるにもかかわらず35℃を示している状態です。予測応答原理では、1秒で予測が終わり、また、動きながらでも最終的なカウント毎分を求めることができます。この方法をプログラムとして搭載したのが写真の検出器です。R-eyeには、この検出器が内蔵され、さらに福島の状況を想定した改良が施されています。また検出器内部の放射線検出素子として、京都大学、放射線医学総合研究所、帝人化成(現帝人)で共同開発した”シンチレックス(商標登録済)※4”を使用しています。

予測応答原理の説明図
予測応答原理の説明図(図2)

説明

線源の位置を原点とする。左から右に毎秒5cmで移動させた時の出力(針の振れ)が緑色のグラフ、この緑色のグラフから赤い応答を予測するのが予測応答原理です。

開発成果と今後の展望

 放医研の敷地内でサーベイメータ校正用のCs-137の密封線源(放射線障害防止法の法規制外7kBq、ホットスポットの代用)を測定者にわからないよう芝生に置き、通常の歩行速度の半分くらい(時速1.8km程度)でR-eyeを移動させながら測定しました。この速さは通常のサーベイメータの探査である1分3mの10倍に相当します。この線源に対し地上1mでの空間線量率はわずか0.01マイクロシーベルト毎時分だけ増加したにすぎません。したがって従来の空間線量率を測る方法では、このわずかな上昇は見落とされ、この線源を見つけることができませんでした。一方、R-eyeは簡単にこの線源を見つけ、同時に汚染の程度(十分時間が経過した後での最終的な計数率)を予測することができました。この開発により、従来のGMサーベイメータ(直径5cm)で1分3mくらいの探査能力に対して、1分で30m(幅が16cmにおいて、時速1.8km、オプションとして幅32cmまで対応可能)の探査が可能となりました。実際、福島ではホットスポットの強度、大きさはまちまちですので、装置の微調整をさらに続けながら、応用光研工業株式会社において、年度末までに商品化することを検討しています。また、R-eyeを通常の歩行速度でも測定可能にするための高速化、さらに奥まった場所や屋根の上などの高所にも対応できるよう、今後も開発を行ってまいります。

ホットスポットがない場合
ホットスポットがない場合(画面は緑色)

ホットスポット発見
ホットスポット発見(画面が赤色に反転、予測計数率を表示)(図3)

用語の説明

※1 汚染箇所の確認をこれまでと比較して短時間で行うことが可能

除染における線量測定について、除染前は、除染方法や使用機械の選定、除染時の除去物量の推定に反映させる等を目的に、除染後は、除染の効果を確認するために線量測定を行っている。

30mの距離を測定する場合

従来のサーベイメータ

□スポット(点)で測定(1点あたりの測定時間10秒と仮定)

  • 5m間隔の場合で7点測定 7点×測定時間10秒=70秒(+移動時間)
  • 3m間隔の場合で11点測定 11点×測定時間10秒=110秒(+移動時間)

従来のサーベイメータの測定イメージ
従来のサーベイメータの測定イメージ(図4)

従来のサーベイメータでの現状

  • 数m毎にスポットで測定するため、除染後の除染場所にホットスポットが残っていないか確認することが難しい。
  • 各点で立ち止まり、測定値が落ち着くまで待つので時間がかかる。
  • 作業者が、移動、停止、測定を繰り返し行う。さらに除染の効果比較のため除染前と除染後は同じ点で測定しなければならず負担がかかる。
R-eye

□時速1.8km(秒速50cm)で移動しながら測定
60秒間で動線の測定が可能

R-eyeの測定イメージ
R-eyeの測定イメージ(図5)

R-eyeを用いることの利点

  • 点では無く動線(16cm幅)で測定ができ、面として測定が可能。
  • 予測応答原理を利用することで、移動しながら測定出来るため、立ち止まって測定する時間が必要ない。
  • 作業者が移動していくだけで測定が可能であり、負担が少ない。

テニスコートの面積を探査するとした場合における測定時間を推定します。

テニスコート(ダブルスコート:23.77m×10.97m)の面を測定する場合

従来のサーベイメータによる操作

1回で測定できる範囲は17cm幅であり、テニスコート全面を測定するには65回の走査が必要となる。秒速5cmで移動しながら測定すると、1走査(23.77m)で476秒かかる。
よって、476秒×65回=約515分(8時間35分)ホットスポットを発見するたびに、そこで静止して汚染の程度を把握するために10秒かかるので515分+10秒×個数というように概算できる。ただし、あくまで仮定の話であり、あまりにも長時間かかるので、現実的には縦横で数点ずつのポイント測定をすることになる。

R-eyeによる操作

1回で測定できる範囲は16cm幅であり、テニスコート全面を測定するには69回の走査が必要となる。時速1.8kmは秒速に換算すると秒速50cm、したがって1走査で48秒かかる。よって、48秒×69回=約55分かかる。

テニスコートを例にした測定イメージ
テニスコートを例にした測定イメージ(図6)

※2 ガンマ線とべータ線

 ガンマ線は放射性セシウムから放出される電磁波で透過力があります。人体内部に到達しますので人体影響の度合いである線量率(マイクロシーベルト毎時)の基準になります。除染の判断にはガンマ線を利用しますが、透過力が強いため広い範囲からのガンマ線が影響しあい、正確な場所の特定には向いていません。
 ベータ線も放射性セシウムから放出されます。正体は電子です。透過力が弱いので外部被ばくでは人体の内部には届きません。ガンマ線とは逆で汚染場所の特定に向いています。R-eyeではベータ線を検出しています。

ガンマ線測定のイメージ

ガンマ線測定のイメージ
離れた場所からのガンマ線も捕らえてしまうが、空間線量の測定に向いている。

ベータ線のイメージ

ベータ線のイメージ
透過力が低く、検出器の近くしか捕らえられないが放射線源の特定に向いている。

※3 時定数

 装置の応答の速さを表す時間の単位を持つ指標。例えば時定数が10秒の場合、10秒経過すると最終応答に対して63%まで応答する。時定数の3倍、すなわち30秒経過すると95%まで応答する。精度の良い測定をするためには時定数の3倍の30秒ほど待つ必要がある。

※4 シンチレックス

 ベータ線などの放射線を受けると発光(蛍光という)する性質を持つ帝人(株)製の放射線蛍光プラスチック。京都大学、放射線医学総合研究所、帝人化成(現帝人)で共同開発、特許登録、商標登録済みの製品。

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独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課
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