“切らない手術”を実現するナノマシンを開発
-がんの日帰り治療の実現に向けて-
平成27年6月5日
国立大学法人東京大学
国立大学法人東京工業大学
ナノ医療イノベーションセンター
国立研究開発法人放射線医学総合研究所
発表のポイント
- 東大を中心とした研究チームとともにガドリニウムをがん組織に選択的に送達するナノマシンを開発
- ナノマシンは、がんのMRIによる診断と中性子捕捉治療の両方を同時に実現することを実証
- より限局した放射線照射により、患者に負担の少ない、日帰りがん治療の実現に期待
東京大学大学院工学系研究科/医学系研究科片岡一則教授、東京工業大学資源化学研究所西山伸宏教授、ナノ医療イノベーションセンターMI PENG主任研究員、放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター青木伊知男チームリーダーらの研究チームは、がん組織に選択的に集積して、MRI造影剤および中性子増感分子として機能するナノマシンを開発しました。
中性子捕捉療法によるがん治療は、患者に負担の少ない低侵襲治療法として注目されています。この治療法では、中性子増感分子としてがん細胞にホウ素(B)を取り込ませますが、それをがん細胞に対してより高い選択性で送達する有効な技術が開発されていませんでした。
開発したナノマシンは、がん組織に選択的に集積するだけでなく、生理的環境pH(~7.4)では極めて安定ですが、低環境pH(~6.7)の腫瘍内ではリン酸カルシウムが溶解し、ガドリニウム錯体ががん細胞内により取り込まれやすくなるという特徴があります。ガドリニウム錯体を取り込んだがん細胞に熱中性子線を照射すると、ガドリニウム錯体と熱中性子線の間で生じる核反応により細胞障害性の放射線(γ線やオージェ電子)が発生して、腫瘍に特異的な細胞傷害作用を示すことが期待されます。実際に、大腸がん細胞を皮下に移植したマウスに対する中性子捕捉治療を実施したところ、ナノマシンによる治療を行ったグループでは顕著ながんの増殖抑制を確認することができました。
このナノマシンを中性子増感分子とした中性子捕捉治療は、MRIで腫瘍を確認しながら熱中性子線を照射することができるので、ピンポイントかつ取りこぼしの無いがん治療法の開発への応用が期待されます。このような、切らない手術の実現によって、患者さんに負担の少ないがん治療、さらに将来は入院不要の日帰り治療が可能になると期待されます。
放医研では、国立研究開発法人科学技術振興機構の研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムの一環で、ナノマシン造影能の評価やナノマシンを投与したマウスのMRI撮像および評価を行いました。この成果は、米国化学会発行のナノテクノロジー専門誌「ACS Nano」に2015年6月1日オンライン掲載されました。
図 Gd-DTPA錯体を搭載したナノマシンによる固形がんのMRI(左下)と中性子捕捉治療(右下)
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