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千葉地区共通情報

プルトニウム内部被ばく線量評価と人体影響に関するQ&A

掲載日:2018年12月26日更新
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更新日:2017年8月17日

プルトニウムの物理化学的特性について教えてください

  • 生成機構、同位体、半減期、放射能
    プルトニウム(原子番号94)は、主に原子炉の中でウランに中性子が当たることにより生成されます。(原子力発電所の)使用済み燃料から取り出される主なプルトニウムとしては、質量数が236(プルトニウム-236)から242(プルトニウム-242)までの6種類の同位体がありますが、代表的な核種はプルトニウム-239です。
    プルトニウム-239はアルファ核種であり、アルファ線を出すことにより崩壊して別の元素に換わり、その半減期はおよそ2万4千年になります。同じアルファ核種であるウラン-238の半減期はおよそ45億年であり、比放射能(単位重量当たりの放射能の強さ)で比べるとプルトニウムの方がウランより高くなり、放射線による毒性が強くなります。
  • 存在形態、化合物
    プルトニウムは通常水に不溶性で、固体の酸化化合物(核燃料ペレット、粉末)として、あるいは、酸性溶液に溶け込んだ液体の状態で存在しています。

プルトニウムの人体摂取経路と体内挙動について教えてください

  • 摂取経路の種類
    プルトニウムの体内への摂取・侵入経路は、プルトニウムに汚染した飲食物などを摂取することによる経口摂取、プルトニウム化合物が微粒子(エアロゾル)となって大気中に浮遊し、それを吸入することによって体内に取り込む吸入摂取、および傷口のある皮膚を介して血中へ侵入する経路がありますが、可能性の高い侵入経路は経口摂取と吸入摂取です。
  • 摂取経路および形態と体内挙動
    プルトニウム化合物は水や体液に溶けにくいため、プルトニウムに汚染した食物や飲料水を摂取しても胃腸管からの吸収率は非常に低く(胃腸管でのプルトニウムの吸収割合は、可溶性の比較的高い硝酸塩で1千分の1以下、不溶性の酸化物では10万分の1以下)摂取したプルトニウムのほとんどは糞便中に排泄されます。
    プルトニウム粒子を含む大気を吸入した場合、上部呼吸気道に沈着したプルトニウムは気道上皮を覆う粘液や繊毛の運動により鼻咽頭に運ばれ直接体外に放出されるか嚥下されて消化管に入り経口摂取と同じ状況になるので、体内に吸収される割合は極めて少ないです。一方、肺胞領域(肺の深部)に沈着したプルトニウム粒子はプルトニウム化合物が体液に溶けにくい性質のため長期間その部位に滞留し、ゆっくりとした速度で可溶化し血液中に入ります。血液中のプルトニウムは主に肝臓や骨内膜の表面に沈着します。すなわち、肺深部に沈着したプルトニウムのアルファ線照射を受ける主要な臓器は肺であり、血流に移行した場合は肝臓、及び骨になります。

参考文献

原子力百科事典ATOMICA、プルトニウムの代謝について

プルトニウムの内部被曝線量評価はどのようにおこなうのでしょうか?

  • 内部被ばく測定方法
    体内に取り込まれた放射性核種による内部被ばくの測定は、放射性核種から放出される放射線の種類、エネルギー、放出率などを考慮して、体外計測法かバイオアッセイ法のいずれか、あるいは両方によって行われます。
    体外計測法とは、被検者の体内から体外に透過してくるガンマ線やX線を、被検者の近くに配置した放射線検出器によって測定し、放射性核種の種類と量(放射能)を評価する方法です。代表的な体外計測装置としては、ホールボディカウンタ(WBC)があります。現在、福島県を中心に広く利用されているWBCは、主に、体内に取り込まれた可能性のある放射性セシウム(セシウム-134や137)を検出対象としています。放射性セシウムからは、体組織を透過し易い比較的高いエネルギーのガンマ線が放出されるので、WBCによる測定に適しています。他方、アルファ線やベータ線しか放出しない放射性核種(例えば、ストロンチウム-90など)では、アルファ線やベータ線が体組織をほとんど透過しないので、体外計測法は適用できません。そこで、被検者から採取される試料(主に排泄物)を放射化学分析し、試料中の放射性核種と量(放射能)を評価する方法がとられます。この方法をバイオアッセイ法といいます。プルトニウムの場合には、アルファ線の他に低エネルギーの特性X線が放出(プルトニウム-241からはベータ線が放出)されますが、後述する肺モニタでも検出が難しいため、バイオアッセイ法が主たる内部被ばく測定方法になります。
  • バイオアッセイ法
    プルトニウムでは、被検者から採取された糞便や尿を用いて線量評価のためのバイオアッセイを行います。このバイオアッセイでは、試料中の有機物を分解処理した後に核種を分離抽出し、さらに、抽出した核種を放射線計測試料にするという煩雑な工程が必要となり、分析結果を得るまでに数日程度の時間を要します。糞便と尿にプルトニウムが排泄される機序は異なっています。吸入被ばくの場合、糞便中への排泄は主に呼吸気道の上部に沈着したプルトニウムが消化管に嚥下された成分によるものであり、尿中への排泄は呼吸気道に沈着したプルトニウムが体液(血液)中に移行した成分によるものです。プルトニウムは消化管でほとんど吸収されないため、糞便のバイオアッセイが最も感度が高い内部被ばく測定方法です。なお、呼吸気道の上部に沈着したプルトニウムの大部分は、摂取から数日程度で糞便中に排泄されます。
  • 肺モニタ
    肺モニタとは、プルトニウムから放出される20キロエレクトロンボルト程度の特性X線を、被検者の胸部に近接して配置した放射線検出器によって計測し、肺の中の放射能を評価する装置です。この特性X線は、体組織によってほとんどが吸収されてしまい、わずかしか体外に透過してきません。このために、特別に開発された低エネルギーX線用のゲルマニウム半導体検出器などが使われています。とはいえ、肺モニタのプルトニウムに対する検出感度は低く、通常の装置では数キロベクレル以上のプルトニウムでなければ検出できません。また、検出感度は被検者の胸部軟組織の厚さに大きく影響を受けます。そこで、実用上は、プルトニウムの生成過程でできるアメリシウム-241からのガンマ線(約60キロエレクトロンボルト)を測定し、工程情報などから得られるプルトニウムとアメリシウム-241の存在比を用いて、プルトニウムの肺の中の放射能を定量します。
  • 線量評価法
    バイオアッセイや肺モニタにより得られた排泄物中の放射能や肺の中の放射能から、体内にプルトニウムが取り込まれてから分析するまでの経過時間に応じた摂取量あたりの排泄率や残留率を考慮し、摂取量を推定します。摂取量に、国際放射線防護委員会(ICRP)が示した線量係数(単位摂取量あたりの線量:Sv/Bq)を乗じることで内部被ばく線量が算定されます。評価する内部被ばく線量は通常、(預託)実効線量(Sv)であり、これは成人の場合、摂取してから50年間に亘り全身が受ける線量を積算した量です。

プルトニウムの生物影響(動物実験)について教えてください

  • 形態、摂取経路と生物影響
    不溶性プルトニウムを吸入摂取した場合は肺に長期間留まり、そこで放射線を出して上皮細胞を照射し、肺がんが発生します。また一部は溶解して血中に移行し、骨と肝臓にも蓄積するので、骨がん、及び肝がんのリスクが上がる可能性が考えられます。
    可溶性で液体状のプルトニウムが創傷等により血流に入ると、肝臓及び骨に沈着し、肝がんおよび骨がんが生じる可能性もあります。
  • 発がんの線量効果関係
    米国におけるラットの実験では、不溶性のプルトニウム粒子の吸入により肺吸収線量が1Gy以上で悪性の肺腫瘍(肺がん)が有意に発生しました。放医研におけるラットに不溶性プルトニウム粒子を吸入させた実験でも、肺吸収線量が0.16Gy未満では肺がんは見られず、0.45Gy以上で肺がんの発生率が有意に増加し、6.6-8.5Gyで最大90%に達しました。このように不溶性プルトニウム吸入による肺がんの線量効果関係は、しきい様線量が認められるS字型になります。肺吸収線量がさらに高線量になると末梢血リンパ球減少、急性放射性肺炎、慢性肺線維症が生じ、これらが死因となり早期に死亡するため、肺がんの発生率は逆に低下することが知られています。
    一方、可溶性プルトニウムの注射投与により、ビーグル犬においては骨に沈着したプルトニウムからの骨吸収線量1Gyあたり76x10-6の発生率で骨がん(骨肉腫)が誘発されます。これは同じく骨に沈着するアルファ核種であるラジウム-226の17倍の骨肉腫発生リスクになります。骨に沈着したプルトニウムは、動物種や系統に関わらず骨肉腫を誘発することから、骨肉腫はプルトニウムによって特異的に誘発される腫瘍の一つと言うことができます。なおプルトニウムを投与した動物実験では、肝臓での腫瘍の発生についてはほとんど報告がありません。これは骨肉腫の方が優位に発生するため、肝腫瘍の発生が少なくなったと考えられています。また低LET放射線であるガンマ線や高LET放射線である中性子線で発生する造血系腫瘍(白血病)が、プルトニウムではほとんど見られないのが特徴です。

参考文献

  1. Oghiso, Y. and Yamada, Y., Comparisons of pulmonary carcinogenesis in rats following inhalation exposure to pultonium dioxide or X-ray irradiation. J. Radiat. Res., 44, 261-270, (2003).
  2. Oghiso, Y. and Yamada, Y., The specific induction of osteosarcomas in different mouse strains after injections of 239Pu citrate, J. Radiat. Res., 44, 125-132, (2003).
  3. 小木曽 洋一.プルトニウムの内部被ばくと発がん ─プルトニウム注射投与による実験発がん─.Isotope News,716., 28-32, (2013).
  4. 小木曽 洋一.プルトニウムの吸入被ばくによる発がん等生物影響 ─動物実験でどこまで明らかにされたか─.Isotope News,711., 9-13, (2013).
  5. 小木曽洋一,山田裕 他, プルトニウム内部被ばく研究報告書, 放医研刊行物NIRS-R-53,(2006).

プルトニウムの人体影響とリスク評価について教えてください

マヤーク疫学調査の概要
旧ソ連のマヤークと呼ばれる核施設は、核兵器生産、原子炉、放射性同位元素の製造、再処理などの施設を有し、それらの施設では作業従事に伴い多くの人々が外部被ばくと内部被ばくの複合的な被ばくを長期にわたって受けてきました。それらの作業者を対象とした疫学調査が実施され、特にプルトニウムからの内部被ばくによる健康影響に関する貴重な情報を提供しています。
2008年に報告されたSokolnikovらの研究では、1948~1982年にマヤークで雇用された17,740人(うち男性は75%、女性は25%)の作業者における2003年までの肺がん、肝がん、骨がんの死亡とプルトニウムによる被ばくの関係が分析されました。この研究では、プルトニウムによる内部被ばくについては、尿中のプルトニウム測定などのデータから線量が推定され、プルトニウムへの被ばくがあった作業者における平均線量は、肺で0.19Gy、肝臓で0.27Gy、骨で0.98Gyと推定されました。プルトニウムによる内部被ばくの線量とがんリスクの関係についての統計モデルによる解析では、作業者が60歳になった時の肺がんリスクとして、1Gyの被ばくあたり男性で7.1倍、女性で15倍といずれも有意に増加することが示されました。肝がんと骨がんについても同様に1Gyの被ばくあたりの増加が、それぞれ男性で2.6倍と0.76倍、女性で29倍と3.4倍と示され、男性の骨がん以外は有意に増加することが報告されました。
その後、追跡期間の拡大や線量推定法を改善した研究結果が2013年にGirbertらによって報告されました。この研究では、1948~1982年にマヤークで雇用された14,621人(うち男性は75%、女性は25%)における1953~2008年の肺がん死亡とプルトニウムによる被ばくの関係が分析されました。プルトニウムの内部被ばくによる肺の平均線量は、その被ばくがあった作業者において0.115Gyと推定されました。プルトニウムによる肺の線量と肺がんリスクの関係についての統計モデルによる解析では、作業者が60歳になった時の肺がんリスクは、1Gyの被ばくあたり男性で7.4倍、女性で24倍といずれも有意に増加することが示されました。

参考文献

  1. Sokolnikov ME, Gilbert ES, Preston DL, Ron E, Shilnikova NS, Khokhryakov VV, Vasilenko EK, Koshurnikova NA. Lung, liver and bone cancer mortality in Mayak workers. Int J Cancer. 123, 905-911, (2008).
  2. Gilbert ES, Sokolnikov ME, Preston DL, Schonfeld SJ, Schadilov AE, Vasilenko EK, Koshurnikova NA. Lung cancer risks from plutonium: an updated analysis of data from the Mayak worker cohort. Radiat Res., 179,332-342, (2013).

プルトニウムの緊急被ばく医療はどのようになっていますか?

内部被ばく時の治療処置
放射性物質による身体汚染には、体表面汚染と内部汚染(体内汚染)があります。どちらも、あるレベル以上の汚染は、放射線による身体影響のおそれが高まるので、取り除く(除染する)必要があります。
プルトニウムによる身体汚染の場合、体表面汚染は、拭き取り、洗浄等を行います。これらの処置である程度除染できます。
体内汚染を除染するためには特別な薬剤を使用します。それが、キレート剤と呼ばれるもので、DTPA*注という薬剤が使われます。この薬は体内のプルトニウムを尿に出す働きがあります。治療開始後は尿中のプルトニウムを測定し、効果を判定します。

*注  DTPA(ジエチレントリアミン5酢酸:Diethylene-triamine-penta-acetic acid)