AVFサイクロトロン
本装置は、AVFサイクロトロン本体、イオン源系、イオン入射系、外部ビーム輸送系、計算機制御系、冷却・圧空系及び付帯設備等より構成されています。本システムの主な特徴は、次のとおりです。
(1) | 3台の外部イオン源(ECR型3台)を装備しており、軽イオンから重イオンまでを加速することができ、豊富なイオン種と広いエネルギー範囲が得られます。 |
(2) | ビームチョッパーにより単一パルスビームの照射実験が可能です。また、ビームスキャナーが3台設置されており、軽イオンから重イオンまでを広い面積(最大10cmX10cm)で、均一に照射できます。 |
(3) | 安全かつ効率的に運転できるよう全系にわたって計算機制御がなされています。 |
主な諸元と性能
本施設に設置されているのは、住友重機械工業(株)製の930型AVFサイクロトロンです。サイクロトロンの主な諸元と性能を表3.1に示します。サイクロトロンからイオンビームを引き出す半径が923mmで、K値は110MeVです。角度86°の2つの加速ディー(Dee)電極をもち、最大電圧60kVでイオンを加速できます。加速可能な粒子は、M/Qが1~6.5(M:質量、Q:電荷)の範囲のものであり、加速ハーモニックスは、1、2及び3が可能となっています。
現在、利用者に供給できるイオン種とビーム条件を表3.2に示します。この表にないイオン種・エネルギーのビームを利用するためには、別途そのための「新ビーム開発」運転が必要となります。
表1.1 サイクロトロンの主な諸元と性能
サイクロトロン本体 | 重イオン源生成電流 | |||
形式 | AVF型 | Ar9+ | 160eμA | |
機種 | 住友重機 930 | Ar13+ | 2eμA | |
K値 | 110 | Kr20+ | 2eμA | |
引出半径 | 92.3cm | |||
セクター数 | 4 | 加速エネルギー範囲 | ||
ディー電極数 | 2 | 軽イオン H+ | 5~80MeV | |
ディー角度 | 86° | D+ | 5~53MeV | |
最大ディー電圧 | 60kV | 4He2+ | 10~108MeV | |
RF周波数範囲 | 11~22MHz | 重イオン | 2.5×M~110×Q2/M(MeV) | |
共振器 | ムービング・ショート方式 | |||
加速ハーモニック・モード | 1, 2, 3 | ビーム輸送系 | ||
加速粒子範囲 M/Q | 1~6.5 | 主ビームコース数 | 8本 | |
ビーム引出効率 | 70%以上 | 副ビームコース数 | 5本(垂直4本) | |
エネルギー半値幅 | 0.5%以下 | |||
ビームエミッタンス(80%値) | 15.9 πmm・mrad以下 | 照射方式の特徴 | ||
(1)大面積均一照射(スキャン)方式 | ||||
イオン源及び入射系 | 軽イオン | 100mm×100mm | ||
イオン源設置方式 | 外部イオン源 | 重イオン | 50mm×50mm | |
入射方法 | 外部垂直入射 | |||
軽イオン源 | NANOGAN | (2)パルスビーム | ||
重イオン源 | ECR型、HECR | パルス化方式 | 矩形波形(入射系)+ 正弦波形(輸送系) |
|
インフレクター | スパイラル型 | |||
最少パルス幅 | ~2ms | |||
軽イオン源生成電流 | パルス間隔 | 1μs ~1ms | ||
H+ | 1emA以上 | |||
D+ | 1emA以上 | 制御系 | 計算機制御 | |
He2+ | 100eμA |
表1.2 サイクロトロンで利用可能なビーム条件(2021年10月現在)
(1)標準ビーム(常にニーズがあり、標準で提供しているビーム)
イオン種 | エネルギー(MeV) | ビーム強度 | 備考 |
---|---|---|---|
H+ | 10 |
第1及び第2軽イオン室:2.5(pμA) 第3軽イオン室:2.5(pμA) |
重イオン室における利用可能なビーム強度については、サイクロトロン係までお問い合わせください。 |
H+ | 20 |
第1及び第2軽イオン室:6.0(pμA) 第3軽イオン室:4.5(pμA) |
重イオン室における利用可能なビーム強度については、サイクロトロン係までお問い合わせください。 |
H+ | 65 |
第1及び第2軽イオン室:3.0(pμA) 第3軽イオン室:2.0(pμA) |
・装置の放射化冷却の関係で、利用可能な時期については要相談につき、サイクロトロン係までお問合せください。 ・重イオン室における利用可能なビーム強度については、サイクロトロン係までお問い合わせください。 |
4He2+ | 50 |
第1及び第2軽イオン室:4.0(pμA) 第3軽イオン室:2.0(pμA) |
重イオン室における利用可能なビーム強度については、サイクロトロン係までお問い合わせください。 |
4He2+ | 107 |
第1及び第2軽イオン室:0.5(pμA) 第3軽イオン室:0.5(pμA) |
重イオン室における利用可能なビーム強度については、サイクロトロン係までお問い合わせください。 |
12C3+ | 75 |
第1及び第2重イオン室:660(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:500(pnA) |
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12C5+ | 220 |
第1及び第2重イオン室:80(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:28(pnA) |
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12C6+ | 320 |
第1及び第2重イオン室:0.33(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.33(pnA) |
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15N3+ | 56 |
第1及び第2重イオン室:83(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:83(pnA) |
|
16O4+ | 100 |
第1及び第2重イオン室:750(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:500(pnA) |
|
16O6+ | 160 |
第1及び第2重イオン室:250(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:250(pnA) |
|
20Ne4+ | 75 |
第1及び第2重イオン室:50(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:50(pnA) |
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22Ne6+ | 164 |
第1及び第2重イオン室:0.5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.5(pnA) |
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20Ne7+ | 260 |
第1及び第2重イオン室:700(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:71(pnA) |
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20Ne8+ | 350 |
第1及び第2重イオン室:40(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:30(pnA) |
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40Ar8+ | 150 |
第1及び第2重イオン室:62(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:62(pnA) |
|
40Ar10+ | 250 |
第1及び第2重イオン室:10(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:10(pnA) |
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40Ar13+ | 460 |
第1及び第2重イオン室:3.8(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:3.8(pnA) |
|
40Ar14+ | 520 |
第1及び第2重イオン室:5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:5(pnA) |
|
84Kr17+ | 322 |
第1及び第2重イオン室:2.9(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:2.9(pnA) |
|
129Xe25+ | 454 |
第1及び第2重イオン室:0.5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.5(pnA) |
|
129Xe26+ | 560 |
第1及び第2重イオン室:0.2(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.2(pnA) |
|
192Os30+ | 490 |
第1及び第2重イオン室:0.3(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.3(pnA) |
|
カクテルビーム [M/Q=2] 4He2+ 12C6+ |
4He2+:107 12C6+:320 |
4He2+: 第1及び第2重イオン室:0.5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.5(pnA) 12C6+: 第1及び第2重イオン室:0.33(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.33(pnA) |
12C6+に少量の16O8+が混入する場合があります。利用の際は、ご相談ください。 |
カクテルビーム [M/Q=2.86] 20Ne7+ 40Ar14+ |
20Ne7+:260 40Ar14+:520 |
20Ne7+: 第1及び第2重イオン室:700(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:71(pnA) 40Ar14+: 第1及び第2重イオン室:5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:5(pnA) |
|
カクテルビーム [M/Q=4] 12C3+ 16O4+ 40Ar10+ 22Ne6+
|
12C3+:75 16O4+:100 40Ar10+:250 22Ne6+:164 |
12C3+: 第1及び第2重イオン室:660(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:500(pnA) 16O4+: 第1及び第2重イオン室:750(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:500(pnA) 40Ar10+: 第1及び第2重イオン室:10(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:10(pnA) 22Ne6+: 第1及び第2重イオン室:0.5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.5(pnA) |
12C3+,16O4+,40Ar10+は互いに少量が混入する場合があります。利用の際は、ご相談ください。22Ne6+の164MeVの同時利用については、イオン源が異なり、試料の準備が必要なため、事前に了解を得てください。 |
カクテルビーム [M/Q=5] 15N3+ 20Ne4+ 40Ar8+ 84Kr17+ 129Xe25+ |
15N3+:56 20Ne4+:75 40Ar8+:150 84Kr17+:322 129Xe25+:454 |
15N3+: 第1及び第2重イオン室:83(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:83(pnA) 20Ne4+: 第1及び第2重イオン室:50(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:50(pnA) 40Ar8+: 第1及び第2重イオン室:62(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:62(pnA) 84Kr17+: 第1及び第2重イオン室:2.9(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:2.9(pnA) 129Xe25+: 第1及び第2重イオン室:0.5(pnA) 第3、第4及び第5重イオン室:0.5(pnA) |
(2)その他のビーム(ご利用に調整運転が必要につき、要相談のビーム。実験課題申請前にサイクロトロン係までお問合せください。)
イオン種 | エネルギー(MeV) | 備考 |
---|---|---|
H+ |
12 14 18 25 30 34 38 45 50 55 60 |
|
H+ |
70 80 |
利用に際しては、十分な調整時間が必要なため、あらかじめ、ご相談ください。 |
D+ |
10 12 20 25 35 41 50 |
|
3He2+ | 60 | |
4He2+ |
20 30 75 80 100 |
|
11B3+ | 60 | |
14N3+ | 67 | |
14N5+ | 190 | |
16O3+ | 60 | |
16O5+ | 100 | |
16O7+ | 225 | |
16O7+ | 335 | |
20Ne6+ | 120 | |
28Si5+ | 75 | |
28Si5+ | 98 | |
28Si10+ | 390 | |
36Ar8+ | 195 | |
40Ar8+ | 175 | |
40Ar11+ | 330 | |
56Fe15+ | 400 | |
58Ni15+ | 388 | |
84Kr18+ | 400 | |
84Kr20+ | 520 | 84Kr20+に少量の63Cu15+が混入する場合があります。利用の際は、ご相談ください。 |
102Ru18+ | 320 | |
102Ru22+ | 505 | |
129Xe24+ | 490 | |
カクテルビーム [M/Q=5.3] 16O3+ 129Xe24+ |
16O3+:60 129Xe24+:490 |
|
カクテルビーム [M/Q=6.4] 192Os30+ 129Xe20+ 84Kr13+ |
192Os30+:490 129Xe20+:324 84Kr13+:210 |
注1) | 上記ビーム条件において、サイクロトロン装置で確認できる最小電流値は約1enAですが、さらにビームアッテネーターにより1/10毎に約1/1010まで減衰させることが可能です。 |
2) | 単一パルス照射については、別途ご相談ください。 |
3) | サイン波(S)型ビームチョッパーによる間引き(1/3~1/7:但しビーム条件による)によるパルス照射は、上記H+ 80 MeVを除いた他のイオン種について可能ですが、事前に連絡して了解を得てください。 |
4) | カクテルビームのイオン種は、カクテルビーム加速による短時間切換照射及び各イオン単体照射が可能です。カクテルビーム(M/Q=4、M/Q=5)を利用するにあたっては実験装置(利用者)側が粒子弁別等の方法により、対象外イオン種の混入の度合いをご自身で確認する必要があります。(なお、イオン源の変更が伴う切替の場合にはイオン種の切替ごとに約1時間程度の調整時間が必要になります) |
〔サイクロトロンに関する問い合わせ先〕 イオン加速器管理課 サイクロトロン係 担当:吉田 (Tel:027-335-8316) |
ビーム輸送系の性能
(1)概要
ビーム輸送系の全体構成を、右図に示します。サイクロトロンから引き出されたイオンビームは、直線的にLAコースへ輸送され、LAコースの途中から25°偏向されるLEコースに輸送されます。分析電磁石(TAM)により80°偏向されたビームは、スイッチング電磁石(TSM)により、左に68°、55°及び40°偏向されるLB、LC、LDコースへ輸送されます。また、TSMにより右に74°、59°、12°偏向されたビームは、それぞれHA、HB、HCコースに輸送されます。 さらに、HCコースの途中から分析電磁石(TAMHE)により55°偏向されHEコースへも輸送されます。また、HDコースはTSMにより左に3°偏向されて輸送されます。LA、HA、HB及びHEコースには垂直に分岐するコースLX、HX、HY及びHZが 設置されており、このコースでは、垂直ビーム照射が可能です。 各ビームコースの照射ポートの直前には、ビーム診断ステーションが設置されており、必要とするビーム情報が確認できます。ビーム輸送系の真空排気には磁気浮上式のターボ分子ポンプ(TMP)とイオンポンプ とが用いられ、各照射ポートにおける実験系との境界には、ゲートバルブと絶縁リングが設置されています。実験系との境界のフランジの規格は、UCF203-150RH(回転)または UCF203-150FH(固定)となっています。詳しくは、サイクロトロン係までお問い合わせください。 |
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(2)ビームサイズ
表3.3に、各照射ポートのターゲット位置における最小ビームサイズ(設計値)を示します。ビームサイズの変更を希望される方は、サイクロトロン係までご相談ください。
表3.3 各照射ポートにおけるビームサイズ
ポート名 | 最少ビームサイズ | 備 考 | |
X方向(mm) | Y方向(mm) | ||
LE1 LA1 LX1 LB1 LB2 LC0 LD1 HA1 HX1 HB1 HY1 HC1 HC2 HD1 HE1 HE2 HZ1 |
4.6 4.5 7.0 6.7 6.2 7.5 6.2 5.1 6.8 5.1 5.1 4.6 7.8 7.8 5.0 5.7 6.1 |
4.9 4.6 4.9 3.2 5.2 4.0 5.0 5.2 16.3 5.0 5.1 4.7 3.2 3.2 5.0 5.2 3.5 |
ISOL専用ポート 垂直照射、BSLX 中性子遮蔽実験専用ポート BSLD 垂直照射、微小領域線量分布測定装置専用 垂直照射、BSHY 垂直照射 |
(3)パルス照射
イオン入射系に設置されているパルス型チョッパー(Pチョッパー)と外部ビーム輸送系に設置されているサインウェーブ型パルスチョッパー(Sチョッパー)の組合せにより、単一パルスの照射が可能です。
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チョッピング制限:チョッピング性能の限界はプロトンの最大エネルギーで70MeVです。従って、70MeV以下ならチョッピングが可能です。詳しくは、サイクロトロン係までお問い合わせください。
(4)トリガー信号
パルス実験のためにユーザーが使用できるトリガー信号は以下のとおりです。ただしf0は基本波の周波数です。
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各信号は、サイクロトロン電源室内の電源ラックの端子及びサイクロトロン制御室から取ることができます。
詳しくは、サイクロトロン係までご相談ください。
(5)ビームスキャナ
ビームスキャナ(BS)が設置されている照射ポートは、LX1、LD1及びHY1です。BSLX(LXコースのビームスキャナ)及びBSHYは垂直照射であり、BSLDは水平照射となります。いずれのスキャナも三角波を用いた磁場偏向方式により2軸独立走査が可能であり、ビーム最大偏向角1度、スイープピッチ1~10mm連続可変、フルエンス均一度±10%以下の性能を有しています。照射モードを選択して、一定時間照射する「時間制御」が可能です。
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なおビームスキャナについては、走査周波数とビームスポット形状との相関で、フルエンス分布に縞模様等が発生することがあります。参考資料等もありますので、詳しくは、サイクロトロン係までお問い合わせください。