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多様性ある地球市民の自覚を 新型コロナ 未来への啓示

掲載日:2022年3月9日更新
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日刊工業新聞 2021年10月18日 「卓見異見」

統一に向かう世界

 人類の歴史全体を俯瞰すると世界は限りなく統一に向かっている。新型コロナウイルスは改めて、地球は一つ、我々は「地球市民」であることを教えてくれた。

 20万年前にアフリカの一角で誕生したホモ・サピエンスは他のホモ属を全滅させて世界を統一した。この第1の波に続き、1万年ぐらい前に狩猟から農耕時代に入り、定住化と野生動物の家畜化が進んだ。各地で文明が起こり、言語、人、習慣、宗教などの多様性ができた。

 家畜や生活圏内にある小動物や蚊などから天然痘、麻疹、ペスト、結核、マラリアのような伝統的感染症が人類に伝播し感染症の多様性も生まれた。13世紀にはモンゴル帝国により初めてアジアとヨーロッパの文化圏がつながり第3の波が始まった。大航海時代が始まり、世界が七つの海で繋り、多様な文明が混じりあった。南米のアステカとインカ帝国に天然痘が持ち込まれて滅亡した。

 感染症だけでなく、生活様式や食文化なども混ざり合った。18世紀にイギリスで起こった産業革命とともに第4の波に突入した。人類は、木材や水力など、ほぼリアルタイムの太陽エネルギーを使用していたが、何億年もかけて太陽エネルギーが蓄積された化石燃料へのエネルギー革命を果たす。

 化石燃料への転換は安定的で柔軟に利用できる画期的なものだった。科学技術は加速度的に発展し、政治・経済的に世界覇権競争が起き、人類史上初めての世界大戦が2回も勃発した。

負の遺産、環境問題

 1989年にベルリンの壁が崩壊し、第5の波が始まり、約30年が経過した。人類は多様性ゆえに技術革新をし、多様性ゆえに心豊かな人生を送ってきた。ところが多様性ゆえに対立し、戦争もする。移動手段や情報伝達手段が革新的に発達し、地球は相対的に狭小化し、世界統一加速の一方で、多様性の爆発や新興感染症爆発の時代を迎えている。

 第4の波で科学技術が飛躍的に発展したが、負の遺産として環境問題が出てきた。地球温暖化や自然災害激甚化、プラスチック廃棄ゴミ問題、あるいは生物多様性の危機などだ。伝統的感染症は第4の波で、病原体の発見、ワクチンや抗生物質などの発明によりほぼ克服された。

 伝統的感染症は家畜や生活圏にあった小動物などから伝播したが、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)や新型コロナウイルス感染症などの新興感染症は野生動物から来た。家畜由来の伝統的感染症はほぼ出尽くしたが、野生動物由来の新興感染症はいくらでも来る可能性がある。これは環境問題ととらえることもできる。

 環境破壊で急速に野生動物と人類社会が接近している。温暖化により熱帯特有の感染症が世界に広がる可能性もある。感染症は環境破壊が続いている限り際限なく人類を襲う可能性がある。新型コロナは単なる一つの現象に過ぎない。いま人類は第5の大波にいることを自覚する必要がある。

科学は人類共通言語

 学問や芸術、スポーツ、科学技術は「人類共通言語」だ。言語や文化、宗教が違っても、人類共通言語により、多様性の壁を乗り越えてコミュニケーションがとれる。異文化を理解しお互い尊重し合うことができる。「調和ある多様性の創造」が可能となる。

 新型コロナも軽々と国境を越えてしまった。多様性の壁を超えうる人類共通言語ということもできる。新型コロナは、我々人類に「もっと仲良くしなさい、あなた方は『地球市民』ですよ」と言っている。人類共通言語によって「調和ある多様性」を創造し、自分自身の文化を誇りに思いながら協調する「地球市民」としての自覚を持たなければ未来はない。

 中国のSF作家、劉慈欣の『三体』では、異星文明である三体世界の存在が人類社会を統一へと導いた。人類には、異星文明を待つ時間的余裕は残されていない。新型コロナウイルスは未来への啓示を人類に送っている。