2024年度「吉川允二記念核融合エネルギー奨励賞」受賞者について
吉川允二記念核融合エネルギー奨励賞は、ITER計画や幅広いアプローチ(BA)活動などに代表される核融合エネルギーの実現に寄与しうる国内外の研究・技術開発活動、調査活動、社会連携・貢献活動等の中で、若手人材による優れた成果を顕彰するものです。下記の活動分野、
1)ITERやBAに直接関わる研究・技術開発活動など。 2)上記以外で核融合エネルギーの実現に必要な研究・技術開発活動、または将来これらの研究・技術開発に寄与する基礎的・基盤的な研究・技術開発活動など。 3)長期的な視野に立って核融合エネルギーの実用化や核融合を応用したエネルギー環境問題の解決に向けたシナリオ作成に寄与する調査研究活動など。 4)核融合エネルギーに関する社会との連携・貢献、教育、広報、啓発活動など。 |
に対し、2024年度は、3件の応募がありました〔分野1):1件、分野2):2件〕。選考委員会において厳正な審査を行い、運営会議で優秀賞1件、奨励賞2件が決定されました。
2024年度の選考委員は次の方々です(敬称略)。
森下 和功(委員長、京都大学)、門 信一郎(京都大学)、宇藤 裕康(量子科学技術研究開発機構)、西村 征也(量子科学技術研究開発機構)、近藤 創介(東北大学)、横山 雅之(核融合科学研究所)以上6名
受賞者の紹介
優秀賞
前山 伸也 氏(核融合科学研究所)
受賞テーマ:
プラズマ乱流輸送現象のマルチスケール・マルチフィデリティモデリング
選考理由:
前山氏は、プラズマ乱流輸送のマルチスケール・マルチフィデリティモデリングに挑戦し、すでにその具体成果を挙げるとともに、国内外および広い学術分野に向けて発信している。これは、データ科学を用いて異種データ間の融合を行うことで、数値シミュレーションが有する物理に基づく外挿性と実験データに基づく妥当性・適用性を同時に満たすことができる輸送モデルである。このようなプラズマ乱流輸送モデルの高度化は、核融合炉設計・性能予測の信頼性向上のためにも重要な成果であり、核燃焼条件の達成にも直接的に資すると考えられる。また、同氏は、すでに多数の学術表彰を通じて国内外で高い評価を受けている。以上から優秀賞に値すると判断した。
優秀賞
前山 伸也 氏
受賞者の抱負:
このたびは栄誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。本研究は、東京工業大学博士課程での核融合科学研究所との共同研究に始まり、日本原子力研究開発機構での大規模並列計算技術開発、名古屋大学でのマルチスケール乱流輸送の物理機構解明、核融合科学研究所での物理モデリングと、一連の研究の積み重ねによるものです。ご推薦くださった先生方をはじめ、ご指導・ご支援いただいた皆様に深く感謝申し上げます。
私はこれまで、特に物理素過程の解明に科学的興味を持ちつつ、第一原理シミュレーションを用いて電子・イオン間のマルチスケールプラズマ乱流相互作用を詳細に解析してきました。一方で、核融合エネルギー開発のために縮約モデルの必要性を意識して発展させたのが受賞テーマ名にも含まれるマルチフィデリティ乱流輸送モデリングというアプローチです。物理機構の理解と数理・データ科学的モデリングの両輪で研究を進めていくことが重要だと実感しています。
本賞を励みに、プラズマ物理の深化と核融合炉開発への貢献、さらに広く学術分野との相乗的発展を目指して、研究に精進していきたいと思います。今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。
奨励賞
小菅 佑輔 氏(九州大学)
受賞テーマ:
プラズマ乱流輸送の動的特性に着目した粒子輸送制御の研究
選考理由:
小菅氏は、プラズマの自発回転の駆動機構や磁力線に平行な流れの駆動するプラズマ乱流などに関する理論的な研究に取り組み、プラズマ乱流輸送への理解を進展させた。特に、Alcator C-mod装置における自発回転速度や直線装置PANTAにおける乱流計測を定量的・定性的に解釈するなど、実験と密接に連携した研究を推進した点が高く評価できる。また、乱流の動的特性に着目したプラズマ閉じ込め性能と不純物排出効率の両立に関する研究にも取り組み、研究成果を国内外で積極的に発信している。今後、理論の応用範囲をさらに広げることにより、核燃焼プラズマの性能向上に貢献する成果が得られることが期待できる。以上から、奨励賞に値すると判断した。
奨励賞
小菅 佑輔 氏
受賞者の抱負:
この度は、栄誉ある吉川允⼆記念核融合エネルギー奨励賞を受賞でき、⼤変光栄に存じます。対象となった研究成果は多くの⽅との共同研究に基づくものであり、また研究を進めていく上で多くの⽅にもご⽀援いただきました。厚く感謝申し上げます。
核融合プラズマの⾼性能化・定常化を⽬指し、乱れたプラズマの本質を理解したいという思いで研究を進めてきました。乱流状態にあるプラズマでは、流れに代表される様々な⾮線形構造が⽣み出され、熱・密度・運動量などの輸送が絡み合い、多彩な動⼒学が発現します。その理解にわずかですが貢献できたのではないかと感じております。燃焼プラズマに必要な三重積を持つプラズマの⽣成に⽬処がたち、今後はそのような⾼性能プラズマを⻑時間維持することが必要とされ、その中でも粒⼦制御の研究はますます重要性が増すものと思われます。乱れたプラズマの持つ特性に着⽬し、こうした難問に挑戦し続けていく所存です。
本賞の受賞を励みに、今後より⼀層研究に邁進して参ります。これからも変わらぬご指導・ご鞭撻をよろしくお願いいたします。
奨励賞
沖田 隆文 氏(大阪大学)
受賞テーマ:
核融合中性子源開発に向けた液体Liターゲットの流体力学的特性に関する研究
選考理由:
沖田氏は、核融合中性子源開発に向けた液体Liターゲット開発と運用において、液体Liターゲットの流体力学的特性を把握するためのモニタリング計測手法の開発や計測結果の分析といった多岐にわたる研究活動の中心的役割を果たし、成果を挙げてきた。これらの成果は、核融合エネルギー研究開発において重要な位置づけにある幅広いアプローチ活動(BA)における国際核融合材料照射施設(IFMIF)の工学実証・工学設計活動(IFMIF/EVEDA)、さらには核融合中性子源開発を進展させるものである。今後、液体Liのモニタリング技術や流体力学的知見を通じて、核融合中性子源開発の加速に貢献する成果が得られることが期待できる。以上から、奨励賞に値すると判断した。
奨励賞
沖田 隆文 氏
受賞者の抱負:
この度は、栄えある吉川允二記念核融合エネルギー奨励賞を賜り、誠にありがとうございます。液体金属Li噴流に関する研究を共同で実施してきた量子科学技術研究開発機構の皆様、核融合科学研究所の皆様、大阪大学の皆様、これまでご指導ご鞭撻を賜った皆様に、心よりの感謝を申し上げます。本研究は、核融合炉材料の候補材への中性子照射試験を行うための施設である国際核融合材料照射施設(IFMIF)の開発を目指してITER-BAの中で実施されてきました。大阪大学では液体リチウムの自由表面噴流試験部を有したループを所有しており、私自身非常に貴重な経験を積みながら、安定したLi噴流ターゲットの開発に向けた知見の獲得を目指してまいりました。現在は、A-FNS、IFMIF-DONESも含めた核融合中性子源実機の開発・運用に寄与することを目指した取り組みが継続されており、液体Liループでの実験とCFDシミュレーションによってその流動特性の解明などを進めております。今回の受賞を励みとして、核融合エネルギー分野の発展に向けて、より一層研究開発に邁進していく所存です。引き続きのご指導、ご鞭撻を賜りますと幸甚でございます。