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プレスリリース

世界最大プラズマを安定に維持する高速プラズマ位置制御コイルが完成 JT-60SAの容器内で直径8メートルのコイルを精度±2ミリメートルで製作

掲載日:2025年12月23日更新
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QST横ロゴロゴ令和7年12月23日
​国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
三菱電機株式会社


【発表のポイント】

  • 日欧共同で茨城県那珂市に建設した世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」において、2026年開始予定のプラズマ加熱実験で使われるプラズマを安定に維持する高速プラズマ位置制御コイル(以下FPPC)2体が完成。
  • FPPCは、JT-60SAの真空容器(内径10メートル)内に装着する直径8メートルの銅製コイルで、製作にあたっては、真空容器の中という狭隘な環境下で巻線を行う技術的困難を克服し、位置・形状精度を±2ミリメートル以内で製作することに成功。
  • JT-60SAで開発した技術は、南フランスに建設中のイーターにおける容器内コイル製作に貢献。今後、JT-60SAで培われるFPPCを用いた世界最大プラズマの安定制御は、国際競争が激化するプラズマ制御技術の確立や原型炉の自律性・高信頼性確立に向けた重要な「礎」。

概要

FPCC 

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫。以下「QST」)と三菱電機株式会社(執行役社長 漆間啓。以下「三菱電機」)は、日欧共同で進めている「幅広いアプローチ活動」*1のうちJT-60SA*2において、プラズマの位置を高速かつ精密に制御するための中核技術である、高速プラズマ位置制御コイル*3(Fast Plasma Position Control coils, 以下、「FPPC」)2体を完成させました。
 JT-60SAは、2023年の初プラズマ試験時、160立方メートルという巨大なプラズマ体積を達成しています。2026年から開始予定のプラズマ加熱実験では、今回完成したFPPCでプラズマ制御を行い、プラズマ電流550万アンペア(5.5MA)を目指します。
 FPPCは、JT-60SAの真空容器(内径10メートル)の2か所に設置する直径8メートルの銅製コイルで、FPPCに流す電流(最大5000アンペア(5kA))を10ミリ秒という高速で制御し、プラズマの位置と形状を精密に制御します。QSTがFPPCの性能や容器の中でコイルを製作するための基本設計を行い、三菱電機がそれを実現する製作方法を新たに考案し、協力して仕上げの位置出し方法を確立しました。その結果、プラズマの安定制御に必要な精度である、FPPCの位置・形状精度を±2ミリメートル以内で完成させることができました。
 今回開発された製作方法は、南フランスに建設中のイーター*4における容器内コイル製作に貢献します。また、今後、JT-60SAで行われるFPPCを用いたプラズマ制御は、イーターで計画されているプラズマ制御を事前に検証できるものであり、国際的にも競争が激化しているプラズマ制御技術の確立やAIによるプラズマ自動制御技術の礎となるものです。今回のFPPCの完成は、フュージョンエネルギー研究開発を世界的に推進するための重要な一歩となります。

【概要】

 JT-60SA全容と内部のプラズマの様子を図1に示します。JT-60SAは超伝導コイルによって磁場の“かご”を形成し、その中にプラズマを閉じ込めています。核融合出力を高めるためには、プラズマの閉じ込め性能を向上させ、プラズマ温度を数億度という高温にすることが重要です。
 プラズマ中のイオンや電子などの粒子は、磁場によって閉じ込められているものの、互いに衝突しながら徐々に拡散し、最終的には壁へと逃げていきます。このような状況下で閉じ込め性能を高めるには、プラズマの形状を工夫し、プラズマ自身の圧力で粒子の拡散を抑え、粒子が壁に到達するまでの経路をできるだけ長くする必要があります。現在では、プラズマ断面が縦長の三角形をしている形状が、閉じ込め性能の向上に効果的であることが分かっています。
 今回製作したFPPCは、この三角形の形状を維持するためのコイルで、JT-60SAの真空容器内の上下2か所に設置されます(図1中、上FPPCと下FPPC)。プラズマが不安定になり、理想的な三角形が崩れそうになった際には、FPPCに流す電流を調整して磁場を変化させ、プラズマの位置と形状を精密に制御します。

概要図
​図1 JT-60SAと内部のプラズマの様子

【FPPCの設計】

 FPPCは、図2に示すようにJT-60SAのプラズマを閉じ込める真空容器(内径10メートル)内の上下2か所に設置されます。まず、真空容器の壁全面に、真空容器や超伝導コイルの製作・据付誤差を補正する誤差磁場補正コイル(Error Field Correction Coils:EFCC)を設置します。このEFCCなどの構造物が多数突き出ている真空容器内でFPPCを製作し、壁に固定します。さらにその後、安定化板という金属板を貼り、FPPCとプラズマが接しないようにします。最後に、安定化板にプラズマの熱を除熱する冷却配管と炭素タイルを貼ります。

真空容器内機器の据付の流れ
​図2 JT-60SA真空容器内機器の据付の流れ(左)とFPPCの位置(右)

 

 FPPCの基本設計はQSTが実施しました。FPPCは、図3に示すように直径が約8メートルで、断面でみると内部が空洞で水を流すことができるホロー導体を23ターン巻いた構造です。一つのFPPC製作には約600メートルの導体を使います。導体に耐放射性のある樹脂を含浸した絶縁テープを巻いて、導体間が電気的に繫らないようにします。最後に、巻いた導体をコイルケースに入れて、蓋を溶接します。基本設計では、プラズマ運転前の200度でのベーキング、運転中にプラズマが崩壊する現象(ディスラプション)時に発生する電磁力などの応力に耐えられるように構造設計も行い、コイルケースを補強し、がっしりと真空容器に固定される構造としました。一方で、プラズマを安定に制御するために磁場の誤差を小さくする必要があり、直径8メートルのコイルの中心位置、半径および高さを±2ミリメートルの精度で製作する必要がありました。

FPPCの設計
図3 FPPCの設計​

【FPPCの制作】

 通常、導体を巻いて作るコイルは、工場で製作されます。しかし、今回、既に完成しているJT-60SAのプラズマを閉じ込める真空容器内に、真空容器とほぼ同サイズのコイルを入れる必要があるため、工場ではなく、真空容器内で巻線を行う必要がありました。
 QSTは、基本設計時に、真空容器の外に導体を配置し、導体を真空容器内に引き込み、真空容器内に巻線機を置くという基本構成を作りました。このFPPCの製作を、超伝導コイルや銅製コイルの製作で高い実績を持つ三菱電機が受注しました。QSTの基本構成に基づき、三菱電機は、真空容器外に巻線をほどいていくアンコイラー(図4(1))、真空容器内外を繋ぐポートに導体を伸ばしながらガイドするガイドローラー(図4(2))、その先に導体に絶縁物を巻くローラー装置(図4(3))を配置しました。真空容器内には、コイルを巻くターンテーブル(巻き枠)(図4(4))を設置しました。導体を均一に巻くためには、導体をできるだけ同じ高さに維持したまま引っ張りながら巻く必要があります。しかし、導体を引き込むポートのサイズや位置はあらかじめ決まっており、真空容器内にはEFCCや他の構造物があることから、作業にあたり理想的な位置に各機器を配置することはできず、コイル製作にあたっては導体がたわむ、歪む、さらに絶縁物に撚れができるなどの懸案がありました。
 そこで、導体のたわみを防ぐために、真空容器外にあるアンコイラーでの導体の送り速度と容器内における巻き取り速度が合うように、ターンテーブル(図4(4))の回転速度を調整できるようにしました。導体の歪みについては、コイルがターンテーブル上の巻枠に強く押し付けられる配置しかとれず、巻枠が変形して導体が歪む懸念があったため、巻枠を高強度化し、巻枠の半径方向縮みを0.5ミリメートル以下となるように設計しました。絶縁物の撚れに対しては、絶縁物を巻く装置(図4(3))に導体の位置保持機構を追加し、導体に対して絶縁物が撚れずに巻ける構造を実現しました。
 コイルをコイルケースに装着後の整形について、当初、コイルの一部を押すと他の箇所が変形するなどしてうまくいかなかったため、QSTと三菱電機で打開策を議論し、コイルを最終的に取り付ける18体の固定座そのものに強化した位置出し治具を設けて、ダイヤルゲージで微小な変化をモニターしながらレーザートラッカーで計測し、整形と位置出しを同時に進めることとしました。
 その結果、コイル中心の位置、コイルの半径および高さを目標値±2ミリメートル以内とするという技術課題を克服して製作を完了しました。このようにして、真空容器内という狭隘な環境で、巨大コイルを精度良く製作する技術を確立することができました。

FPPCの現場製作図
​図4 JT-60SAにおけるFPPCの現場製作

【さいごに】

 今回製作したFPPCは、2026年より開始されるJT-60SAのプラズマ加熱実験で使用され、日欧共同で開発した制御プログラムを用いてプラズマを安定に制御・維持します。JT-60SAを通じて獲得されるFPPCを用いたプラズマ制御技術は、イーター*4で計画されているプラズマ制御を事前に検証できるレベルのものであり、国際的にも競争が激化しているプラズマ制御技術の確立にも貢献します。またフュージョンエネルギー原型炉*5で期待されているAIなども含めた自動制御技術の礎となるものであり、今回のFPPCの完成は、フュージョンエネルギー研究開発を世界的に推進するための重要な一歩となります。

 

【用語解説】

*1…幅広いアプローチ(Broader Approach:BA)活動

 幅広いアプローチ(BA)活動は、欧州原子力共同体(Euratom)と日本が協力して進める、フュージョンエネルギーの早期実現を目指す取り組みで、イーター計画を補完し、フュージョンエネルギーの研究開発を加速させることを目的とした活動である、サテライト・トカマク装置の建設、将来の装置で使用する耐久性のある材料を開発する国際核融合材料照射施設、将来の原型炉(DEMO)の予備作業が含まれます。サテライト・トカマク計画は、イーター計画における研究開発を効率的に行うとともに、原型炉に向けた補完研究を実施することを目的として、日本が所有するトカマク実験装置を超伝導プラズマ実験装置に改良するものです。
URL: https://www.ba-fusion.org/ba/

 

*2…JT-60SA(JT-60 Super Advanced、ジェーティーロクジュウ スーパー アドバンス)

 JT-60SAは、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置です。幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として建設されました。JT-60SAの目的は、イーターの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたイーターの補完研究、人材育成です。
 JT-60SAでは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用して磁場のかごを作り、1億℃にも達するプラズマを閉じ込めます。「トカマク型」とは、この磁場によりプラズマを閉じ込める方式の一つで、超伝導コイルを組み合わせ、周方向のトロイダル磁場、径方向のポロイダル磁場を組み合わせ、ドーナツ形の形に沿ってねじれた形の磁場を作ります。イーターもトカマク型の装置です。
URL: https://www.jt60sa.org/wp/
URL: https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html(日本語)

 

*3…高速プラズマ位置制御コイル(Fast Plasma Position Control coil:FPPC)

 トカマク型核融合装置において、プラズマの垂直方向の位置を高速かつ精密に制御し、プラズマの安定を保つためのコイルです。プラズマを閉じ込める超伝導コイルでは応答性が遅く、プラズマの急激な変化に追随できないため、FPPCがプラズマ制御を担っています。JT-60SAでは、直径8メートルにもなる世界最大のFPPC真空容器内の上側と下側に設置します。中国や韓国の実験装置でも使われていますが、コイルサイズはJT-60SAの約半分です。ITERでもFPPCを付けるため、JT-60SAにおける大きなFPPCの真空容器内製作は重要な参考事例となります。

 

*4…イーター(ITER)計画

 日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極の国際協力の下、その建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する計画であり、加熱システムによる入力エネルギーの10倍のフュージョンエネルギー(Q≧10)を得ることが目標です。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、プロジェクト実施のための国際機関であるイーター機構を中心に運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が行われるとともに、各極において担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。

 

*5…原型炉

 原型炉とは、JT-60SAやイーターの成果に基づいて建設される次期装置であり、フュージョンエネルギーによる発電と経済性を実証する装置です。現在、世界各国で原型炉の概念設計が進められています。