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~ナノダイヤモンドの個体差を約4分の1に抑え、量子信号も55%向上~

プレスリリース

血液中の微量な病気のサインを、高い信頼性で捉える量子センサの量産化へ
~ナノダイヤモンドの個体差を約4分の1に抑え、量子信号も55%向上~

掲載日:2026年10月7日更新
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QSTロゴ​千葉大ロゴ科学大ロゴ京都大ロゴType-Iロゴ​​ 2026年10月7日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
国立大学法人千葉大学
国立大学法人東京科学大学
国立大学法人京都大学
株式会社Type-I Technologies


発表のポイント

  • ナノダイヤモンドによる量子センサでは、粒ごとの性能のばらつきが大きく、「測るたびに同じ結果が出る」高い再現性と測定信頼性の確保が課題でした。
  • 新製法により粒ごとのばらつき度が1/4に低減し、かつ信号強度も55%向上することができました。
  • 細胞内の極微小な温度変化をきめ細かく捉え、がん検査等へ応用が期待されます。
  • ​「究極の量子センサを少量」から「一括バッチ生産・量産化」への道が拓けました。

概要

 量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)、千葉大学、東京科学大学、京都大学、株式会社Type-I Technologiesは共同(詳細は「主な研究体制」を参照)で、がん等の病気のサインとなる血液中にごく微量に含まれる物質を高感度に捉える「ナノダイヤモンド量子センサ」の製造プロセスにおいて、粒子ごとの個体差を約4分の1に低減し、量子信号を55%向上させる革新的な作製技術を開発しました。測定ロットによらない「高い再現性と信頼性」を確保しつつ、将来的な量産化への道を拓く本技術は、がん等の超早期診断の社会実装を大きく前進させる画期的な成果です。

成果概要

 従来のナノダイヤモンド量子センサは、原料ダイヤモンド粒子をナノサイズに砕いてからセンサ機能を作るため、機械的な破砕によって生じる傷やひずみにより、粒子ごとの“クセ”が測定誤差につながることが長年の課題でした。そこで研究グループは、原料ダイヤモンド粒子にあらかじめセンサ機能を作り込み、その後に熱で表面を少しずつ削り、結晶性の高い中心部のみを取り出すことで、細胞計測や分子検出に利用できる小さなサイズを保ちながら、粒子ごとの特性のばらつき低減と大幅な高感度化を両立する技術を確立しました。さらに、優れた粒子を一つずつ選別するのではなく、多数の粒子を一括して高性能化できるため、量産化への展開も期待できます。

 これにより、従来の体液診断技術の10万倍とも言われる高い検出感度で、さまざまな疾患の早期診断への活用が期待されるナノダイヤモンド量子センサに、さらに診断に不可欠な計測の再現性と信頼性を大幅に高めることが期待されます。また、細胞温度計測の感度と信頼性も大幅に向上したことで細胞状態の違いをきめ細かく捉えられるようになり、将来的にはがん検査などへの応用も期待されます。さらに新手法は、「究極の性能を持つ量子センサはごく少量しか作れない」という従来の常識を打ち破り、均一で超高感度な量子センサのバッチ生産など、将来の量産化にも展開できる作製法です。高性能なナノ量子センサの量産化に道を拓き、日常的な疾病の超早期診断の実現と普及を支える基盤技術になると考えています。

 本研究は、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラムQ-LEAP(課題番号:JPMXS0120330644、JPMXS0118067395)、内閣府 研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)および官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(PRESTO、課題番号:JPMJPR14F1、JPMJPR18G1)およびCREST(課題番号:JPMJCR24B6)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:JP20H02587、JP19K21563、JP20K19969、JP23K17039、JP23K18528、JP25K03444、JP26H02363、JP26K21620)、日本医療研究開発機構(AMED)ムーンショット型研究開発事業(課題番号:JP21zf0127004)、京都大学化学研究所 共同研究プログラム(課題番号:2025-84)、文部科学省 CURE(課題番号:JPMXP1323015488、Spin-L program no. spin24XC004)の支援により実施されました。本研究成果は、化学、生命科学、材料科学、物理学、工学にまたがるナノサイエンス・ナノテクノロジー研究を扱う国際オープンアクセス学術誌ACS Nanoscience Auに2026年10月7日にオンライン掲載されました。なお、本論文は、同誌の掲載号のSupplementary Cover Art(補足表紙)に選出されました。

【主な研究体制】

鈴木 智達:
(主務)QST 量子生命科学研究所 量子生命センシンググループ 技術員
(兼務)千葉大学大学院 融合理工学府 博士課程後期4年

五十嵐 龍治:
(主務)QST 量子生命科学研究所 量子生命センシンググループリーダー
(兼務)千葉大学 量子生命構造創薬センター 連携教授、東京科学大学 生命理工学院 教授

大島 武:
(主務)QST 高崎量子技術基盤研究所 センター長

柳 瑶美:
(主務)東京科学大学 生命理工学院 特任教授

水落 憲和:
(主務)京都大学 化学研究所 教授

神長 輝一:
(主務)株式会社Type-I Technologies 代表取締役
(兼務)QST 量子生命科学研究所 量子生命センシンググループ 主任研究員

研究開発の背景と目的

 ナノダイヤモンド注1量子センサは、ダイヤモンド中の量子状態を利用して、細胞内の温度などの微小な変化や、血液などの体液中にごく微量に存在する病気のサインを高感度に捉えることができます。特に、体液中の疾患関連分子を超高感度に検出する「量子リキッドバイオプシー」への応用が進み、ゼプトモル級という桁違いに高い検出感度も報告されています。一方、実際の診断に用いるためには、単に「微量なものが見える」だけでなく、測定する粒子や製造ロットが変わっても同じ結果が得られる再現性と信頼性が不可欠です。

 しかし、従来のナノダイヤモンド量子センサは、原料ダイヤモンドをナノサイズまで機械的に砕いてからセンサ機能を作り込むため、破砕によって生じる傷やひずみが粒子ごとに異なり、量子センサとしての特性にもばらつきが生じていました。この粒子ごとの“クセ”は、細胞温度を粒子間で正確に比較する際の誤差になるだけでなく、多数のセンサを用いる体液診断においても測定の再現性を損なう要因となります。実用化に向けては、少数の極めて高性能な粒子を選び出すのではなく、高感度で性能のそろった量子センサを大量かつ安定して作製できる技術が必要です。

 そこで本研究では、ナノダイヤモンド量子センサの高い感度を維持・向上させながら粒子間の特性ばらつきを大幅に低減し、細胞計測から量子リキッドバイオプシーまで、高感度かつ高信頼な量子計測と将来の量産化を両立するための新しい作製技術の開発を目指しました。

研究の手法と成果

 ダイヤモンドは、結晶面によって酸化されやすさが異なることが古くから知られてきました。我々はこの性質に着目し、酸化条件を精密に調整すれば、結晶の乱れや表面官能基の影響を受けやすい部分を優先的に取り除き、量子センサに適した結晶性の高い部分を残せると考えました。そこで本研究では、従来のようにダイヤモンドを先に細かく砕くのではなく、まず比較的大きく結晶性の良いダイヤモンド粒子の中にセンサ機能であるNVセンター注2を作り込み、その後、空気中でおだやかに表面を加熱しながらナノサイズまで削る新しい作製法を開発しました。

 この方法により、機械的な破砕で生じる損傷やひずみの影響を抑えながら、結晶性の高い中心部分10%のみを取り出して、細胞計測や分子検出に利用できるナノサイズまで小さくすることが可能となりました。その結果、温度読み出しの基準となるD値注3の粒子間ばらつき(ナノダイヤモンド間の特性のばらつきを示す指標)を従来粒子の約4分の1に低減しました。これは、多数のナノダイヤモンドを使用しても粒子ごとの量子応答の違いが小さくなり、体液診断などにおける計測の再現性や信頼性の向上につながる成果です。

従来技術との比較

 さらに、感度指標のひとつである量子センサ信号強度(ODMR注4信号強度)も55%向上しました。すなわち、センサの均一性を高めるだけでなく、一粒一粒から得られる量子信号そのものも強くすることができました。これは、すでに極めて高い感度を持つナノダイヤモンド量子診断において、微弱な疾患関連シグナルをより確実に読み取るための基盤となります。

性能向上

 また、実際の生体環境での性能を確認するためHeLa細胞内で温度計測を行ったところ、従来粒子より明瞭な信号が得られ、細胞間の温度読み出しの不確かさを温度換算で約0.7℃まで低減しました。これは、材料段階でナノダイヤモンドの個体差を抑えることで、複雑な細胞内でも安定した量子計測が可能になることを示しています。今後、細胞温度と病態との関係を明らかにすることで、細胞状態の違いを温度から高い信頼性で捉える新たな検査技術への展開も期待されます。

今後の展開

 ナノダイヤモンド量子センサは、これまで極めて高い感度を実現する一方で、粒子ごとの特性のばらつきが、計測の再現性や信頼性を高める上での課題となっていました。本研究により、量子センサとしての高い性能を保ちながら粒子間のばらつきを大幅に抑えることが可能となり、ナノダイヤモンド量子センサを、「高感度に測れる」技術から「高感度かつ信頼して比較できる」計測技術へ発展させる基盤が得られました。

 細胞計測では、性能のそろったナノダイヤモンドを用いることで、細胞ごとの温度の違いをこれまで以上に安定して比較できるようになります。細胞温度は代謝や薬剤応答など細胞状態を反映することから、将来的にはがんなどの病態に伴う細胞状態の変化を温度から捉える新たな検査技術への応用が期待されます。

 さらに、血液などに含まれるごく微量な疾患関連分子を検出する「量子リキッドバイオプシー」では、すでにゼプトモル級の超高感度検出が可能となりつつあります(関連情報参照)。今回、粒子ごとの量子特性をそろえ、さらに量子センサ信号自体も向上できたことで、超高感度という強みに、再現性と信頼性を加えることが期待されます。これは、量子リキッドバイオプシーを研究室での超高感度計測から、実際の診断に利用できる技術へ発展させる上で重要な一歩です。

 また、本作製法は、少数の「究極の性能を持つ量子センサ」を選び出して使用する従来の考え方から、性能のそろった超高感度量子センサをバッチ単位で多数作製する方向への転換を可能にします。今後、製造工程の最適化を進めることで、高性能ナノダイヤモンド量子センサの量産化に道を拓き(関連情報参照)、誰もが日常的に超高感度診断を利用できる社会を支える基盤技術へ発展することが期待されます。

用語解説

注1)ナノダイヤモンド:
数十〜数百ナノメートル程度の大きさをもつダイヤモンド粒子。細胞に取り込ませて観察や計測に使うことができます。
注2)NVセンター:
ダイヤモンドの結晶中にある特殊な構造。その蛍光が変化するマイクロ波周波数が温度によってわずかにずれるため、ナノサイズの温度センサとして使うことができます。
注3)D値:
NVセンターの温度読み出しに使われる基準値。従来は、同じ温度でもこの値が粒子ごとに大きくずれるため、センサ間や細胞間の温度差の比較が困難でした。
注4)ODMR:
NVセンターから出る光の変化を読み取ることで、温度などに関係する量子状態を測る方法。

関連情報・関連報道

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<関連プロジェクト>

・SIP第3期「先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進」
 研究開発テーマC-2d「超早期体外診断のための量子診断プラットフォーム―多様な疾病の簡便・安価な超早期診断を実現する量子リキッドバイオプシーの創製」https://www.qst.go.jp/site/sip3/ryousi-c.html

・BRIDGE「高感度ナノ量子センサの大量調製技術開発によるサプライチェーンモデルの構築」
 BRIDGE量子関連施策 2025年度パンフレット/uploaded/attachment/47105.pdf

<関連報道>

・日本経済新聞(2025年8月19日)「病気探す量子センサー、量研機構が28年に量産へ」

・産経新聞(2025年8月24日)「『血液でがんを見つける』実用化へ研究加速『リキッドバイオプシー』の実力」

・BSテレ東「いまからサイエンス」(2026年5月6日放送)「病気も“超早期”で発見!?『量子センサー』の実力」

論文掲載情報 

タイトル:Spin-Uniform Nanodiamond Quantum Sensors for Reproducible Intracellular Thermometry

著者:Chihiro Suzuki, Tamami Yanagi, Risa Ujiie, Masanori Fujiwara, Izuru Ohki, Hiroshi Abe, Shinobu Onoda, Takeshi Ohshima, Norikazu Mizuochi, Kiichi Kaminaga, Ryuji Igarashi

雑誌名:ACS Nanoscience Au

DOI:https://doi.org/10.1021/acsnanoscienceau.6c00068

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