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~細胞にも、適材適所。成分・硬さ・形状の調律で、細胞研究に新たな選択肢を~

プレスリリース

細胞に合わせて環境を設計できる培養基材『CellTune Gel™』の評価用サンプル提供を開始
~細胞にも、適材適所。成分・硬さ・形状の調律で、細胞研究に新たな選択肢を~

掲載日:2026年11月6日更新
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ロゴアテクトロゴ​2026年11月6日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
株式会社アテクト


発表のポイント

  • 細胞は、周囲の成分・硬さ・形状によって働きが変わります。しかし、一般的なプラスチック製の培養容器では、これらを細胞の種類や研究目的に応じて調整することが困難です。
  • QSTは、成分・硬さ・形状を設計できるタンパク質ゲル培養基材を開発し、株式会社アテクトへの技術移転を進めています。両者は、社会実装に向けた製造・品質管理技術の確立に取り組んでおり、このたび、アテクトが「CellTune Gel™」の名称で評価用サンプルの提供を開始します。
  • ​研究現場から得られる評価やニーズを反映して「CellTune Gel™」の実用性を高め、より生体に近い細胞・組織モデルの安定した作製と活用を支え、医薬品・化粧品の開発や再生医療研究などへの展開を目指します。

概要

 量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)高崎量子技術基盤研究所先端機能材料研究部の大山智子プロジェクトリーダーらと株式会社アテクト(代表取締役社長 大西誠、以下「アテクト」)は、QSTが開発した細胞が接する成分・硬さ・形状を設計できるタンパク質ゲル培養基材※1の実用化に向けて共同開発を進めており、このたび、アテクトが「CellTune Gel™」※2の名称で評価用サンプルの提供を2026年11月6日から開始します。本取り組みは、科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同ステージII(本格フェーズ)の支援を受けて実施するものです。QSTからアテクトへの技術移転を通じて、両者は安定した製造・品質管理技術の確立を進め、研究現場への安定供給を目指します。

 体内の細胞は、タンパク質などでできた柔らかな環境に囲まれ、その成分・硬さ・形状などの影響を受けて働きを変えています。一方、一般的な細胞培養に用いられるプラスチック製の培養容器(ディッシュやマイクロプレートなど)は、細胞が接する面が硬く平らで、細胞の種類や研究目的に応じて、その環境を調整することが容易ではありません。そこでQSTは、細胞に働きかける機能を保ったままタンパク質をゲル化・加工し、細胞が接する面の成分・硬さ・形状を設計できる独自の放射線加工技術を開発してきました。

 この技術を基盤とする培養基材が「CellTune Gel™」です。細胞(Cell)に合わせて培養環境を調律(Tune)するとともに、細胞の機能や状態を適切に引き出すことを目指して名付けました。

 QSTとアテクトは、評価用サンプルを早期に研究現場へ届け、得られた評価やニーズを基に基材の仕様や使用方法などを検討し、さまざまな細胞や研究目的に対応できる実用的な培養基材へと完成度を高めていきます。その一環として、2026年11月6日よりCellTune Gel™のウェブサイトを公開し、評価用サンプルの相談・申込受付を開始します。また、2026年11月13日から15日に開催される日本動物実験代替法学会第39回大会でもCellTune Gel™を紹介します。

 QSTとアテクトは、細胞の種類や研究目的に応じて選べる培養基材として、CellTune Gel™を研究現場に広めることを目指します。これにより、より生体に近い細胞・組織モデルの安定した作製と活用を支え、病気の仕組みの解明や医薬品・化粧品の開発、再生医療研究などへの貢献につなげます。

CellTune Gel™のコンセプトイメージ
​図1.CellTune Gel™のコンセプトイメージ
成分・硬さ・形状を、細胞の種類や研究目的に応じて調律するタンパク質ゲル培養基材を表現しています。

【細胞培養の現状と課題】

 細胞を人工的に育てる細胞培養技術は、生命現象や病気の仕組みの解明、医薬品・化粧品などの有効性・安全性評価、再生医療・細胞治療、食料生産など、幅広い分野で利用されています。扱う細胞の種類や研究目的も多様化しており、単に細胞を生育させるだけでなく、その働きを適切に引き出すことが求められています。

 体内の細胞は、コラーゲンをはじめとするさまざまなタンパク質などからなる柔らかな環境に囲まれ、その成分・硬さ・形状などの影響を受けて、挙動や機能を変化させます。このため、細胞の種類や研究目的に応じて培養環境を整えることは、体内での細胞の状態や働きを理解し、適切な研究や評価を行う上で重要です。

 しかし、一般的な細胞培養に用いられるプラスチック製の培養容器(ディッシュやマイクロプレートなど)は、細胞が接する面が硬く平らで、その成分・硬さ・形状を細胞の種類や研究目的に応じて調整することが容易ではありません。

【QSTにおけるこれまでの研究開発】

 細胞に合わせて培養環境を調整する材料として、体内で細胞を取り巻くタンパク質は有力な候補です。しかし、タンパク質は一般に熱や薬品によって構造や機能が変化しやすく、細胞に働きかける機能を保ちながら加工することが困難でした。 

 QSTはこの課題を解決するため、放射線によって生じる化学反応を利用してタンパク質を架橋※3し、ゲルを作製する技術を開発してきました(特許第7414224号、特許第7658611号)。本技術では、タンパク質の水溶液に放射線を照射し、水の分解によって生じる反応性の高い水酸化ラジカル(OHラジカル)※4をタンパク質に反応させることで、タンパク質同士を架橋します。この方法により、熱処理や架橋剤などの化学薬品を用いることなく、細胞に働きかける機能を保ったタンパク質ゲルを作製できます。

 用いるタンパク質の種類や組み合わせによって成分を選択できるほか、放射線の照射量などを調整して架橋の度合いを制御することで、ゲルの硬さを調整できます。さらに、型の中でゲルを作製することにより、表面にマイクロメートル(µm、1 mmの1000分の1)単位の微細な形状を形成することもできます。

 QSTは、これらの技術を細胞培養に応用し、体内組織にみられる硬さや微細な形状を模倣したタンパク質ゲル培養基材を開発するとともに、基材の硬さや形状が細胞の挙動や機能に及ぼす影響を調査してきました。例えば、筋肉と同程度の硬さと筋線維に似た微細な凹凸形状を組み合わせたゲル上で筋肉細胞を培養することにより、従来のプラスチック製培養容器では得られなかった、遅筋※5の特性を持つ整列した培養筋肉の作製に成功しました(日常動作や持久的活動に重要な「遅筋」培養筋肉の作製に成功 ~筋肉の衰えを予防する筋機能の改善法開発に新展開~ - 量子科学技術研究開発機構)。

 また、QSTが開発した培養基材は、これまでにQST内外の研究機関や企業など計15研究グループに提供され、さまざまな細胞や研究目的への応用可能性が評価されています。

【サンプル提供とフィードバックの活用について】

 CellTune Gel™は、細胞や研究目的に応じて成分・硬さ・形状を設計できることを特徴としています。一方、細胞の種類や研究目的によって適した条件や求められる性能は異なるため、実用的な培養基材へ育てていくためには、開発の早い段階から幅広い研究現場で評価し、実際の使用を通じて課題やニーズを把握することが重要です。

 そこでQSTとアテクトは、評価用サンプルを研究現場へ早期に提供し、使用する細胞や培養条件、基材の操作性、細胞の状態や応答、改善に向けた要望などについてフィードバックを収集します。得られた評価やニーズは、基材の仕様や使用方法、製造・品質管理技術の改善に活用します。サンプル提供、研究現場からのフィードバック、改良という循環を通じて、CellTune Gel™をさまざまな細胞や研究目的に対応する実用的な培養基材へと育てていきます。

 評価用サンプルの提供を希望する方は、CellTune Gel™ウェブサイトの問い合わせフォームからご相談・お申し込みいただけます。今回提供する評価用サンプルは、生体組織の主要な構成成分であるコラーゲンを原料とするゼラチンを用い、硬さを複数段階に調整した試作品です。ご相談・お申し込みの内容をもとに、使用する細胞や研究目的などを確認し、提供するサンプルの種類や使用条件について調整した上で、準備が整ったものから順次提供します。

 問い合わせフォームを通じて取得した情報や、サンプル使用後に提供いただいた評価結果は、評価用サンプルの提供およびCellTune Gel™の改善に必要な範囲で適切に取り扱います。

 

CellTune Gel™ウェブサイト

 URL:https://www.atect.co.jp/celltune-gel/(2026年11月6日公開)

 

日本動物実験代替法学会第39回大会

 会期:2026年11月13日(金)~15日(日)
会場:アクリエひめじ

 内容:CellTune Gel™のコンセプト紹介、評価用サンプルの相談・申込受付

​【謝辞】

 本技術移転は、科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同ステージII(本格フェーズ)(JPMJTR264A)の支援を受けています。また、これまでのQSTにおける研究開発は、JST戦略的創造研究推進事業ACT-X(JPMJAX2014)および研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型)(JPMJTR22U7)の支援を受けました。

【用語解説】

※1 タンパク質ゲル培養基材
ゲルとは、液体を多く含みながら形を保つ、ゼリー状の柔らかい材料です。タンパク質ゲル培養基材は、タンパク質を主な材料として作られたゲル状の細胞培養用材料で、細胞が接する環境として用いられます。材料の成分や硬さ、表面の形状などによって、細胞の状態や働きに影響を与えます。
※2 CellTune Gel™
QSTが開発した放射線加工技術を基盤として、QSTとアテクトが実用化に向けて開発を進めているタンパク質ゲル培養基材です。細胞の種類や研究目的に応じて、細胞が接する面の成分・硬さ・形状を設計できることを特徴とします。名称は、細胞(Cell)に合わせて培養環境を調律(Tune)するというコンセプトに由来します。「CellTune Gel」は、株式会社アテクトが商標出願中の名称です。
※3 架橋
分子同士を化学的につなぎ、網目状の構造を作ることです。本技術では、タンパク質同士を架橋することで、水を多く含むゲルを形成します。
※4 水酸化ラジカル(OHラジカル)
水に放射線が当たることで生じる、反応性の高い化学種です。本技術では、水酸化ラジカルの反応を利用してタンパク質同士を架橋し、ゲルを形成します。
※5 遅筋
骨格筋は、遅筋と速筋の2種類に分類されます。遅筋は、姿勢の維持や日常動作、マラソンのような持久的な活動を得意とします。一方、速筋は、短距離走のように瞬間的に大きな力を発揮する活動を得意とします。