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世界初!開放型PET装置の実証に成功

掲載日:2018年12月26日更新
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世界初!開放型PET装置の実証に成功「PETで見ながらがん治療」の実現に弾み

平成23年1月21日
独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長:米倉 義晴)
分子イメージング研究センター 先端生体計測研究グループ
山谷泰賀チームリーダー

本研究成果のポイント

  • 世界初となる開放型のPET※1装置「OpenPET®※2の小型試作機を開発
  • 開発した小型試作機により、目に見えない重粒子線治療ビームをその場で可視化できることを実証
  • がんが照射される様子を見ながら治療する「PETで見ながらがん治療」の実現に向け、今後実用化を目指す

独立行政法人 放射線医学総合研究所(以下、放医研)分子イメージング研究センター山谷 泰賀(やまやたいが)チームリーダーらは、3年前に発表※3した開放型PET装置「OpenPET®」について、千葉大学と共同で小型試作機を開発し、コンセプトの実証にはじめて成功しました。PETは、がん診断等に役立つことから普及が進んでいますが、CT装置と同じような狭いトンネル状の装置に患者を通して検査を行うため、その応用範囲が制限されていました。これに対してOpenPET®は、トンネルを分断し、中央部を広く開放化しても画像化できる画期的な方法であり、この開放空間を使って同時にがん治療するなどPETの応用が大きく広がります。今回、重粒子線がん治療装置HIMAC※4において人体に見立てた模型を使った実験を行い、患者体内の治療ビームの様子をほぼリアルタイムに画像化できることを実証しました。

これまで、放射線がん治療では、照射の位置決めをした後は、実際に照射される様子を見ることができませんでした。今後、医師がPETで照射状態を見ながら確実に照射を行う、新たな放射線がん治療の実現を目指します。

本研究の成果は、2011年1月24日、分子イメージング研究センター主催の次世代PET研究講演会※5及び2011年1月25日、放医研主催の第2期中期計画成果発表会※6「安全と医療新しい放射線の時代へ」にて、発表されます。

研究の背景と目的

がんや認知症などの早期診断に有効と注目されているPETは、極微量の放射性同位元素(陽電子放出核種)で標識した特殊な薬剤を投与し、体内から放出される放射線を検出することで、糖代謝など代謝機能を画像化し、病気の有無や程度を調べる検査法です。放医研は、1979年に国産第1号のPET装置を開発して以来、PETの研究開発を継続してきました。これまでのPET装置は、患者ポートがCT装置やMRI装置と同様に長いトンネル状になっており、被検者に外部からアクセスしにくく、その応用範囲が制限されてきました。これに対して、山谷らは、世界初となる開放型PET装置の方法を3年前に提唱し、これを「OpenPET®」と名付けました(国際特許出願済)(図1)。OpenPET®は、検出器リングを体軸方向に2分割して形成した開放空間を3次元的に画像化する装置であり、3次元放射線位置(DOI)検出器※7と組み合わせることにより、開放化しても優れた分解能を維持することが可能です。

従来のPET装置(左)と開放型OpenPET®装置(右)の比較
図1:従来のPET装置(左)と開放型OpenPET®装置(右)の比較

OpenPET®により、PETの可能性が大きく広がると期待されます。特に、開放型という特徴を最大限に活用した応用として、放射線がん治療との組み合わせを検討し、要素技術の研究開発や周辺特許の出願を進めてきました。特に、重粒子線や陽子線による粒子線がん治療は、周囲の正常組織を避けてがん病巣に線量を集中できる理想的な放射線治療法ですが、実際の患者体内において、毎回の照射が治療計画通りの線量分布になっているかどうかを外部から検証する方法は確立していません。すなわち、治療計画時から標的が変形するなど何らかの原因で、線量分布にずれが生じてしまった場合、これを検出することは極めて難しいのが現状です。このため、照射ビームと標的の原子核反応により患者体内で陽電子放出核種が生成される物理現象を利用したり、治療ビーム自体を放射化※8したりして、標的内部の照射ビームの様子をPETの原理により画像化する試みがなされてきましたが、対向型のポジトロンカメラ※9を用いた先行研究では3次元の画像化は極めて困難でした。これに対して、山谷らは、OpenPET®を用いれば、開放部分を通して治療ビームを照射しながら、標的内部の照射ビーム自体を3次元的に画像化できると考えました。

そこで今回、上記のコンセプトを実証するために、OpenPET®の小型試作機をはじめて開発し、重粒子線がん治療装置HIMACにて実験を行いました。

研究手法と結果

開発した試作機は、DOI検出器から構成される2つの検出器リング(内径11cm)を4.2cm離して配置したものです(図2)。この幅は、ヒト用装置に相似拡大した場合、放射線がん治療に十分な20~30cmの隙間に相当します。そして、重粒子線がん治療装置HIMACにて、人体に見立てた模型に放射化させた重粒子線を照射する実験を行いました。(図3)。その結果、標的に入射した重粒子線を即時に3次元画像化することに成功しました。

開発したOpenPET®小型試作機
図2:開発したOpenPET®小型試作機

重粒子線がん治療装置HIMACにて、人体に見立てたアクリル円筒に入射した重粒子線を即時に3次元画像化した結果

図3:重粒子線がん治療装置HIMACにて、人体に見立てたアクリル円筒に入射した重粒子線を即時に3次元画像化した結果。重粒子線の下半分だけ、アクリル円筒内で5mm手前に止まるようにしたところ、5mmの違いがOpenPET®で正しく検出できることが示されました。

今後の展開

OpenPET®は、がん診断等に有用な分子イメージング※10の技術を放射線がん治療にも応用する画期的な方法とも言え、今後は、精度の向上や副作用の低減化のために、重粒子線がん治療における治療ビームの可視化の実現を目指します。

さらに、他の応用法として、OpenPET®で誘導しながら行う新たながん治療(画像誘導治療)の実現を目指した研究も行います。将来的には、がんに集積するPET薬剤を治療前に投与し、OpenPET®でがんの位置を3次元的に可視化しながら重粒子線を含む放射線治療や外科治療を施すことも可能になると考えています(図4)。研究成果は順次、企業などへの技術移転を図り、早期の実用化を目指します。

なお、本研究の一部は、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(A)(課題番号22240065)の助成によって遂行されました。

OpenPET®の今後の展開。PETで誘導しながら行う 新たな放射線がん治療(画像誘導治療)のイメージ
図4:OpenPET®の今後の展開。PETで誘導しながら行う新たな放射線がん治療(画像誘導治療)のイメージ

用語解説

※1 PET

PETとはPositron emission tomographyの略称で、陽電子断層撮像法のこと。PET装置は、画像診断装置の一種で陽電子を検出することにより様々な病態や生体内物質の挙動をコンピューター処理によって画像化する。

※2 OpenPET®

放医研が発明した世界初の開放型PET装置の方法。国際特許出願済み(WO2008/129666)。「OpenPET®」は、放医研の登録商標(登録第5258764号)。

※3 診断と治療が同時に可能な世界初の開放型PET装置を開発

「診断と治療が同時に可能な世界初の開放型PET装置を開発PETの可能性を広げ、分子イメージング研究を推進」(平成20年2月7日:プレスリリース)

※4 HIMAC

Heavy Ion Medical Accelerator in Chibaの略称で、重粒子線がん治療装置のこと。重粒子線によるがん治療は、加速器により炭素イオンを最終的に光速の約70%まで加速し、がん病巣に照射し治療に用いる。本装置は1994年に開発された医療用としては世界初の重粒子線加速器である。

※5 次世代PET研究講演会

放医研を中心にして、平成12年度から毎年開催している専門家向けの講演会。世界的な競争下にあるPETをはじめとした核医学イメージングの次世代装置開発において、産学官連携および技術移転を促進し、日本の技術力を高めることを目的としている。
2011年1月24日(月曜日)開催の平成22年度次世代PET研究講演会の情報は下記ページをご参照下さい。一般聴講可能、事前登録は不要です(参加費:無料)。

※平成22年度 次世代PET研究講演会は終了致しました。

また、下記webサイトから過去の報告書の閲覧が可能です(最新版閲覧はユーザー登録が必要です)。
画像診断棟 次世代PET開発研究会報告書webサイト (別ウィンドウ)

※6 第2期中期計画成果発表会

本成果発表会は「安全と医療新しい放射線の時代へ」とのテーマで開催します。2006年から5年間の計画で実施されてきた第2期中期計画終了に際し、期間中の研究成果と今後の展開を一般の皆様に直接紹介致します。

開催日:2011年1月25日(火曜日)13時開会
会場:東京国際フォーラム B5ホール
参加ご希望の方は下記アドレスの「申込みフォーム」にてお申込みください。(参加費:無料)

※第2期中期計画成果発表会は終了致しました。

連絡先:(独)放射線医学総合研究所 企画部 広報課
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp

※7 3次元放射線位置(DOI)検出器

次世代のPETの技術開発において、放医研と島津製作所、浜松ホトニクス、日立化成工業等の企業との産学官共同研究により世界に先駆けて開発した新規検出器であり、従来の2次元の放射線位置検出に対して、検出器内部で、検出器の深さ方向も含めた3次元の放射線位置検出を可能とする。従来のPETでは両立出来なかった感度と解像度の双方を飛躍的に向上させることができる。

※8 治療ビーム自体を放射化

重粒子線がん治療では、安定核である炭素12Cを加速させて治療ビームとするが、加速させた12Cを金属などの標的に当てて、11Cなど特定の放射性同位元素を治療ビームとして取り出すことを指す。二次ビーム照射と呼ばれる放医研独自の技術である。

※9 ポジトロンカメラ

測定対象を挟むように2つの2次元放射線検出器を対向させて、陽電子放出核種の分布を2次元画像化する装置。X線イメージングに例えると、PETはCTと同様な断層撮影法であるのに対して、ポジトロンカメラはレントゲン装置であると言える。

※10 分子イメージング

生体内で起こるさまざまな生命現象を外部から分子レベルで捉えて画像化する技術及びそれを開発する研究分野であり、生命の統合的理解を深める新しいライフサイエンス研究分野。体の中の現象を、分子レベルで、しかも対象が生きたままの状態で調べることができる。がん細胞の状態や特徴を生きたまま調べることができるため、がんができる仕組みの解明や早期発見が可能となる新しい診断法や画期的な治療法を確立するための手段として期待されている。

プレスリリースのお問い合わせ

ご意見やご質問は下記の連絡先までお問い合わせください。

独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
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