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緊急被ばく医療体制の強化に新型車両3台を整備

掲載日:2018年12月26日更新
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緊急被ばく医療体制の強化に新型車両3台を整備
-東京電力福島第一原子力発電所での事故対応の経験を反映-

2012年5月16日10時
独立行政法人 放射線医学総合研究所

本成果のポイント

  • 東京電力福島第一原子力発電所での事故対応の経験を踏まえ現場指揮・除染、被災者の救急搬送、被災者の汚染検査・被ばく線量の測定のための新車両を整備
  • 新車両を5月17日にマスコミ向けに公開

 独立行政法人放射線医学総合研究所(以下、放医研)は、東京電力福島第一原子力発電所(以下、東電原発)事故での経験を反映した新規車両3台(支援車、大型救急車、検査測定車)を製作し、緊急被ばく医療体制の強化のために整備しました。
 昨年発生した東電原発の事故では、インフラの破壊により通信機能が麻痺したことから、千葉市の放医研と福島地域に派遣された者との間の情報交換や安全確認が限定的なものになってしまいました。また初期段階では関係機関への通信が十分にできなかったことから傷病者を治療することの可能な施設の確保も困難でした。このため、今回のような未曾有の複合災害による原発事故においても、計測から被ばく患者の安全で確実な搬送までを一貫して行う等、放医研の知見・経験を生かした活動を遺憾なく行うために、必要とされる通信・計測・搬送の機能を搭載した車両を新規に製作いたしました。
 製作した3台の車両に、共通設備として衛星電話システムと、計測した放射線量・画像データの本部への送信、及び災害対策本部からの指示をリアルタイムで表示できるラジプローブシステム※1を搭載し、これらにより派遣者の安全確保や本部から迅速に指示することが可能になっています。また各車両にはそれぞれ現場指揮・除染(支援車)、被災者の救急搬送(大型救急車)、被災者の汚染検査・被ばく線量の測定(検査測定車)の役割に適した装備を搭載しています。これら3台により事態の長期化、傷病者数増加への対応、簡易ながら車内で内部被ばくまで検査できることが可能となりました。これらと環境調査を目的としたモニタリングカー※2を連携させることで、被災地の既存施設の被害に左右されず総合的な支援活動を行うことができます。

整備の背景と目的

 従来、放医研では原子力災害に備え、必要となる資機材のみならず大型車両を順次整備してきました。たとえば、1999年9月に茨城県那珂郡東海村で発生したJCO事故の翌年に製作したモニタリングカーは、空気汚染モニタ、ゲートモニタ※3、各種サーベイメータ類等を搭載しています。また同年に製作した患者搬送車両は、放医研にヘリコプターで搬送されてきた被災者を安全に被ばく医療施設に運び込むことを目的として製作され、車内である程度除染できるように排水設備を設置し、汚染物が拡散しないようにビニルシートやろ紙等で保護しています。
 これまで放医研が発災の初期段階において支援活動を行う場合、県が指定する被ばく医療機関やそこの通信・電力・水道などのインフラ設備を使用し、かつ被ばく患者及び派遣者の被ばく線量の低減の為に自然界と同程度の空間線量率の低い場所で実施することを想定していました。しかしながら、当初放医研の支援活動が行われた東電原発から5km圏にあるオフサイトセンターでは、電話、インターネット等による通信がほぼ不可能であったことから、被ばく患者の転送先の依頼・照会が困難になりました。また、空間線量を確認し、より低い線量の場所へ移動することにより被ばく患者及び派遣者の被ばく線量を低減するために必要な線量モニタシステムを搭載していなかった従来の車両では、必ずしも万全な対応を行うことができなかった、との反省が出てきました。

整備された車両の特徴

 放医研は、今回の事故で唯一20km圏内に入り活動した被ばく医療機関としての経験を反映して新型車両を製作しました。特に通信関係については、津波の影響により地上の通信インフラが全く使えない状態に陥り、放医研との全ての連絡を可搬型の衛星電話に頼らざるを得ない状態であったことと、車内やオフサイトセンターの限られたスペースに設置した衛星アンテナで安定した通信レベルを確保することが困難であることを経験したことから、全ての車両に衛星自動追尾式アンテナの衛星電話を搭載することとしました。
 また、現地で活動する要員の安全を確保するため、空間線量や放射性核種の同定が可能な放射線計測装置をベースに放医研で開発を進めたラジプローブシステム※1も全車両に搭載しました。このシステムには災害対策本部からの指示をリアルタイムにタブレット端末等に表示ができる機能を追加していますので、現地での活動に没頭する要員の安全確保を事故の状況に応じ、災害対策本部が迅速に指示することが可能となります。
 以下は各車両の特徴です。

  1. 支援車
     支援車は、災害現場で活動する作業者の現場指揮、事態の長期化に備えた仮眠場所等の確保及び被災者の汚染検査や除染を主目的としています。活動に必要な物品の搬出入の利便を図るため車両側面に大型の開閉扉を設置しました。また、手荷物用のサーベイメータ収納ケース等は軽量で、安全な取り出しや運搬に配慮したものとなっています。更に汚染検査の結果、除染が必要な場合には、給水のない場所でも被災者の除染ができるようにシャワー設備を有しています。
     屋外でのスクリーニング作業時にはこの車両が中心となります。
  2. 大型救急車
     汚染の可能性がある救急患者搬送を行うことを主目的としています。搭載している担架(ストレッチャー)は1台ですが、エアーストレッチャー等を用いることで寝た状態の被災者をさらに1名搬送可能です。また、比較的軽傷で椅子に座ることが可能な被災者を含めると最大6名の搬送が可能です。
     車内にはストレッチャー以外に、酸素ボンベ、救急用モニタシステム、半自動除細動器、吸引器、携帯型超音波診断装置を備えており、通常の救急車としての使用も可能です。
     一般救急医療キットだけでなく、安定ヨウ素剤や除染用の薬剤も搭載して運用します。
  3. 検査測定車
     発災初期段階の支援活動で被災者の被ばく線量評価を行うことを主目的としています。遮蔽体付きγ線スペクトロメータ※4、簡易フード、薬品保管庫等を設置しており、簡易的なバイオアッセイ※5が可能になっています。また、放医研REMAT(緊急被ばく医療支援チーム)※6用の高性能小型計測機材等を搭載し、被災地において汚染状況の確認や被ばく量評価を行うことができます。これらのデータは車載の通信システムで転送され、本部や専門家が以降の支援方法を判断することに利用できます。

今後の展望

 これら3台と環境試料の採取や環境放射能測定ができるモニタリングカーを連携させることで、被災地の既存施設(オフサイトセンターや初期被ばく医療機関)のインフラ(水道や電力、通信等)の被害に左右されることなく支援活動(緊急被ばく医療、環境モニタリング、被災者のスクリーニング)を行うことができるようになります。今後、放射線事故・原子力事故が発生した際に活用していきたいと考えています。

用語解説

※1 ラジプローブシステム

 放医研が被災地に派遣される事故対応要員の安全確保を目的として開発した空間放射線モニタリングシステム。パソコンをベースとしてGPSによる位置情報と放射線量率、放射線のエネルギースペクトルによる核種同定をPC上に表示すると同時に遠隔地(指令場所)からもその情報を閲覧できるようにした。今回の車両に搭載するシステムには災害対策本部からの指示をタブレットPCに表示できる機能を追加した。
 詳細はhttps://www.qst.go.jp/site/qms/1719.html
 「革新的放射線モニタリングシステム『ラジプローブ(仮称)』を開発」をご覧ください。

※2 モニタリングカー

 周辺の環境中の放射線の線量や放射性物質の濃度を測定できる機材(可般型ダストモニタ及びダストサンプラ、可般型エリアモニタ)や資料採取資機材(牛乳缶、土壌採取器具等)を搭載し、現地で計測を行う車のこと。放医研ではトラックを改造し、事故対応要員と各種サーベイメータや空気汚染モニタ等を搬送するためにも用いている。

※3 ゲートモニタ

 放射性物質が付着していないことを確認するために用いられるゲート(門)型の放射線モニタ。

※4 遮蔽体付きγ線スペクトロメータ

 γ線のエネルギーの分布を調べることができる装置。遮へい体を有するため空間線量が高い場所でもその影響を最小限にして精度の高い測定を行うことが可能となる。

※5 バイオアッセイ

 一般には生体試料を用いて、影響を分析する方法を示すが、ここでは排泄物などの試料を分析し、体内に摂取された放射能(放射性核種)を評価する方法、または採取した細胞の染色体を調べることにより被ばく線量を評価する方法を示す。

※6 放医研REMAT(緊急被ばく医療支援チーム)

 Radiation Emergency Medical Assistance Teamの略。放射線被ばくや放射性物質による汚染事故などが起きた時に、被災地で初期医療を支援することを目的として2010年1月に放医研が設立した組織。

今回公開する3台の外観
写真は今回公開する3台の外観。
右から支援車、大型救急車、検査測定車。

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