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千葉地区共通情報

三大認知症の一つであるレヴィ小体病の脳萎縮にもアミロイドが関連

掲載日:2018年12月26日更新
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三大認知症の一つであるレヴィ小体病の脳萎縮にもアミロイドが関連
―認知症の原因として最多のアルツハイマー病認知症の脳萎縮と同じ状況。
レヴィ小体病の新規治療戦略へつながる知見―

2012年12月6日10時
独立行政法人 放射線医学総合研究所
国立大学法人 千葉大学

本研究成果のポイント

  • アミロイド蓄積が認知症を伴うレヴィ小体病の脳萎縮に関連
  • 上記の脳萎縮は、アルツハイマー病の脳萎縮に酷似
  • アミロイドが認知症を伴うレヴィ小体病における治療標的となる可能性を提唱

 「レヴィ小体病」※1は、三大認知症※2の一つで、アルツハイマー病(以下、AD)のような認知障害とパーキンソン病のような運動障害の両方が現れることから寝たきりになる可能性が高く、大きな問題となってきています。日本には、約60万人(日本人の約220人に1人の割合)の患者がいるともいわれています。
 独立行政法人放射線医学総合研究所(以下「放医研」、米倉義晴理事長)分子イメージング※3研究センターの島田斉研究員らと千葉大学大学院医学研究院(以下「千葉大」、齋藤康学長)の桑原聡教授らは、PET※4とMRIを用いた研究により、認知症を伴うレヴィ小体病の脳萎縮にADと同じくアミロイド※5というタンパク質の蓄積が密接に関連することを世界で初めて明らかにしました。
 現在、ADに対する新規治療法としてアミロイドを取り除く新規薬剤の実証的臨床試験が行われていますが、本検討結果は、この治療が認知症を伴うレヴィ小体病においてもアミロイド沈着を伴う場合に応用できる可能性を示しています。
 本成果は、『Movement Disorders』のオンライン版に2012年12月6日に掲載予定です。

研究の背景と目的

 認知症は高齢者に多く、65歳以上ではおおよそ13人に1人が発症するとされており、特に高齢になる程発病率が高くなるため、本邦でも人口構成の高齢化に伴い、患者数は増加しています。認知症を伴うレヴィ小体病は、三大認知症の一つで、高齢者にも多く、典型的には、近時記憶障害(物忘れ)、幻視(実際には無い物や人が見える症状)の他、振戦(手足の震え)、筋強剛(関節の抵抗が大きくなる症状)、寡動・無動(動作が緩慢になったり、動けなくなったりする症状)、姿勢反射障害(バランスが悪くなる症状)等の様々な症状が認められます。しかし、その原因については不明な点が多く、いまだに解明されていません。
 アルツハイマー病ではアミロイドと呼ばれるタンパク質の塊が蓄積し、これにより神経細胞が死ぬことで脳が萎縮し、物忘れなどの症状が出ると考えられています。これまでの研究で、認知症を伴うレヴィ小体病においても、アミロイドの蓄積が生じる例があることや、脳が萎縮する例があることなどは知られていました。さらに、病初期に認知症を伴わないレヴィ小体病患者でも、脳が萎縮している症例では、将来認知症が出てくる可能性が高いということも報告されています。しかし、認知症を伴うレヴィ小体病における脳内のアミロイドの蓄積と脳の萎縮との関連は、明らかでありませんでした。
 本研究では、[11C]PIB※6という薬剤を用いたPET検査を行い、認知症を伴うレヴィ小体病患者、アルツハイマー病患者および健常者(対照)の脳内アミロイド蓄積を測定し、各群を比較しました。さらに認知症を伴うレヴィ小体病において、アミロイド蓄積を伴う群と伴わない群にわけ、これら二群とアルツハイマー病患者群、健常対照群において、MRI画像から推定した脳萎縮の程度を比較することで、認知症を伴うレヴィ小体病におけるアミロイド蓄積と脳萎縮の関係を探ることを目的としました。

研究手法と結果

 認知症を伴うレヴィ小体病患者15名、アルツハイマー病患者13名、および健常対照者17名を対象に[11C]PIBを用いたPET画像診断を行い、脳内アミロイド蓄積の分布を測定しました。認知症を伴うレヴィ小体病患者の40%(15例中6例)と、全てのアルツハイマー病患者で、脳内にアミロイド蓄積を認めました。

 認知症を伴うレヴィ小体病を、脳内にアミロイドが蓄積している群とアミロイドが蓄積していない群にわけると、アミロイドが蓄積している群における脳内アミロイドの分布は、アルツハイマー病における分布と類似していました(図1)。

PETで測定したアミロイド蓄積(脳の側面から見た断面像)
図1:PETで測定したアミロイド蓄積(脳の側面から見た断面像)

 アミロイドが蓄積している領域を黄色で示す。認知症を伴うレヴィ小体病においては、アミロイド蓄積を認める例での脳内分布は、アルツハイマー病における分布と同様である。

 次に健常対照群と比べた、各群における脳萎縮の分布を比較すると、アルツハイマー病とアミロイド蓄積を認める認知症を伴うレヴィ小体病群において、側頭葉や頭頂葉に脳萎縮を認め、一方アミロイド蓄積を認めない群では、明らかな脳萎縮を認めませんでした(図2)。

MRIで測定した脳萎縮(脳の下面、正面、側面から見た断面像)
図2:MRIで測定した脳萎縮(脳の下面、正面、側面から見た断面像)

脳が萎縮している領域をそれぞれ赤色、緑色、青色で示す。アルツハイマー病とアミロイドが蓄積した認知症を伴うレヴィ小体病においては、側頭葉と頭頂葉に脳萎縮を認める。

 さらにアミロイド蓄積を認める認知症を伴うレヴィ小体病群における脳萎縮の分布は、ほぼ完全に(約95%の領域で)アルツハイマー病における脳萎縮の分布と一致していることが明らかになりました(図3)。

脳萎縮の分布の重なり(脳の下面、正面、側面から見た断面像)
図3:脳萎縮の分布の重なり(脳の下面、正面、側面から見た断面像)

アミロイド蓄積を認める認知症を伴うレヴィ小体病における脳萎縮の分布(緑色)は、アルツハイマー病における脳萎縮の分布(赤色)と大部分が重なっている(黄色)。

 アルツハイマー病で特徴的に脳萎縮が認められる海馬周囲の萎縮を調べると、アミロイドが蓄積している認知症を伴うレヴィ小体病群においては、アルツハイマー病と同程度の海馬周囲の萎縮を認め、一方アミロイドが蓄積していない症例においては、海馬周囲は萎縮していないか、萎縮していてもその程度は極めて軽度であることが明らかになりました(図4)。

MRIで測定した海馬周囲の脳萎縮
図4:MRIで測定した海馬周囲の脳萎縮

健常対照群と比較した、海馬周囲の脳萎縮。Z値は大きいほど脳萎縮が強いことを表す。アミロイド蓄積を認める認知症を伴うレヴィ小体病は、アルツハイマー病と同程度の海馬周囲の脳萎縮を認める。一方、アミロイド蓄積を伴わない認知症を伴うレヴィ小体病においては、海馬周囲の脳萎縮は軽度か、ほとんど認めない。

本研究成果と今後の展望

 今回の研究結果により、認知症を伴うレヴィ小体病患者においては、脳内にアミロイドが蓄積しているとアルツハイマー病患者と酷似した脳の萎縮を認めることが判明しました。一方で、認知症を伴うレヴィ小体病でアミロイドが蓄積していない患者においては、ほとんど脳萎縮を認めませんでした。
 今回の結果は、現在アルツハイマー病に対する新規治療法として期待されているアミロイドを取り除く新規治療薬が、将来的に認知症を伴うレヴィ小体病においても有効でありうることを示しており、近い将来分子イメージング技術による病態の詳細な評価が、個々の患者さんにおける治療戦略を左右する、いわばテーラーメード治療の実現に寄与する可能性も示しています。
 今後、放医研では、世界的にもトップクラスの分子イメージング技術を脳科学研究に応用し、いまだに原因が明らかでない多くの脳疾患の病因解明、診断法の確立、新規治療法の開発につながるような成果を上げていきたいと考えています。
 なお、本研究は、千葉大学との共同研究であり、成果の一部は文科省委託事業「分子イメージング研究戦略推進プログラム」、厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「アミロイドイメージングを用いたアルツハイマー病発症リスク予測法の実用化に関する多施設臨床研究」、文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」の一環として行われたものです。

 このプレスリリースは『Movement Disorders』のオンライン版に掲載される「Shimada H, et al. β-Amyloid in Lewy body disease is related to Alzheimer's disease-like atrophy (邦題:アミロイド沈着はレヴィ小体病におけるアルツハイマー病様脳萎縮と関連する)」に基づいて作成されています。なおこの論文は以下のサイトに掲載されております。
 β‐amyloid in lewy body disease is related to Alzheimer's disease‐like atrophy

用語解説

※1 レヴィ小体病

 脳内にレヴィ小体と呼ばれる異常な構造物が蓄積する病気の総称。様々な運動障害を呈するパーキンソン病や、運動障害に加えて鮮明な幻視や物忘れを伴うレヴィ小体型認知症などがある。本研究では、認知症を伴うレヴィ小体病患者を研究対象とした。

※2 三大認知症

 高齢者における認知症の三大原因である、アルツハイマー病、レヴィ小体病、脳血管性認知症のこと。全認知症の8割以上が、これらのいずれかが原因と考えられている。

※3 分子イメージング

 生体内で起こるさまざまな生命現象を外部から分子レベルで捉えて画像化することであり、生命の統合的理解を深める新しいライフサイエンス研究分野。体の中の現象を、分子レベルで、しかも対象が生きたままの状態で調べることが出来る。脳の状態を生きたまま調べることが出来るため、物忘れなどさまざまな脳の病気の仕組みの解明や、早期発見が可能となる新しい診断法や、画期的な治療法を確立するための手段として期待されている。

※4 PET

 陽電子断層撮像法(positron emission tomography;PET)のこと。画像診断装置の一種で、陽電子を検出することによってさまざまな病態や生体内物質の挙動をコンピュータ処理によって画像化する技術である。

※5 アミロイド

 高齢者の認知症(物忘れの病気)で最も原因として多いアルツハイマー病患者の脳内に見られる異常なたんぱく質。認知症を伴うレヴィ小体病においては、脳内にアミロイドの蓄積を認める患者と、アミロイドの蓄積を認めない患者がいる。アルツハイマー病の物忘れでは、アミロイド以外にもタウタンパク質の関与が指摘されているが、レヴィ小体病では不明な点が多い。

※6 [11C]PIB

 アミロイドの蓄積を確認する目的で行われるPET検査で用いられる、検査用の薬剤の一種。PIBはアミロイドと特異的に吸着する性質があり、PIBを静脈注射で投与すると脳内でアミロイドが多い部分がくっきりと映し出される。研究のみでなく診断においては世界中で最も繁用されている薬剤である。

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