現在地
Home > 千葉地区共通情報 > 各医療機関でのCT撮影条件の設定に役立つWAZA-ARIv2の本格運用を開始

千葉地区共通情報

各医療機関でのCT撮影条件の設定に役立つWAZA-ARIv2の本格運用を開始

掲載日:2018年12月26日更新
印刷用ページを表示

各医療機関でのCT撮影条件の設定に役立つWAZA-ARIv2の本格運用を開始
-様々な体格・年齢の患者に対応、国内のCT被ばく線量の統計データの収集も可能-

平成27年1月30日
独立行政法人放射線医学総合研究所
独立行政法人日本原子力研究開発機構
公立大学法人大分県立看護科学大学

発表のポイント

  • CT撮影による患者の被ばく線量を評価し、統計データを収集するWebシステム1WAZA-ARIv2を開発し、平成27年1月30日より本格運用を開始。
  • 試験運用中のWAZA-ARIよりも、患者の体格や年齢をより綿密に考慮し、撮影条件に応じて、患者の線量管理や低減に必要な被ばく線量を適切に評価して迅速に提供。
  • インターネットを介した医療関係者との相互の情報交換により、医療機関ごとの線量データを蓄積し、CT撮影による被ばく線量の実態を把握。

 独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴以下、「放医研」という。)、独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長:松浦祥次郎以下、「原子力機構」という。)及び公立大学法人大分県立看護科学大学(以下、「大分県立看護大」という。)の甲斐倫明教授は、共同研究(文部科学省科学研究費補助金平成23年度-25年度、研究代表者:甲斐倫明)により、平成24年12月21日から試験運用を行ってきたX線コンピュータ断層(以下「CT」という。)撮影における被ばく線量評価システムWAZA-ARI2を改良してWAZA-ARIv2を開発し、平成27年1月30日より医療関係者への本格運用を開始することとしました。
 CT撮影は診断法として広く普及していますが、撮影による患者の被ばく線量は胸部レントゲン撮影等と比較して高いため、特に若年層や繰り返し撮影を受ける患者が過剰な被ばく線量を受けないように注意を払うことが必要です。また、日本国内で稼働しているCT装置の台数やCT撮影による被ばく線量は世界的に見ても多く、その実態を把握することが課題とされています。
 そこで、これらの課題を解決するため、WAZA-ARIv2では(1)被ばく線量の計算結果の他に、利用者となる各医療機関とWAZA-ARIv2を利用する医療機関全体とで、それぞれの被ばく線量の頻度分布を比較した情報の提供と、(2)患者の年齢や体格をより綿密に考慮した被ばく線量の計算を可能とする機能を新たに追加しました。(1)のために追加した機能は、医療機関の同意が得られた場合、各機関における被ばく線量のデータを収集、サーバーに蓄積し、それらを解析して国内のCT撮影に伴う被ばく線量の実態を把握するとともに、全体の被ばく線量分布を利用者にフィードバックするためのものです。各医療機関では、全体の被ばく線量分布と自施設の線量分布を比較することで、診断に適した画像を取得した上で、患者の過剰な被ばくを防止するためのCT撮影条件の設定に活用できます。また、(2)の機能は、患者情報として設定できる条件を拡張することにより可能となりました。WAZA-ARIでは設定できる条件が、成人では平均的な体格の日本人の男女と、未成年では4歳女児のみでしたが、WAZA-ARIv2では、成人は日本人男女の平均的体格に痩せ型や肥満型を加えた各性4つの体格、若年層は0,1,5,10,15歳の5つの年齢の男女から、条件を設定することができます。
 開発したWAZA-ARIv2は、下記のHPへアクセスして、必要な登録手続を得た上で、パーソナルコンピュータに表示されるインターフェイス画面3 を通じた簡単な操作を行うことで利用することができます。
URL:http://waza-ari.nirs.go.jp/waza_ari_v2_1 https://waza-ari.nirs.qst.go.jp/ 別ウインドウ

研究開発の背景と目的

 近年、医療現場でCT撮影は有用な診断技術として広く普及していますが、撮影に伴う被ばく線量は胸部のレントゲン撮影と比較しても高いことが知られています。そのため、IAEA等は特に若年層への撮影や同一の患者に対する繰り返し撮影について、被ばく線量へ注意を払うことを提唱しています。国内の医療分野の学会でも、患者の生涯にわたる医療行為による総被ばく線量を把握して、過剰な被ばくを防止する取り組みに着手しています。特に、日本国内のCT装置の台数は世界的にも多く、撮影件数は2005年時点の調査で年間約2,070万件を超えると推定されており、日本人のCT被ばく線量は世界的に見ても高いと考えられていますが、実際の医療現場での撮影の状況や受ける総被ばく線量を着実に把握する体制は確立されていません。
 以上の課題を解決するため、放医研、原子力機構及び大分県立看護大は、東海大学医学部附属病院や新別府病院などの診療放射線技師の協力を得て、平成24年12月に試験運用を開始したWAZA-ARIを改良したWAZA-ARIv2を開発し、国内の医療機関がインターネットを介して容易に利用し、相互の情報交換により被ばく線量の統計データを収集できるよう、放医研の管理の下、平成27年1月30日より、本格的な運用を開始することとしました。

WAZA-ARIv2の特徴

 今回、本格運用を開始したCT線量評価用システムWAZA-ARIv2は、平成24年12月より試験運用を開始しているWAZA-ARIと同様に、以下の特徴を有しています。

  • インターネットを介してHPへアクセスして利用するWebシステムなので、利用者にはインストールやメンテナンス等の負担がない
  • 利用者は、パーソナルコンピュータ(PC)に表示される画面に従ってCT撮影に用いる機種や撮影範囲やその設定条件、患者の年齢・体格・性別の情報を入力(図1)
  • 入力された条件に基づいて計算された、患者の臓器ごとの被ばく線量の結果を十秒以内にPC画面に表示

 更にWAZA-ARIv2では、患者の過剰な被ばくを防止するためのCT撮影条件の最適化のための医療機関への情報提供、様々な体格や年齢の患者の正確な被ばく線量の計算等に必要な以下の2つの機能を追加しました。

(1)利用機関の被ばく線量データを収集し、全体のCT被ばく線量分布情報を提供

 利用機関の被ばく線量データの収集は、利用者の同意に基づいて行われます。利用者は、最初に医療機関名やCT検査数などの情報を入力して、WAZA-ARIv2の利用登録をします。登録した利用者は、撮影条件や患者の必要な情報を入力することで、被ばく線量を計算することができます。また、入力した条件や被ばく線量の結果のデータをWAZA-ARIv2を通じて、任意で放医研のサーバーに登録することができます。一方、WAZA-ARIv2のサーバーでは、収集された各機関の被ばく線量データの情報から、検査種別及び撮影部位毎に国内のCT被ばく線量の分布を解析し、その結果を利用者に提供します。利用者は、WAZA-ARIv2に登録された全データの線量分布と自施設の線量レベルを比較することで(図2)、自施設で患者の過剰な被ばくを防止するためのCT撮影条件を設定し、患者の過剰な被ばくの防止を図ることに活用できます。

(2)患者の年齢や体格に応じた線量計算

 試験運用中のWAZA-ARIでは患者情報として設定できる条件が、成人では平均的な体格の日本人の男女と、未成年では4歳女児のみでした。これに対し、WAZA-ARIv2では、成人では日本人男女の体格に関する統計データに基づき、多くの日本人がその範囲に含まれると考えられる肥満型、痩せ形の患者、未成年の患者も0歳、1歳、5歳、10歳又は15歳の男女から選択して、線量を計算できる機能を追加しました(図3)。この線量計算では、成人については日本人平均と異なる体格の人体モデル4を新たに開発し、未成年についてはフロリダ大学及び米国国立がん研究所の協力を得て入手した人体モデルを用いて、原子力機構が中心となってシミュレーション計算5により撮影で受ける被ばく線量を解析し、その結果に基づき整備してWAZA-ARIv2に格納した線量データを利用します。
 利用者が一目で撮影条件と対比して結果を確認できるよう、計算結果を撮影条件の設定画面の右側に表示するレイアウトに変更しました。更に電子ファイルで撮影条件と計算結果を保存できる機能を追加するなど、利便性を考慮した改良も行っています。

期待される成果と今後の展開

 利用者の登録により蓄積された被ばく線量データは、各機関が自施設の撮影条件の最適化に利用できる他、放医研が適切に管理を行い、日本のCT被ばく線量の統計データとして、放射線防護を目的とした調査研究に継続的に利用していきます。また、今後放医研に集められた診断の実態データと組み合わせることにより医療被ばくデータベースの構築を行い、国内の医療被ばくの正当化や最適化のための研究に利用していく予定です。
 WAZA-ARIv2では様々な体格や年齢群のCT撮影時の各臓器の被ばく線量が計算可能になり、患者ごとにより正確な被ばく線量の計算ができるようになりました。特に放射線感受性の高い若年層に対する被ばく線量の管理は非常に重要であり、WAZA-ARIv2は若年層のCT撮影時の被ばく線量を詳細に知ることができる点でも非常に有用です。
 今のところ、WAZA-ARIv2の線量計算において選択できるCT機種は国内に設置台数が多い機種を中心として整備していますが、今後、文部科学省科学研究費補助金(平成26年度-28年度、研究代表者:東京医療保健大学准教授(放医研客員研究員)小野孝二)により、利用者の希望などを反映して、利用できる機種の拡張を行っていく予定です。

fig_01
図1.WAZA-ARIv2における計算条件の設定画面

(左枠にCT撮影条件や体格・年齢の条件を入力し、赤枠内のボタンを押すと右枠内に各臓器の被ばく線量の計算結果が表示される。)

fig_02
図2.WAZA-ARIv2でのCT診断に伴う被ばく線量の頻度分布の比較を示すグラフ

(薄緑:WAZA-ARIv2の蓄積した線量の全データ、濃緑:各機関の登録した線量データを示す。
結果のグラフはイメージとして示したもの。全身に対する実効線量以外に臓器別の頻度分布も解析できる。)

fig_03
図3.WAZA-ARIv2で選択できる人体モデル一覧

用語説明

※1 Webシステム

 インターネットを介して動作するシステムをいいます。利用に当たって、利用者は、PCでインターネット環境を整備するだけで、他のインストールやその後のメンテナンス作業を行うことなく、利用できる利点を持ちます。

※2 WAZA-ARI

平成24年12月21日に試験運用を開始したCT被ばく線量評価システムで、世界的に通用する日本語として柔道の技ありにちなんで名づけました。下記のURLにアクセスすることで利用できます(今後、WAZA-ARIv2への切替え時に利用を停止する予定)。
http://waza-ari.nirs.go.jp/waza_ari_v1/

※3 インターフェイス画面

 利用者が、PCの画面上に表示されるウィンドウ、アイコン、メニュー等をマウスやキーボード等を用い、視覚的に計算条件等を入力するための画面をいいます。

※4 日本人平均と異なる体格の成人の人体モデル

 CT診断を受けた成人患者のBMI分布データに基づいて各部位の周囲長を変化させた人体モデルです。WAZA-ARIでは各部位周囲長の標準偏差(σ)を考慮して、平均的な成人日本人体型を持つ人体モデルJM-103及びJF-103モデルに基づき、肥満型(周囲長が平均値+2σと平均値+5σとなる2体型)、痩せ型(平均値‐2σの周囲長となる1体型)の人体モデルを作成し、線量計算に利用しています。

※5 シミュレーション計算

 放射線の物質中での振る舞い(挙動)については、コンピュータで数値的に模擬することができます。CT撮影による被ばく線量についても、装置内でのエックス線発生から、人体内での挙動までを、シミュレーション計算で評価することができます。シミュレーション計算を利用することで、多様な撮影条件について、系統的に被ばく線量を解析することができますが、装置内のエックス線の挙動、患者を正確に数値でモデル化することが重要となります。WAZA-ARIの開発では、原子力機構が中心となって開発し、エックス線の挙動をも詳細に模擬可能な「粒子・重イオン輸送計算コードPHITS」を用いたシミュレーション計算により、線量データベースを整備しました。

プレスリリースのお問い合わせ

ご意見やご質問は下記の連絡先までお問い合わせください。

独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課
Tel:043-206-3026
Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp