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国際宇宙ステーションへマウス凍結受精卵を打ち上げ

掲載日:2018年12月26日更新
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国際宇宙ステーションへマウス凍結受精卵を打ち上げ
-宇宙環境がマウスの寿命や発がんに及ぼす影響を解析-

平成27年4月8日
国立研究開発法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)
放射線防護研究センター発達期被ばく影響研究プログラム
柿沼志津子チームリーダー

発表のポイント

  • マウスの凍結受精卵を用いた世界初の宇宙実験
  • 約6か月後、地上に帰還した受精卵を個体に発生させて宇宙放射線※1被ばくによる生物影響を解析
  • 宇宙放射線のリスク評価や防護基準の策定に貢献

 国立研究開発法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴、以下、放医研)は、平成27年4月13日、マウスの凍結受精卵(2細胞期胚※2)をSpaceX社のドラゴン補給船運用6号機(CRS-6)に載せて、米国ケープカナベラル空軍基地より国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げる予定です。
 有人飛行や宇宙ステーションなど宇宙環境での長期滞在において最も関心の高い健康影響として、宇宙放射線被ばくによる発がんと継世代影響※3があります。人への影響の基礎データを得るには、哺乳動物を用いて宇宙放射線による個体レベルの生物影響を調べることが必要です。
 そこで本研究では、マウスの凍結受精卵をISSの日本実験棟「きぼう」で約6か月間冷凍保管し、その後地上に戻して受精卵を発生させ、宇宙放射線被ばくによる個体発生、発生後の寿命や発がん及び遺伝子変異への影響を調べます。実験には放射線感受性の異なる複数の系統のマウスを使用します。これにより、将来の月面や小惑星などでの滞在を見据えたより長期的な宇宙滞在による哺乳動物への影響に関する知見を得ることで、宇宙環境における放射線防護のための基礎データを提供し、リスク評価や防護基準の策定に貢献していきます。
 本研究は、「きぼう」船内実験室利用第2期科学テーマ「ISS搭載凍結生殖細胞から発生したマウスを用いた宇宙放射線の生物影響研究(Embryo Rad)」の一環で国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同で実施します。

fig_01JAXAの国際宇宙ステーション「きぼう」利用実験紹介HP
ISS搭載凍結胚から発生したマウスを用いた宇宙放射線の生物影響研究

研究の背景

 有人飛行や宇宙ステーションなどの宇宙環境での長期滞在において、最も関心の高い健康影響である宇宙放射線被ばくによる発がんと継世代影響について、基礎的なデータを得るには、哺乳動物を用いて個体レベルでの生物影響を調べる必要があります。
 宇宙放射線の生物影響を調べるため、「きぼう」船内実験室を利用してマウスのES細胞や生殖細胞を用いた宇宙放射線の影響実験がこれまで行われてきていますが、これらで個体レベルへの影響や継世代影響を見るには、地上に帰還後に細胞融合や受精などの操作が必要となります。
 そこで放医研では、マウスの凍結受精卵(2細胞期胚)をISSに保管して宇宙放射線の影響を調べる実験を計画しました。本実験により、宇宙放射線の影響を個体レベルで直接的に見ることができる可能性があります。また、地上に帰還した受精卵は融解後仮親内で発生させるため、実験操作の影響が少ない条件下で、個体発生、寿命、発がん、遺伝子変異及び継世代影響を解析できると考えられます。

実験内容

 本実験には、遺伝的に放射線感受性の高いマウス、がんになりやすいマウス及び遺伝子突然変異解析用マウス、特に遺伝子の変異を持たない普通のマウス等の様々な系統のマウスの受精卵を用います。系統ごとに受精卵を20-50個ずつ専用のチューブに入れて緩慢凍結法により凍結し、チューブ100本を1セットとして緩衝剤で保護します(図1)。

fig_02

図1 打ち上げ用の試料の準備工程
「きぼう」にある冷凍庫(MELFI)は-95℃ですが、この温度は受精卵の保管には高く、保存温度による出生率の低下が心配されました。そこで本研究では、緩慢凍結法を用いて凍結受精卵を作成しました。これにより、受精卵を実験室の冷凍庫(-80°C)でも一定期間安定して維持できることが初めて確認されました。

 このセットをISS保管用と、比較実験のための地上保管用として、2セット用意します。用意した保管用の2つのセットは、凍結状態のままケープカナベラル空軍基地に輸送し、まずISS保管用の1セットは、SpaceX社のドラゴン補給船運用6号機によりISSに打ち上げ、日本宇宙実験棟「きぼう」にある冷凍庫(MELFI)に-95℃で保管します。一方、地上保管用の1セットは、JAXA筑波宇宙センターに輸送し、センターの冷凍庫(-95℃)で保管します。6か月~1年後、ISS保管用セットはドラゴン補給船運用8号機で地上に回収し、地上保管用セットとともに放医研に持ち込み(図2)、融解した受精卵を仮親に戻して、個体発生、発生後の寿命や発がん及び遺伝子変異を調べます(図3)。

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図2 保管実験の流れ

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図3 保管実験後の実験のイメージ

今後の展開

 地上に帰還した凍結受精卵は、仮親に移植後、発生させて宇宙放射線被ばくの影響を解析します。生物には放射線等でDNAにできた傷を修復する仕組みが備わっていますが、放射線感受性の高いマウスやDNA修復欠損マウスの受精卵を発生させた宇宙マウスでは、地上マウスに比べて個体発生率の低下、寿命短縮、発がん率の増加及び宇宙放射線特有の遺伝子変異などが観察される可能性があります。本研究により得られる長期宇宙滞在による宇宙放射線の哺乳動物への影響に関する知見を活用し、将来の有人宇宙探査における放射線防護のための基礎データを提供し、リスク評価や防護基準の策定に貢献していきます。
 また、先行して行われているマウスのES細胞や生殖細胞を用いた宇宙実験の結果と比較することにより、生殖細胞や受精卵への宇宙放射線影響が総合的な理解につながることが期待されています。

用語説明

※1 宇宙放射線

 宇宙環境に存在する電離放射線。その起源から、太陽系外から飛来する銀河宇宙線と、太陽表面の爆発に伴って起こる太陽粒子、地上磁場に捕捉された荷電粒子からなる放射線帯粒子に分けられる。それらは、X線やガンマ線などの電磁波の他、陽子、中性子、電子、アルファ線、重粒子線などの粒子線からなる。

※2 2細胞期胚

 卵子と精子が融合(受精)すると細胞分裂(卵割)を繰り返し成長します。この成長途中で割球(卵割によって生じた細胞)が2つあるものを2細胞期胚と呼びます。マウスでは受精翌日に2細胞期胚に成長します。

※3 継世代影響

 放射線などで親の生殖細胞における遺伝子の傷(変異)が、子孫(次世代)に伝わり、親とは異なる形質が現れる影響。(遺伝性影響とも言います。)(原爆被爆者の疫学調査では、現在までに影響は認められていません。)

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