放射線医学総合研究所 分子イメージング診断・治療研究部 須藤仁美 主任研究員らの論文中の画像が、日本癌学会誌「Cancer Science」5月号の表紙を飾りました。
(論文のタイトル)
(表紙の画像)
3.70MBq 90Y標識NZ-12抗体を投与した3日後の腫瘍組織。小さな壊死巣が見られる。
(論文の概要)
中皮腫では、薬剤を用いてがん細胞を殺す、あるいはがん細胞の増殖を止める化学療法が行われています。しかし、予後は極めて悪く、新たな治療法・治療薬の開発が望まれています。
量研では、α線やβ線といった放射線を放出する放射性同位体を組み込んだ薬剤を体内に投与してがん細胞に集め、体内から放射線でがん細胞を殺傷する標的アイソトープ治療の研究開発を進めています。がん細胞に放射性同位体を集める方法の一つに、がん細胞の表面に多く存在するタンパク質に結合する抗体を利用する放射免疫療法(Radioimmunotherapy, RIT)があります。抗体に放射性同位体を結合させることで、がん細胞に放射性同位体を大量に集積させ、がん細胞を殺傷する治療法です。
本研究では、中皮腫の細胞表面に多く存在する糖タンパク質の一つであるポドプラニンに結合する抗ポドプラニン抗体NZ-12に、β線を放出するイットリウム-90(90Y)を結合させて中皮腫マウスモデルに投与し、NZ-12によるRITの治療効果を確認しました。その結果、90Yを結合したNZ-12を投与したマウスでは、腫瘍の増殖が抑制され、投与後56日の生存率はコントロール群が0%に対して、治療群では70%でした。また、体重減少や重篤な副作用もみられませんでした。
本研究で用いたNZ-12は、ヒトの中皮腫の細胞表面に多く存在するポドプラニンに結合します。このことから、90Yを結合したNZ-12を用いた放射線免疫療法は、中皮腫の新たな治療法となることが期待されます。