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量子生命・医学部門

ネコのDNA修復機構の一端を解明―伴侶動物とヒトに共通のメカニズムで生じるがんに対する治療法や診断法の開発に貢献―

掲載日:2019年7月26日更新
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放射線医学総合研究所重粒子線治療研究部の小池学上席研究員は、湯徳靖友研究補助員と物理工学部の小池亜紀技術員と共同で、ネコのDNA修復タンパク質XLFがDNA損傷を治すために損傷部位に急速に集まる様子の撮影に成功しました。また、その集積には損傷したDNAを認識し結合する、別のDNA修復タンパク質Ku(Ku70とKu80のヘテロダイマー)が不可欠であることを明らかにしました。

一般的にがん治療法の開発では、人工的に短時間で作成したがんを移植したマウスで治療効果を評価しますが、治療に対する感受性が、長い時間をかけて自然発生したヒトのがんとは異なることが課題となっています。

一方、人間の伴侶としてのペットであるイヌやネコは、寿命が延びてがんに罹患することが増えており、かつそのがんは、ヒトのがんに似た特徴を有しており、イヌやネコのがんに対する有効な治療法を開発することは、共通のメカニズムで生じるヒトのがんに対する治療法の開発にも役立つと考えられています。

このことから、ネコのDNA修復機構の一端を解明した本研究の成果は、近年、乳がんや卵巣がんの治療法としても注目されている、DNA修復タンパク質に作用する分子標的薬などの開発や、伴侶動物のがんに対する治療法の開発に貢献することが期待されます。

さらに、哺乳類が進化の過程で獲得したDNA損傷修復に関する共通のメカニズムを明らかにすることで、ヒトに対するがんの診断法や新規治療方法の研究や重粒子線治療などの放射線治療のための基盤的な研究に貢献するとともに、放射線等の影響の軽減といった研究にも貢献することとなります。

 この成果は、欧州とその周辺地域の各国の35以上の生化学会からなる連合体FEBS(欧州生化学会連合)が発行する権威ある学会誌に掲載されました。本研究で解析したネコのDNA修復遺伝子XLFの情報(LC309246)はDDBJ(DNA Data Bank of Japan)を通じて国際塩基配列データベース(INSD)より公開予定です。

DNA損傷部位にDNA修復タンパク質が集積する様子

マイクロレーザーの照射により、ネコの培養細胞(CRFK)のDNAに損傷(二本鎖切断)が生じた箇所に、DNA修復タンパク質XLFがDNA損傷直後から急速にDNA損傷部位に集積する様子をライブセルイメージングで捉えた。損傷から5秒後以降の画像中の、右上に明るく光る緑の点がXLFの集積を表す。

論文情報

Feline XLF accumulates at DNA damage sites in a Ku-dependent manner.

Koike M, Yutoku Y, Koike A.

FEBS Open Bio. 2019 9(6):1052-1062. doi: 10.1002/2211-5463.12589.