令和4年度文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞した量子生命・医学部門 放射線医学研究所のグループリーダー 田上 恵子に対する授与式を、5月18日に量子生命・医学部門で行いました。
この賞は、文部科学省が日本の科学技術水準の向上への貢献を目的として定めているもので、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に贈られます。本件は、日本放射化学会からの推薦による受賞であり、多様な学会に対し量研が貢献している表れといえます。
受賞者に対しては、科学技術週間中に推薦機関より伝達があり、量子生命・医学部門の部門長 中野隆史が賞状とメダルを授与しました。
受賞した内容は以下のとおりです。
氏 名:田上 恵子 年齢:53
所 属:量子生命・医学部門 放射線医学研究所 放射線影響研究部 生活圏核種移行研究グループ
業績名:生活圏における放射性核種の被ばく評価パラメータ研究
令和4年度文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した田上グループリーダー(左)と中野部門長(右)
業績の内容
生活圏被ばく評価パラメータとは、環境中の放射性核種からの人が被ばくする経路における放射性核種の動き、例えば土壌から農作物へどのくらい核種が移行するかなどを数値化したもので、様々な条件によって値が異なります。
人工放射性核種の評価パラメータは、閉鎖された室内での実験、あるいは核実験由来の放射性降下物(グローバルフォールアウト)の環境測定によって得られてきました。それらは、主に欧米で取得されたデータで、日本独自のデータはありませんでした。このため、動植物の種類や生活環境が欧米と異なる日本で原子力災害等が発生した場合を考慮して、より適切に被ばく線量評価を行うため、日本の環境に適した評価パラメータが望まれていました。
そこで本研究では、生活圏の環境試料(土壌、農作物、河川水など)の測定を行い、放射性核種や安定元素の環境中での移動程度や移行メカニズムを解明し、日本独自の評価パラメータを算出しました。さらに福島第一原子力発電所事故直後からは、汚染した食品中の放射性核種からの被ばく線量を推定するための、多様な環境移行パラメータの調査・研究を行いました。
本成果は、食品中の放射性物質に関する基準値の策定など、国の政策策定に役立てられました。また、得られたデータを国外でも利用できるように、国際機関に働きかけ、国内外の研究者と協力して文献データを解析・整備し、IAEA技術報告書(生活圏安全評価に関するパラメータはIAEA Tecdoc No.1616等、また福島第一原発事故関連パラメータはIAEA Tecdoc No.1927)として出版されました。本成果は、国内だけでなく東南アジア諸国や全世界において適用可能であり、今後、起こりうる原子力災害における迅速かつ適切な生活圏被ばく線量評価に寄与することが期待されます。
放出源からの放射性核種による人の被ばく経路:農畜水産物の汚染と評価パラメータ
田上恵子グループリーダーの喜びのひとこと
放射線医学総合研究所の時代から脈々と受け継がれてきた「環境中の放射線からの防護」に関する研究の一環として、我が国の被ばく線量評価に貢献できる環境移行パラメータをきちんと取得・蓄積すること、そして成果を広く提示することを目標として国内外の研究者らと一緒に活動をしてまいりました。これまでの成果が評価されたことは大変嬉しく、全ては研究にご協力いただいた皆様のお陰と、心より感謝しております。まだ十分データが取得できていない核種もありますので、工夫を凝らしながらさらに研究に邁進していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。