第6回日本医療研究開発大賞において、QST量子生命・医学部門が推進している「重粒子線治療の研究開発と普及」の取り組みが評価され、文部科学大臣賞を受賞しました。革新的ながん治療法として重粒子線がん治療の研究開発を行ってきた結果として、局所進行膵がんなど多くのがん種が保険適用となり、それを受けて日本を中心に世界へと普及が進んでいることが功績として挙げられました。
2023年8月23日に首相官邸で行われた授賞式にて、永岡桂子 文部科学大臣から
表彰状を授与される須原哲也 部門長
集合写真撮影の様子
(左から、岸田文雄 内閣総理大臣、須原哲也 部門長、永岡桂子 文部科学大臣)
重粒子線がん治療は、通常の放射線による治療と比べて治療効果が高く、生活の質(Quality of Life: QOL)を高く維持できるとして注目されています。QSTでは、前身の放射線医学総合研究所において、世界で初めて治療用重粒子線加速器(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba: HIMAC)を開発し、1994年から臨床試験として治療を開始しました。
QSTでは、現在までに約15,000人に治療を行うとともに、国内の重粒子線治療多施設共同臨床研究グループ(J-CROS)を主導し、安全性と有効性を示してきました。その結果が評価され、2023年7月現在、骨軟部腫瘍、頭頸部腫瘍、前立腺がん、局所進行性膵がん、大型(直径4cm以上)の肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行膵がん、大腸がん術後局所再発、局所進行子宮頸部腺がんが保険適用となっています。また、重粒子線がん治療の普及のため、高性能化と低価格化を同時に実現するHIMACの3分の1程度のサイズの治療装置の開発にも成功しました。
治療実績の積み重ねと、装置を小型化する研究開発を両輪にした取り組みにより、国内ではQSTに加え、兵庫県立粒子線医療センター、群馬大学重粒子線医学センター、九州国際重粒子線がん治療センター、神奈川県立がんセンター重粒子線治療施設、大阪重粒子線センター、山形大学医学部東日本重粒子線センターの7施設で治療が行われるに至りました。海外では、アジア地域とヨーロッパ地域の計9施設で治療が開始され、さらにアメリカ、フランス、韓国などで重粒子線治療施設の新規建設計画が進められており、世界的な普及が始まろうとしています。
今後もQST量子生命・医学部門では、保険適用疾患の拡大と、がんの標準治療としての確立を目指しJ-CROSの共同臨床研究を主導します。また、小型の次世代重粒子線がん治療装置(量子メス)の研究開発を推進し、重粒子線がん治療のさらなる普及と、量子科学技術を用いた研究開発による医療の進展に取り組んでいきます。
日本医療研究開発大賞とは:我が国のみならず世界の医療の発展に向けて、医療分野の研究開発の推進に多大な貢献をした事例に対して与えられる賞です。