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QST革新プロジェクト

次世代重粒子線治療研究プロジェクト

掲載日:2024年4月1日更新
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がん死ゼロ健康長寿社会の実現を目指して働きながら治療でき、切らずに治す量子メスを開発する

QSTでは、これまで25年以上にわたり重粒子線がん治療の研究と14,000人を超える患者の治療に取り組んできました。その結果、骨軟部や頭頸部腫瘍、前立腺がん、局所進行性膵がん、肝臓がん、肝内胆管がん、大腸がん術後再発、子宮頸部腺がんが保険適用となり、当初は6週間だった治療照射を肺がんでは1日に短期化して生活の質(QOL)を向上させるなどの成果を上げてきました。

治療実績が認められ、重粒子線がん治療施設は国内外に拡がり、日本では7施設で合わせて年間約3,600人の治療が行われています。しかし、その人数は、1年間に日本で新にがん患者となる人の0.4%、世界に目を向ければ0.02%に過ぎません。

「適応となる全てのがんの治療効果を高め、もっと多くの患者に届けたい」

そのためには、高度な治療ができる小型の重粒子線治療装置『量子メス』が必要です。QSTは、量子ビームによる腫瘍除去手術になぞらえて名付けた『量子メス』の開発を通じて、がん死ゼロ健康長寿社会の実現に貢献していきます。

実験の様子

『量子メス』: 小型・高性能な重粒子線がん治療装置

量子メスのイメージ

ほぼ全てのがんで働きながらの治療を可能に

現在の重粒子線治療では、炭素のみを用いていますが、量子メスでは、炭素、酸素、ヘリウムを組み合わせたマルチイオン照射で、より効果的な照射と副作用の低減を実現。照射回数を減少させ、働きながらの治療を可能に。高いQOLを維持して、個人の自分らしい生き方を可能にする治療を実現します。

既存の病院建物内に設置可能なサイズを実現

現在、国内で普及している重粒子線治療装置は60m×50mと非常に大きく、専用の建物も必要となりますが、QSTが持つ高強度レーザー技術と超伝導技術の応用により、入射器とシンクロトロンや回転ガントリーの小型化により、既存の病院建物内に設置できる20m×10mのサイズを実現。装置のサイズと費用を抑えた『量子メス』の普及によって、より多くの病院で安心してがん治療を受けられる社会を目指します。

量子メス開発のロードマップ

1994年から、放射線医学総合研究所(当時)で使用されている装置を第1世代とすると、現在、日本国内に普及しているのは、それを3分の1のサイズに小型化した第2、第3世代の装置です。

第4世代は、超伝導技術によりシンクロトロンを小型化し、第1世代の20分の1程度にサイズダウンします。また、マルチイオン照射による高度な治療を実現します。

第5世代は、高強度レーザー技術を用いたレーザー加速入射器と、超伝導回転ガントリーも導入して、第1世代の40分の1程度と既存の建屋に収まるサイズにまで小型化します。また、マイクロサージェリー・ポートの導入により、ビームの直径を1から3mmまで細くし、その照射位置精度を0.1から1mm程度まで高めて、がん以外の疾患にも適応を拡大します。

重粒子線がん治療装置第1から第5世代のイラスト

 

量子メス棟建設・実証機の開発

従来の装置よりも小型かつ高性能な量子メスの実証を目指し、第4世代の装置を設置する量子メス棟(2024年完成予定)を実施設計中です。

画期的な小型化による国際的普及と、高性能化による治療のさらなる短期化を目指します。

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第4と第5世代の開発ロードマップ

第4と第5世代のイラスト量子メス開発に必要な要素技術

超伝導シンクロトロン

高い磁場を作ることが可能な超伝導磁磁石技術を用いることにより、既存の重粒子線治療装置の円形加速器(直径20mから)で大きなスペースを占めている電磁石を大幅に小型化し、約10分の1の設置面積にまで小型化します。

超伝導シンクロトロンのイメージ

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マルチイオン

悪性度の高いがん領域には、炭素よりも重い酸素やネオンを照射することで、放射線抵抗性の難治がんの治療成績をより向上させるとともに、正常な臓器に近いがん領域には炭素よりも軽いヘリウムを照射することで、副作用を軽減し、照射回数の減少につなげます。

マルチイオン照射のイメージ

動画:量子メスのテクノロジー解説 難治がんの克服とさらなる治療効果の向上が期待されるマルチイオン照射

この治療を実現するため、住友重機械工業株式会社と共同で、マルチイオン源の開発に世界で初めて成功しました。このイオン源は、ヘリウムからネオンまでの複数の多価イオンを出力するとともに、イオン種を1分以内で高速に切り替えることができます。また、普及を見据えて病院に設置できるように、永久磁石と半導体マイクロ波増幅器を採用することで、従来型に比べて1/5にまで大幅に小型化し、かつメンテナンスフリー化を実現しました。

マルチイオン源

完成したマルチイオン源

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研究者インタビュー

レーザー加速入射器

ビーム加速部とビーム輸送部の総計の長さが30m程度で計画が進んでいる第4世代の重粒子線治療装置(量子メス)の入射器を、レーザー駆動イオン加速という技術を用いて加速部と輸送部の総計5m程度にコンパクト化することを目指した開発を進めています。2023年には、連携企業等との共同でレーザー駆動イオン入射器の原型機の開発に成功しました。この装置は、レーザー加速に必要なレーザー光を発生する「レーザー装置」、レーザー光を標的に照射してイオンを加速する「イオン加速部分」、発生したイオンビームを制御しながらシンクロトロンへ輸送する「イオン輸送部分」で構成されています。(JST未来創造事業の支援を受けて実施)

今後は、原型機を用いて、レーザー装置、イオン加速部分、イオン輸送部分をそれぞれ最適化することで、量子メスに搭載する最終的なイオン入射装置のデザインを進めます。

レーザー駆動イオン入射器の原型機

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高温超伝導回転ガントリー

超伝導磁石技術により、既存の重粒子線回転ガントリー(直径11m、長さ13m)を、それぞれ約半分に小型化し、一般の放射線治療室に設置可能にします。

高温超伝導回転ガントリーのイメージ

京都大学、東芝、KEKとの共同研究により開発した高温超伝導磁石(右)は、約2.5テスラと高い磁場による炭素イオンビームの誘導と、安定的な動作を実証しました。高温超伝導磁石は、多様な粒子加速器の小型化、省エネ化につながるだけでなく、広範な分野への波及効果が期待できます。

マイクロサージェリー・ポート

エミッタンスコリメータにより、従来5mm程度ある治療ビームの直径を、1から3mmまで細くし、その照射位置精度を0.1から1mm程度まで高めます。これにより、良性腫瘍や網膜の加齢黄斑変性症、脳動脈瘤などの血管性疾患、てんかんなどの神経疾患への適応を拡大します。

マイクロサージェリー・ポートのイメージ

量子メスを核とする「がん死ゼロ健康長寿社会」の実現

量子メスを核に、分子標的薬や標的アイソトープ治療、免疫療法等の組み合わせによるがん死ゼロ健康長寿社会の実現のイメージ「がん死ゼロ健康長寿社会」実現のためには、革新的ながん治療開発はもちろんですが、がんの治療中・治療後も高いQOLを維持しながら生活できることが重要です。
また、そういった社会が形成されるためには、高額な医療ではいけません。 QSTでは、高いQOLを維持できる医療を安価に提供するため、小型・高性能な次世代重粒子線がん治療装置である『量子メス』を核に、α線を放出する放射性薬剤を投与して体の中からがんに直接放射線を照射する標的アイソトープ治療の開発にも取り組んでいます。
これらと免疫治療などを組み合わせることにより、手術不要で働きながらのがん治療を可能とし、量子メスを世界に普及させることによって安価ながん治療を世界中の人々に提供する「がん死ゼロ健康長寿社会」の実現を目指して研究開発を推進しています。

QST未来基金重点テーマ1がん死ゼロ健康長寿社会の実現の寄附案内