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QST病院

腎細胞がんに対する重粒子線治療について

掲載日:2026年8月20日更新
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記載医師 岡東 篤 

はじめに 

腎細胞がんの原発巣に対する標準治療は、手術です。しかし、高齢であることや合併症、腎機能低下などの理由により、手術が困難な患者さんも少なくありません。近年ではそのような患者さんに対する低侵襲な治療法として、経皮的凍結療法(Cryoablation)やラジオ波焼灼術(Radiofrequency ablation: RFA)などのアブレーション治療が、行われるようになっています。ただしこれらの治療は、一般的には腫瘍径4cm程度までの小径腎腫瘍が主な対象となります。
また近年では、定位放射線治療(Stereotactic Body Radiotherapy:SBRT)をはじめとする高精度放射線治療も、手術が困難な患者さんに対する局所治療として行われるようになっています。一方で、腎細胞がんは比較的放射線が効きにくい腫瘍と考えられており、従来のX線治療では十分な治療効果を得ることが難しいことや、正常腎組織への影響が課題とされてきました。

重粒子線には、X線とは異なる二つの大きな特徴があります。一つは物理学的特性で、腫瘍に集中して線量を付与できるため、周囲の正常臓器への影響を抑えながら治療を行えることです。もう一つは生物学的特性で、がん細胞に対する高い殺細胞効果を有することです。これらの特徴により、正常腎組織への影響をできるだけ抑えながら腫瘍に十分な線量を照射できることから、重粒子線治療は腎細胞がんに適した放射線治療の一つと考えられています。

QST病院(旧放射線医学総合研究所)では1997年より腎細胞がんに対する重粒子線治療を実施しており、16回照射および12回照射による良好な治療成績が報告されています。現在は12回照射(治療期間約3週間)による重粒子線治療を先進医療として実施しており、手術が困難な患者さんに対する有力な治療選択肢の一つとなっています。

重粒子線治療の適応について

生検または画像診断により腎細胞癌と診断された患者さんが対象となります。

また、転移を有する場合であっても、原発層の制御が必要であり、全身状態や病状を総合的に評価したうえで、重粒子線治療を検討することがあります。

重粒子線治療が適応にならない場合について

腫瘍が腸管に近接している場合には、正常組織の障害を避けるため十分な線量を照射できず、期待される治療効果が得られないことがあります。また、重度の合併症や全身状態の不良により治療を安全に実施できない場合にや、治療による利益よりもリスクが上回ると判断される場合には、重粒子線治療の適応とならないことがあります。

重粒子線治療の利点について

重粒子線は腫瘍に集中して高い線量を照射することができる特性を有しており、周囲の正常組織への影響をできるだけ抑えながら治療を行うことが可能です。そのため、重篤な副作用の発生を低く抑えつつ、高い局所制御効果が期待できます。また、手術が困難な患者さんや、腎機能の温存が重要な患者さんに対する有力な治療選択肢の一つとなっています。

重粒子線治療の副作用について

重篤な副作用はまれであり、多くは軽微なものです。照射部位の皮膚に色素沈着や皮下硬結を生じることがあります。また、治療後に腎機能が低下することがありますが、その多くは軽度です。高度の慢性腎機能障害を有する患者さんでは、治療後しばらくして透析導入が必要となる場合がありますが、これまでの報告では、治療による急激な腎機能悪化のため治療直後に透析導入を要した症例は認められていません。

腎細胞がんに対する重粒子線治療の詳細

腎細胞がんに対する重粒子線治療は、1997年からQST病院(旧 放射線医学総合研究所)で実施されてきました。主な対象は、合併症などにより手術が困難な患者さんや、手術によって早期の透析導入が懸念される患者さんです。1997年から2012年までは主に16回照射で治療が行われ、2013年から2017年には12回照射による第I/II相試験が実施されました※1, ※2。重度の腎機能低下のない患者さんでは、副作用は概ね軽微であり、安全に施行できることが示されています。進行例を含めた長期成績では、5年局所制御率94%、5年疾患特異的生存率100%、5年全生存率89%と良好な成績が報告されています。また、12回照射の第I/II相試験では、局所制御率100%、疾患特異的生存率100%でした。これらの結果から、重粒子線治療は高い局所制御効果と良好な安全性を併せ持つ治療法であり、特に手術が困難な患者さんに対する有力な治療選択肢の一つと考えられています。

腎細胞がんに対する重粒子線治療の流れ

  治療の流れ

  1.初診

ご紹介いただいた病院からの診療情報や検査結果をもとに、重粒子線治療の適応について評価を行います。あわせて治療内容や期待される効果、副作用についてご説明します。その後、院外キャンサーボードにおいて治療適応について検討を行い、重粒子線治療が可能と判断された場合には、治療準備および治療開始までのスケジュールをご案内します。

 2.治療準備

治療に必要な各種画像検査を行い、治療計画を作成します。治療時の位置合わせのため、あらかじめ紹介元医療機関等で腫瘍近傍に金属マーカーを留置していただきます。また、毎回同じ体位で治療を行うため、患者さん一人ひとりの体型に合わせた固定具を作製し、固定具を装着した状態で治療計画用CTを撮影します。治療開始前には改めて治療内容についてご説明し、ご同意いただいたうえで治療を開始します。

 3.治療開始

入院・通院いずれも可能です。治療は通常、週4回(火、水、木、金)行ないます。

 照射そのものによる痛みや熱感はなく、治療台で15分程度位置合わせを行った後、数分間の照射を行います。照射後は通常どおりお過ごしいただくことができます。

線量分布と治療経過のご紹介

以下が当院で実際に治療された患者さん(左腎臓の腎細胞がん)の治療前画像と線量分布の一例です。通常は背中から2~3方向からの照射を行います。また、治療後の腫瘍の変化を合わせて提示します。重粒子線治療後の典型的な経過は、腫瘍がゆっくりと縮小し内部が壊死していきます。
この患者さんは、もともと右腎臓が委縮しており、手術(左腎臓摘除術)を行えば早期の透析導入は免れないと考えられていました。現在、重粒子線治療後5年以上が経過していますが、照射した腎細胞がんは制御され、転移もなく、腎機能には大きな低下なく、その他の副作用も認められません。

 

治療経過

 

文献

※1 Kasuya G et al. Updated long-term outcomes after carbon-ion radiotherapy for primary renal cell carcinoma. Cancer science, 2018;109:2873-2880.
※2 Kasuya G et al. Prospective clinical trial of 12-fraction carbon-ion radiotherapy for primary renal cell carcinoma. Oncotarget, 2019;10: 76-81.

 

 

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