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量子応用光学研究部

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研究部の紹介

 量子応用光学研究部は、2023年4月1日に発足した新しい研究部で、量子技術(材料、生命)、医療、安全安心技術に向けたレーザー応用の最先端技術開発を行なっています。

 その志は、関西研が培ってきた幅広い科学技術分野へのレーザーの量子技術への応用を明確に打ち出し、レーザーを用いた量子科学技術への貢献やレーザーを用いた産業・医療分野における社会実装の実現を目指します。

研究グループ

  • レーザー駆動イオン加速器開発プロジェクト
  • X線超微細加工技術研究プロジェクト
  • 超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト
  • レーザー医療応用研究プロジェクト

レーザー加速技術を用いた量子メスの研究開発

 量研では人に優しく実績も十分な放射線がん治療として重粒子線がん治療を実施しています。重粒子線による治療は、高い生物効果と局所制御効果という優れた特徴を持ち、例えば切除不能の膵臓がんに対してもその有効性が十分高いことが確かめられています。一方で重粒子線がん治療では治療に十分なエネルギーの重粒子線を得るために大型の加速器が必要とされ、広く普及するためにはその小型化が課題となっています。量研では、QST革新プロジェクトとして超伝導加速器技術とレーザー加速技術を利用した装置の小型化を実現するべく次世代重粒子線がん治療装置(量子メス)の開発を行っています。この中で関西光量子科学研究所では、先端的なレーザー加速技術の研究開発能力を活かして量子メスの入射器としてレーザー駆動型入射加速器の開発を実施しています。

 極短パルス高強度レーザーを薄膜やガス等のターゲットに照射することで核子あたり数~数十MeVのイオンビームを得ることができます。関西光量子科学研究所では、高強度極短パルスレーザー(J-KAREN-P)を用いた研究開発を行ってきました。この極短パルス高強度レーザー技術とレーザーイオン加速技術をさらに発展させ、小型・安定化を実現することで現在用いられている重粒子線加速器の大幅な小型化を目指したレーザー駆動型イオン加速器の研究開発を実施しています。JSTの未来社会創造事業「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」の中では、次世代型超電導シンクロトロンに適合するレーザー駆動型入射加速器の概念実証研究を実施しています。

量子メスのイメージ図

図:レーザー駆動イオン加速入射器を用いた量子メス装置
(プロトタイプイメージ図#JST未来社会創造事業)

コヒーレント軟X線を用いた表面超微細加工技術の研究開発

 短パルスレーザーを物質表面に集光照射すると、照射部分が気化・蒸発し表面から原子や分子などが飛散するアブレーションと呼ばれる現象が起こります。量研では短パルス軟X線レーザーを用いたアブレーション研究を行ってきました。シリコンに対するアブレーション実験では、2ナノメートルの深さをもつ穴構造の形成に成功しました。軟X線レーザーのアブレーションを表面加工に応用することにより、ナノメートルサイズの構造を材料表面に直接形成することが可能となります。今後、開発が期待されている量子コンピュータの分野においても、このナノメートルレベルの「量子のサイズ」におけるシリコン量子ビットなどの可能性に注目した研究が進められています。

 X線超微細加工技術研究プロジェクトでは、軟X線レーザーによる表面加工の技術開発を行っています。軟X線レーザーによる材料表面のナノ加工を実現するため、(1)高出力コヒーレント軟X線源の開発と共に、(2)ナノメートルサイズの深さを持つ浅穴やナノメートル幅の細溝を直接加工するレーザー加工技術および軟X線レーザーの空間可干渉性を活用するホログラム描技術画、そして、(3)加工構造の形成過程を解明する時間分解計測技術の開発を進めています。

図:軟X線レーザーによるシリコン表面の加工構造

図:軟X線レーザーによるシリコン表面の加工構造

量子状態の高度な観測・制御を目指した極短パルスレーザーを用いた電子ダイナミクス研究

 原子レベルの物質の構造やダイナミクスは、物質内の電子により支配されており、化学反応の決定要因も電子のダイナミクスです。レーザーを用いた量子技術の実用化に向け、電子の構造や動きを明らかにし、自在に操ることを目指したプロジェクトを進めています。レーザー場中の原子・分子における基本的な電子ダイナミクスからレーザー非熱加工に通じる固体表面の強レーザーによる電子励起過程の他、量子マテリアルとよばれる機能性材料の光励起過程や光合成やDNA損傷など生体分子における化学反応など、様々な超高速現象を研究対象としています。

 超高速ダイナミクス研究では、高時間分解能の計測をするため、極短パルスレーザー光源とそれらを活かした計測技術が表裏一体となっています。また、現象を理解し、利用するためには、観測結果の解釈やその背景にある詳細な物理機構を明らかにすることが不可欠であり、理論やシミュ-ション技術も重要です。

 超高速電子ダイナミクス研究プロジェクトでは、(1) テラヘルツから軟X線までのあらゆる波長領域における極短レーザーパルス光源開発、(2) 超高速現象を観測するための時間分解分光、イメージング計測技術開発、(3) ナノスケールの光と物質の相互作用を明らかにするための理論と第一原理計算法の開発、の3項目をプロジェクト内で密に連携を図りながら進めています。これらを基盤として、量子機能創成材料の評価や開発、レーザー加工、量子生命科学の学理探究を進め、外部機関の研究者との共同研究も積極的に進めています。

超高速代表画像

図:超高速電子ダイナミクスの解明に向けたプロジェクト概要

中赤外レーザーイメージング技術による医療、物質・材料解析の研究開発

 中赤外レーザーは、光の一種で、人間の目には見えません。しかし、この光は物質の内部に存在する分子の振動と共鳴する波長領域に位置しています。これにより、物質によって吸収する光の波長が異なる特性を持っています。この特性を生かした分析装置は、様々な分野で利用されています。例えば、医療分野をはじめ化学物質分析、リモートセンシング分野等で活用されています。

 本研究では、中赤外レーザーの特性を利用した顕微イメージング装置を開発し、物質の微視的な分布を調べ、その中に含まれる成分を特定できる装置の開発を目指しています。こういった装置により、医療分野では診断技術の向上に役立つことが期待されます。また、材料開発分野では、より高性能な材料の開発に貢献できる可能性があります。

レーザー医療応用図1

図:中赤外レーザーによる中赤外・顕微イメージング装置

 これまでに構築した中赤外・顕微イメージング装置により医療応用への研究も展開しています。医学分野の専門家から提起された、がんであるか確定するための病理組織診断における問題点を改善するため、医学専門家の知見・技術と、我々の光技術を融合し研究を進めています。これにより、組織内に分布する、がん等を組織識別し分布を可視化できる顕微イメージング装置の開発を目指しています。

 がん診断に重要な病理組織診断では、光学顕微鏡で組織を観察して病変を診断します。病理組織診断は治療方針の決定や治療効果の評価、予後判定に重要な意味を持ちますが、診断には組織を染色する必要があります。場合によっては、複数の染色をしなければならず、そのため正確な診断には時間がかかります。この開発中の技術では、中赤外レーザーの吸収量が正常組織とがん組織で異なることを利用し、染色不要でがん診断が期待できます。この技術の発展により、より高精度ながん診断が可能になると考えています。

レーザー医療応用図2
図:可視顕微鏡と中赤外・顕微イメージング装置による取得画像の比較

高強度レーザーを用いたコンクリート内部欠陥の遠隔検知技術の研究開発

 日本の多くの社会インフラが高度成長期を経て築後50年以上経ち危険水準に近付いている中で、様々なインフラ計測の技術が研究開発されています。レーザー打音法は、高強度レーザーを用いて打音検査を遠隔・デジタル化する検査手法であり、内閣府主導の第1期・第2期の戦略的イノベーションプログラム(平成26〜令和4年度)や国土交通省・新道路技術会議における研究開発を通じて社会実装に向けた高度化が進められてきました。現在、レーザー打音検査装置は、量子科学技術研究開発機構とQST認定ベンチャー・(株)フォトンラボが共同で開発し、令和2年6月に点検支援技術性能カタログに登録されています(登録番号:TN020003-V0323)。実際のトンネルの点検業務を行なう建設コンサルタント会社や検査会社との共同研究による検査の高速化や、コンクリート供試体を用いたレーザー打音法によるコンクリート欠陥の評価を進めています。

 また、より幅広く使われるための小型化装置の開発や遠距離計測装置の開発など、レーザーの特徴を生かしたリモートセンシング技術の研究開発を進めています。

写真:レーザー打音検査の点検支援実証試験の様子

写真:レーザー打音検査の点検支援実証試験の様子