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関西光科学研究所 | 第53回KPSIセミナー 脊椎動物細胞におけるDNA損傷応答機構の逆遺伝学的解析とその応用例

掲載日:2019年4月3日更新
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関西光科学研究所 >> セミナー >> 脊椎動物細胞におけるDNA損傷応答機構の逆遺伝学的解析とその応用例

 

セミナー

第53回KPSIセミナー

脊椎動物細胞におけるDNA損傷応答機構の逆遺伝学的解析とその応用例

 

講演者 田野 恵三 准教授
(京都大学 複合原子力科学研究所 放射線生命科学研究部門)
場所 関西光科学研究所 ITBL棟 G201号室
日時 2019年4月10日(水曜日)11時00分~
要旨 [PDFファイル/251KB]

脊椎動物細胞におけるDNA損傷応答機構の逆遺伝学的解析とその応用例

田野 恵三 准教授
(京都大学 複合原子力科学研究所 放射線生命科学研究部門)

概要

ある遺伝子が本来有する機能を解明するため、対象遺伝子を破壊した細胞や個体を作り、その表現型を解析することで、対象遺伝子の機能を探る方法を逆遺伝学と呼ぶ。我々は京都大学医学部武田俊一教授との共同研究により、ニワトリB細胞に由来するDT40細胞を用い、DNA損傷修復遺伝子の破壊細胞を網羅的に作成し、その実験系からDNA損傷応答因子の解析を行ってきた。DT40細胞はヒト細胞及びその他の脊椎動物細胞と比較して、相同組み換え頻度が格段に高い。この特性から効率よく遺伝子破壊細胞することが可能となり、ユニークな実験系を構築した。一方、近年の遺伝子編集技術の急速な進歩により、DT40といった特異的な細胞に頼らずとも、遺伝子編集、破壊といった作業を短時間かつ低コストで行うことが可能になったことから、現在はヒトBリンパ細胞由来のTK6細胞を用いた実験へとシフトしつつある。

遺伝子編集(あるいは相同組み換えによる遺伝子破壊)の大きなメリットは、遺伝的に均質(isogenic)な状態で、対象とする生命現象に関わる遺伝子を欠損させた細胞バンクを網羅的に作成できる点にある。逆に、特に従来のヒト細胞においては、DNA損傷修復に関する遺伝子欠損細胞の多くが患者由来の細胞であることから、細胞種(患者個人)それぞれに遺伝的バイアスが存在することは無視できない課題であった。DT40細胞を用いて作成した修復遺伝子欠損細胞は既に200種を超え、近年ではヒトTK6細胞でもバンク作りが進んでいる。これらisogenicな遺伝子欠損細胞バンクによる実験系であれば、各細胞種が有する遺伝的バイアスによる影響を考慮することなく、様々な薬剤や環境変異原の遺伝毒性を評価することが可能となる。

実際、DT40やTK6の損傷修復欠損バンクを利用した抗癌剤の作用機序解析が京都大学医学部と米国NIHの間で進められている。これは、既知の抗癌剤の感受性スペクトラムをバンク細胞で単純に比較するものだが、癌治療において同じ作用機序を経ると考えられていた抗癌剤であっても、その機序は必ずしも同一でないとの実験の結果を得たことが、薬剤作用解明の糸口を与えたものも多い。我々はこれら欠損細胞バンクを用いて、癌細胞特異的な微細環境である低酸素、低栄養下で強い致死効果をもたらす抗癌剤チラパザミンとメトフォルミンについて、その作用機序を遺伝子損傷応答の側面から解析し報告してきた1),2)。このセミナーでは、これらの結果を紹介する。さらに、広島大学井出博教授および量子研中野敏彰主幹研究員と現在進めている共同研究として、環境変異原の一つでもあるホルムアルデヒド化合物によるDNA-蛋白クロスリンク損傷の新規修復経路の解析についても紹介する。

 

参考文献:

  1. T. Moriwaki , et al., Chem. Res. Toxicol., 30 (2017) 699-704.
  2. K. Kadoda, et al., PLOS ONE, 12 (2017) e0185141.

 

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