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量子センシングプロジェクト

実験装置 - 加速器

掲載日:2023年5月8日更新
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電子線加速器

コッククロフト・ワルトン型の電子線加速器であり、加速エネルギーは0.5 ~ 2 MeVの範囲で可変です。120cm幅にスキャンすることで均一に電子線を照射することが可能です。ビーム電流は0.5~10mA程度の範囲で選ぶことが多く、電流を少なくすると1回あたり1x1011 electrons/cm2の照射量となります。電流を多くすると、1日で1x1017 electrons/cm2程度の照射量となります。2 MeVの電子線の場合、電子線はダイヤモンドを突き抜けます。照射された電子はダイヤモンドを構成する炭素原子をはじき出し、原子空孔が形成されます。窒素(P1センター)を含むダイヤモンドに電子線を照射すると、結晶中に窒素と原子空孔ができます。照射後に熱処理すると窒素(N)と原子空孔(V)が結合してNVセンターが形成できます。

電子線照射
図. 電子線照射装置の図と写真

イオン加速器

孤立したカラーセンターを任意の位置に形成する技術にはイオン注入法が最も適しています。私たちは集束ビームやブロードビームを駆使して、ダイヤモンドや炭化ケイ素といったワイドギャップ半導体中に単一光子源や量子ビットとしての性質を持つカラーセンターを形成することに取り組んでいます。特に5つのエネルギー領域、「~ 10 keV」「20 ~ 400 keV」「0.5 ~ 3 MeV」「1 〜 18 MeV」「数100 MeV」のそれぞれ特徴のある注入装置を駆使して研究を行っています。

テストベンチ(~10 keV)

試料表面の極浅領域(10nm以下)にイオン注入するための装置です。ECRイオン源からのイオンビームを1~10kVという低加速電圧で引出し、質量分析を行った後のイオンビームを照射することができます。XYビームスキャナを備えており、均一なビームが得られています。照射エリアは1.5cmx1.5cm程度です。14N+15N+イオンを注入することができます。108 ions/cm2から1014 ions/cm2という幅広いフルエンスで照射が可能です。1日に最大で4条件の注入実験を行うことができます。​

テストベンチの全体写真

図. テストベンチの全体写真

イオン注入器(20 ~ 400 keV)

試料表面の浅い領域(10~数100nm)にイオン注入するための装置です。試料を高温(~1000˚C)にすることが可能で、通常の室温イオン注入よりも照射損傷を抑えながらの注入が可能です。XYビームスキャナを備えており、均一なビームが得られています。ダイヤモンド試料に対しては、15N+イオン、15N2+イオン(分子イオン)、28Si+イオン等の室温注入を行っています。また、炭化ケイ素試料に対しては、31P+イオンや27Al+イオン等の注入を行っています。2019年の研究成果の1つに世界で初めてNVセンターの3量子ビット化に成功しました(M. Haruyama, S. Onoda, et al., Nature Communications, DOI: 10.1038/s41467-019-10529-x)。これは、イオン注入器において窒素を複数含む有機化合物イオン(C5N4Hn)のイオンビームを注入する技術によるものです。

イオン注入器の真空照射容器の写真
図. イオン注入器の真空照射容器の写真

800℃に加熱した試料ホルダの写真
図. 800℃に加熱した試料ホルダの写真

シングルエンド加速器(0.5 ~ 3 MeV)

軽元素(H, He)の集束イオンビームを用いた粒子線描画(Particle Beam Writing)を行うことが可能です。長焦点レンズを備えた光学顕微鏡を用いて照射位置を決めた後、照射範囲=800 x 800 µm2に12nmの位置精度(ただし、イオンビーム径(FWHM:半値幅)は〜1µm)で照射量を制御(1010〜1017 ions/cm2)してイオンを照射します。

SiCへのProton writing

図. 炭化ケイ素基板へのH(プロトン)ビームを用いた粒子線描画によって形成された

シリコン空孔の共焦点顕微鏡像。(T. Ohshima, et al., Nano Lett. 2017)より。

タンデム加速器(1 ~ 18 MeV)

試料表面から数µmの深さにイオン注入することが可能な装置です。イオンビームを数µmに集束することが可能で、マイクロビームラインと呼称しています。チョッパーパルスを適切に選択することで、疑似的に単一イオンヒット照射が可能です。照射範囲である300 × 300µm2以内であれば、イオンの個数を制御しながら狙った位置にイオンを照射することが可能です。CR-39(プラスチック飛跡検出器)に対して、マイクロビームを使ってローマ数字や格子を描画した例を図に示します。(2023年5月現在:オーバーホールを実施しているために注入実験は中断しています。)

マイクロビーム照射装置の写真
図. マイクロビーム照射装置の写真。

CR-39に重イオンマイクロビームで描画した写真
図. CR-39に重イオンマイクロビームで描画した写真。

AVFサイクロトロン加速器(数100 MeV)

試料の奥深く(数十µm)にイオンを打ち込むことが可能です。様々なイオン種・線エネルギー付与を持つイオンを照射することが可能で、15N3+ 56 MeV、20Ne4+ 75 MeV、40Ar8+ 150 MeV、84Kr17+ 322 MeV、129Xe25+ 454 MeV、192Os30+ 490 MeVといったビームを照射しています。

真空容器の写真
図. 真空容器の写真。