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量子センシングプロジェクト

研究内容

掲載日:2023年1月18日更新
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量子センサのためのカラーセンター形成

 ダイヤモンドや炭化ケイ素(SiC)といったワイドバンドギャプ半導体材料中には、様々な結晶欠陥が存在します。結晶欠陥の中には、結晶欠陥の持つスピンや発光を制御することで、従来の演算能力を遥かに凌ぐ量子コンピューター、ナノレベルでサイズ制御された高輝度な光デバイスや超高感度の量子センサ(磁場や温度など)の実現が期待されています。

 本研究プロジェクトでは、電子ビームやイオンビームを用いることで、ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センターやSiC中のシリコン空孔(VSi)等を効率的、かつ高位置精度で形成する技術や、形成したNVやVSiを量子センサとして応用する研究を行っています。量子センサとして応用する研究として、「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」のフラッグシッププロジェクト(技術領域:量子計測・センシング)に参画しています。

  • 量子センサとして知られるダイヤモンド中のNVセンターは、超高感度な磁気センサに利用できます。本研究プロジェクトでは、電子ビームを照射することによって、世界で最も高濃度のNVセンターを形成することに成功しました。現在、NVセンターによる脳磁・心磁計測開発に適したNVセンター形成技術の開発を行っています。
  • 炭化ケイ素中のVSiも量子センサとして利用できます。本研究プロジェクトでは、集束型プロトンビームをSiCに照射して、パワーデバイスの中の任意の位置に狙ってVSiを形成することができます。そのVSiを量子センサとして利用することでパワーデバイスの電流・温度をモニタリングするシステムを開発しています。

室温動作する多量子ビットの開発

 ダイヤモンド中の窒素・空孔(NV)センターは、室温で動作する量子ビットとして利用できます。2005年にイオン注入法によってNVセンターを形成できることが報告されました。私たちは、2009年に室温動作する量子レジスタの実現を目指し、イオン注入法によるNVセンター形成技術の開発に着手しました。2013年には、イオン注入で形成したNVセンターとしては最もコヒーレンス時間の長い(2ms)単一NVセンターを窒素原子イオン注入によって形成できるようになりました。2013年には、窒素分子イオン注入によって、NV-NVの2量子ビット形成に成功しました。これは、世界で3例目のことでした。

 2019年には、アデニン(C5N5H5)分子を原料とした有機イオン注入技術を開発(2018年特許出願・2023年特許化)し、世界で初めてNV-NV-NVの3量子ビット化に成功しました。2022年5月には、フタロシアニン(C32N8H18)イオンビームを開発し、更なる多量子ビット化を進めています。2023年には、L-アルギニン塩酸塩(C6H14N4O2・HCl)を原料とした有機イオンビームを開発しています。

耐放射線性デバイスの開発

 SiCは、従来のシリコン(Si)半導体に比べて高効率、低損失なデバイスへの応用が期待されています。同時に、Siの限界を超える厳しい環境でも安定動作が可能な極限環境半導体としても注目されています。本研究グループでは、この優れた特性を持つSiCを宇宙や原子力施設でも高い信頼性を持って安定に動作する半導体デバイスへ応用することを目的に、耐放射線性SiCデバイスの開発に関する研究を行っています。また、人工衛星や宇宙ステーションで使用される集積回路(LSI)などの半導体デバイスや太陽電池は、宇宙に多量に存在する放射線(重イオン、陽子線、電子線など)により特性劣化、誤動作・破壊が発生します。本研究グループでは、半導体デバイスの放射線耐性を正確に評価するための診断技術の開発と、開発した技術を用いて宇宙用半導体デバイスの放射線劣化、誤動作・破壊のメカニズムの解明、更には耐放射線性の強化技術に関する研究を行っています。