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放射線高度利用施設部 ビーム技術開発課

サイクロトロン加速器技術の開発

掲載日:2019年10月30日更新
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 サイクロトロンにおける先進的なイオンビーム利用に資するため様々な技術開発を行っています。

低エネルギービーム輸送・入射技術

 サイクロトロンで加速するイオンビームは、加速器システムの最上流にあるイオン源で作られます。その後、このイオンビームはサイクロトロンまで輸送・入射された後、加速されます。サイクロトロンへビームを入射する際に、サイクロトロンが加速することのできる範囲(アクセプタンス)にビームの存在範囲(エミッタンス)を合わせて入射しないとビームが途中で失われてしまいます。そこで、このビーム入射を適切に行うため、アクセプタンスとエミッタンスを測定する技術、そしてそれらを整合させて適切なビーム入射を行う技術を開発しています。

 これまで、イオン源とサイクロトロンの間の輸送ラインに設置した位相空間コリメータの複数のスリットを用いて同位置でのエミッタンスとアクセプタンスを測定する技術を開発しました。現在、この測定技術の高度化や、測定結果を基にしたビーム制御技術の開発を進めています。

位相空間コリメータ

図1 位相空間コリメータ

サイクロトロン中心領域と位相バンチング

 等時性サイクロトロンでは高周波(RF)加速において正弦波の電圧波形を用いるため、ビームのエネルギー幅は加速中のビームの時間(位相)幅でほぼ決まります。通常、入射系に設置されたビームバンチャーシステムによって、イオン源から輸送されたビームをサイクロトロンで加速可能なRFの位相幅内に集群化(バンチ)し、加速されるビーム量を最大化するとともにビーム位相幅を狭小化します。

 しかしながら、マイクロビーム形成等ではさらにビーム位相幅の狭小化が必要であるため、サイクロトロン内部の加速を用いてビーム位相幅を狭くできる「位相バンチング」の手法を開発しました。これは、サイクロトロンの最初の加速で時間とともに増加する加速電圧の勾配の位相と次の加速ギャップで加速電圧波形の頂点部の位相にするため、最初の加速ギャップから次の加速ギャップまでの角度を中心領域の電極形状や配置を調整し、適切な加速条件を選択することによって可能となります。TIARA AVFサイクロトロン(図2)では、ビームの回転周波数とRF周波数の比である加速ハーモニックス(h)が2の条件で、加速ギャップ間の角度を118度に設定することによって、図3のように、h=1の条件に比べて非常に狭いビーム位相幅を実現できました。

TIARA AVFサイクロトロンとその中心領域の概略図

図2 TIARA AVFサイクロトロンとその中心領域の概略図

RF位相分布

図3 サイクロトロン内部のプラスチックシンチレーターで測定したビーム位相に対する相対強度分布。h =1は107MeV 4He2+ビーム、h =2は260MeV20Ne7+ビームである。両条件ともビームバンチャーを使用しているが、h=2のビーム位相幅は非常に狭い。

サイクロトロン磁場の高安定化

 サイクロトロンにおいてマイクロビーム等の高品質ビームの生成を可能にするビーム高安定化技術の開発を行っています。従来から長時間にわたるビーム変動を引き起こすことが知られていましたが、この原因がサイクロトロンの電磁石の温度変化にあることを見出しました。電磁石温度制御システムの開発による温度安定化の結果、0.001%以内という世界で最も安定したサイクロトロン磁場ひいてはエネルギー・強度が安定なビームを実現しました。