世界最小のダイヤモンド量子センサーの作成に成功
-細胞や分子のわずかな変化をとらえる超高感度センサーとして期待-
(2019.5.28 プレスリリース)
キーワード:「量子センサー」とは?
細胞内のわずかな変化をとらえることのできる次世代の超高感度センサーです。本成果では、ダイヤモンドを量子センサーの材料にしています。ダイヤモンドは炭素の結晶ですが、結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、その隣に空孔(Vacancy)ができることがあります。この窒素と空孔の中心「NVセンター」には、周辺環境の温度、電場、磁場など、ごくわずかな変化を敏感に検知して、量子状態が変わる特性があります。この特性をセンサーとして利用します。また、このNVセンターは、光を当てると非常に明るく蛍光発光するので、蛍光プローブと同じように分子の位置を特定することもできます。
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成果のポイント
その1:既存技術で作製できる量子センサーは数十ナノメートルサイズが限界でした。それを、爆薬の爆発で炭素を圧縮する「爆轟(ばくごう)法」で作られた微小なダイヤモンドをセンサーの材料とすることで、分子サイズの5ナノメートルサイズまで小さくすることができました。これにより、小さいタンパク質やDNAなどの分子の計測が可能になります。
その2:爆轟法ナノダイヤモンドの結晶中に自然にできるNVセンターはごくわずかで、量子センサーとして利用することができません。また、爆轟法ナノダイヤモンドは固まりを作りやすく、ナノメートルサイズを実現できない問題がありました。これを電子線照射と熱した硫酸や酢酸による化学処理(熱混酸処理)で解決し、5ナノメートルサイズの量子センサーの開発に成功しました。
5ナノメートルの量子センサーで何ができる?
量子センサーを使って、生きた細胞内部の詳細な情報を取得することができるようになります。例えば、異常型タンパク質がもたらす認知症の研究、変性タンパク質による細胞老化のメカニズムの解明、発がんプロセスの解明などです。生命科学研究の進展に幅広く寄与できると期待しています。
研究に携わった人
次世代量子センサーグループ/五十嵐龍治グループリーダー、寺田大紀QSTリサーチアシスタント、白川昌宏領域研究統括
物質量子機能化グループ/大島武グループリーダー、小野田忍上席研究員
スイス連邦工科大学チューリッヒ校/瀬川拓也ファビアン博士
関連リンク
プレスリリース https://www.qst.go.jp/site/press/26372.html
掲載論文情報 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.8b09383