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量子生命科学研究所

遺伝子発現のカギはDNAのねじれ方【3分で読める研究成果】

掲載日:2021年5月21日更新
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遺伝子発現のカギはDNAのねじれ方

-ヌクレオソームの全原子の挙動を計算、DNAの性質を明らかに-

(2021.2.9 発表)

キーワード:分子シミュレーションとは?

ヌクレオソーム

スーパーコンピュータを用いて構築したヌクレオソーム

青色:DNA、黄色:ヒストン

細胞内の出来事を再現するためには、膨大な数の生体分子の挙動を明らかにする必要がありますが、細胞内の分子の動きは実験的測定が難しい…そこで有効な手法となるのが、分子の運動や反応をコンピュータで予測する「分子シミュレーション」です。

今回の成果は、詳細な全原子モデルに基づいて、ヌクレオソームの力学応答を、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションにより追跡することで得られました。

成果のポイント

その1:「二重らせん」の形で広く知られるDNAは、生命活動に欠かせないタンパク質の遺伝情報を担っており、「ヒストン」に巻き付いた「ヌクレオソーム」と呼ばれる構造で存在しています。DNAはヒストンへの巻き付き方がきつくなったりゆるくなったりすることで、遺伝子情報を外から守ったり、外へ伝えたりします。「ヌクレオソーム」の構造変化が、遺伝子発現に関わっていることが知られています。

遺伝子発現のメカニズム

私たちはこの構造変化のうち、周辺の分子との相互作用でDNAが受けるねじれの力とその向き(右巻き、左巻き)に着目しました。スーパーコンピュータによるシミュレーション計算を行った結果、DNAにかかるねじれの力とその向きによって、ヌクレオソームの構造が大きく変化する様子を捉えることに成功しました。これは、遺伝子発現のON/OFFスイッチの入りやすさに積極的に関与している可能性を示唆しています。

ねじれの向きとヒストン

その2:こうした構造の変化は、DNAが右巻きのらせんの形をしているという、本質的な構造に起因すると考えられます。生命の基本原理である遺伝子発現のメカニズムが、実は「DNAが持つ右巻きのらせん構造」と「ねじれの力がかかる向き」の単純な仕組みによっても調整されている可能性が考えられ、生物学において興味深い結果を示しました。

ねじれの向きとらせんの相関

今後の展開は?

本研究では、ねじれの力とその向きに対して、DNAが硬くまっすぐになったり、やわらかく曲がったりするという固有の性質を明らかにしました。今後はモデルを進化させ、遺伝子発現を調節する転写因子やRNAポリメラーゼ分子を実際に計算に取り込んでより複雑な系でのシミュレーションを行い、DNAの物性と機能の関係から生命の根本的な現象を解明していきたいと考えています。

研究に携わった人

集合写真

 (2020年12月撮影 撮影のためマスクを外しています)

生体分子シミュレーショングループのメンバーと

前列左端が石田恒上席研究員、前列左から3番目が河野秀俊グループリーダー

関連リンク

プレスリリース https://www.qst.go.jp/site/press/20210209.html

掲載論文情報  https://www.pnas.org/content/118/7/e2020452118

量子生命クイズ 1枚の写真 https://youtu.be/UauQfkGoUUM