強い細胞毒性を示すアミロイドタンパク質凝集体特有の運動を発見
-アルツハイマー病の治療薬開発に新たな視点を提示-
(2022.1.17 発表)
キーワード:凝集体の運動
アミロイドタンパク質凝集体が体内に沈着および蓄積することで、アルツハイマー病などの神経変性疾患が引き起こされることが知られています。凝集体の運動と細胞毒性および症状の因果関係は明確ではありませんが、凝集体が細胞膜に結合して病気を引き起こすこと、また一般的に、タンパク質の動きが結合に重要な役割をすることが知られています。そこで研究チームが注目したのは「凝集体の運動」。凝集体の性質を明らかにするべく、細胞毒性が強い凝集体と弱い凝集体の「運動」の違いを詳細に調べました。
成果のポイント
その1:細胞毒性の強い凝集体は、弱い凝集体より大きく速く動く
細胞毒性の強い凝集体Nと弱い凝集体A、それぞれの凝集体を構成する原子の運動の大きさと速さを調べて双方を比較しました。結果、細胞毒性の強い凝集体Nの方が、大きく運動する原子の数の割合が多いことがわかりました。この原子運動の大きさは、自然界に存在する最も小さな原子である水素原子1個程度。この僅かな大きさで、細胞毒性の性質が決まることを実験結果が示しています。また、原子運動の速さを解析したところ、凝集体Nは凝集体Aの原子よりも1.6倍速く動いていることがわかりました。
その2:細胞毒性の差を引き起こす仕組みを考察
原子が大きく速く運動する凝集体Nはいろいろな形を素早く取れ、細胞膜の結合に適した形に到達しやすくなります。そのため、ある一定の時間内により多く細胞膜へ結合することができます。その結果、膜のダメージも起きやすくなり、最終的には細胞毒性が強くなると、今回得られた実験結果から考察できます。
今後の展開は?
本研究により、凝集体の原子運動について大きさおよび速さの両面を明らかにしたことで、今後、より複雑な現象である凝集体と細胞膜の結合の仕組みを原子レベルで解明するための道が拓けました。これは、細胞の毒性が決まるプロセス、ひいてはアミロイド病発症機構の全容解明につながります。さらに、本研究で明らかにしたアミロイド凝集体の特定の運動を変えるような新しい薬剤分子を設計・開発することで、アミロイド病の治療法確立に向けて、原子運動という全く新しい概念での創薬開発が可能になると期待できます。
研究に携わった人
関連リンク
プレスリリース https://www.qst.go.jp/site/press/20220117.html
掲載論文情報 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmolb.2021.812096/full