世界初!放射線によって生じたDNA損傷の直接観察に成功
ー 老化・がん治療研究にブレイクスルー ー
(2022.3.22 発表)
キーワード:原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)
顕微鏡とひとことで言っても、用途によってその種類はさまざまです。今回の成果をもたらしたAFMは、試料の表面を一定の間隔を保ち探針でなぞることで、観察したい試料を構成している原子と、探針の先の原子との間にはたらく力を検出し画像化します。その解像度はナノメートルレベル。1ナノメートルは髪の毛1本の太さの10万分の1に相当します。研究チームはこの高い解像度に着目しました。
成果のポイント
その1:DNA損傷部分を効率的に集め、観察する新たな手法を開発
DNA損傷の形態とその修復との関係を知るためには損傷を直接観察して、具体的な情報を得る必要があります。しかし、膨大な塩基対を持つDNA鎖上に生じたごくわずかな傷を見つけ出すのは至難の業です。そこで研究チームは、長いDNAをAFMで観察可能なサイズまで細分し、得られた膨大な量のDNA断片から損傷を含んだDNA断片のみを集める手法を開発しました。
その2:DNA損傷の「見える化」で、DNA損傷の種類分け、修復過程の追跡が可能に
DNA損傷の位置を「見える化」できたことで、通常の孤立した塩基損傷以外に、塩基損傷が集中して生じた領域であるクラスター損傷、DNAの末端に塩基損傷があるタイプの損傷、塩基損傷が複数個固まったような高複雑度クラスター損傷など、多彩なDNA損傷を観察することができました。これにより、DNA損傷の特徴に応じて、その修復速度を調べることもできるようになりました。
どう役立つ?何に貢献する?
DNA損傷の構造それぞれに対応したDNA修復過程や発がんメカニズムの解明、老化を引き起こす原因の解明、効果的にがん細胞を殺す放射線治療の確立等に役立つと考えられます。QSTは重粒子線がん治療の研究開発を行っています。一般に修復がされにくい損傷の形態が明らかになったこと、また様々な条件下において重粒子線によって引き起こされる損傷とその修復されにくさを解析する手段が得られたことから、今後、治療効果のより一層の向上に貢献できると期待されます。