鳥の“帰巣本能”を解明する新たな手掛かりを発見
ー磁場に応じて機能するタンパク質複合体の性質を明らかにー
(2022.5.10 発表)
キーワード:磁場の強さ、方向、場所などを生物が知覚する感覚「磁覚」
「磁覚」は、鳥類を始めとする多くの動物の行動(渡り・帰巣・採餌・繁殖等)に利用されています。現在では、カワラバト・ニワトリ・クジラ・マウス・ショウジョウバエ・オオカバマダラ(蝶の仲間)などが「磁覚」を有する動物とされています。
カワラバトは分子生物学的な研究などから、磁場を感知するために網膜細胞内のタンパク質「鉄硫黄クラスター結合タンパク質(ISCA1)」と「クリプトクロム(CRY)」を利用する可能性が示され、“磁場を直接見る”ことができる視覚的な「磁覚」を持っていると考えられています。
成果のポイント
その1:ISCA1の磁場応答に着目
タンパク質の構造や動きを調べることができるX線溶液散乱法とタンパク質周辺の磁場の強さや方向を操作できる独自に開発した磁石装置を組み合わせて、カワラバトのISCA1を詳細に調べました。その結果、ISCA1は鉄硫黄クラスターを結合して磁場に応じて動くこと、柱状の多量体を形成すること、多量体の大きさは磁場に応じて変化することを、世界で初めて突き止めました。
その2:鳥の帰巣本能を解明する新たな手掛かりに
磁場の強さに応じてISCA1の柱状多量体の長さが変化することで、ISCA1を足場にして向きを揃えて固定されるCRYの量や網膜細胞内のCRYの分布が変わり、磁場の変化が目に見えている可能性があることを本成果は示しています。これは、ハトが磁場情報を視覚的にとらえるという仮説の一端を裏付けるものです。
今後の展開
研究チームは現在、ISCA1に固定されたCRYを介してどのように磁場情報が“見えうるのか”を明らかにするため、CRYが検出した磁場情報がどのような視物質に伝達され、視神経まで到達するかの研究を進めています。
「磁覚」を持つ動物の中にはISCA1とCRYの結合が不明確な種(ヨーロッパコマドリなど)も存在するため、全ての動物がこれらのタンパク質を「磁覚」に利用しているかは未解明なままです。本研究の手法を用いて、生物種による「磁覚」の仕組みや磁場の感じ方の違いを分子レベルや量子レベルで比較することで、生き物が持つ「磁覚」という不思議な能力の謎に迫りたいと考えています。
研究に携わった人
関連リンク
プレスリリース https://www.qst.go.jp/site/press/20220511.html