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量子生命科学研究所

人工光合成でCO2削減(1)植物、量子効果を巧みに利用

掲載日:2022年7月28日更新
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光合成イメージ図植物、量子効果を巧みに利用

 植物は、太陽からの光のエネルギーを電気化学的なエネルギーに変換している。光にはエネルギーをこれ以上分解できない単位があり、これを光子と呼ぶ。光子は量子の一つである。

 量子は波動性と粒子性の二面性を持つ。これは、古典力学では許されない。断っておくが、古典=古い過去という意味はではない。100ワットの蛍光灯からは、1秒間に約10の20乗個の光子が飛び出している。この膨大な数の光の振る舞いをまとめて、古典力学では波として扱う。しかし、二面性を併せ持つ量子の振る舞いを調べるためには、確率的な概念を導入した、量子力学が必要である。

 光合成の出発点である、光エネルギーの電気化学的なエネルギーへの変換を担うのは、植物のゲノムDNAにコードされたたんぱく質である。光合成たんぱく質は、太陽の光エネルギーを効率よく集めて、エネルギー変換の反応中心に輸送する働きをしている。その輸送にかかる時間は、なんと、1兆分の1秒である。量子的な効果を巧みに使って、この超高速かつ効率的なエネルギー輸送を実現しているが、私たちはまだその仕組みをよく知らない。私たちは放射光施設を用いたたんぱく質の精密な構造解析、スーパーコンピューターを用いた計算機シミュレーション、超高速レーザー分光技術を駆使した量子計測などを統合して、その仕組みに迫る努力を続けている。まだ突き止めるに至っていないが、確実にその仕組みに迫っていることは間違いない。

 量子の性質は非常に壊れやすく、ノイズに弱い。そのため、私たちの前にそうたやすくその性質を見せてはくれない。さらに、量子は一点に存在しているのではなく、波として空間に広がった重ね合わせ状態になっている。重ね合わせの状態は、波の大きさとタイミング(位相)で現すことができるが、その組み合わせは膨大な数である。そのうえ、それが時間とともに変化していく。この重ね合わせの性質を、巧みに利用しているのが量子コンピュータである。 

 私たちが、生物が量子の性質を巧みに利用する仕組みを理解しそれを利用できれば、持続可能な未来が実現できるであろう。本稿を含め全5回で、人工光合成実現への取り組みとともに、生体高分子が機能する仕組みと量子状態の関わりについて、研究開発の現状をご紹介する。

執筆者紹介 河野さん

※本記事は2022年7月28日 日刊工業新聞25面(科学技術・大学)に掲載されました。

 日刊工業新聞 量子科学技術で作る未来(55)人工光合成でCO2削減 植物、量子効果を巧みに利用