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認知症の超早期診断 第67回 ヘルメット型PET開発 脳画像検査の切り札に

掲載日:2024年3月27日更新
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認知症の超早期診断 第67回
ヘルメット型PET開発 脳画像検査の切り札に

ボジトロン断層撮影(PET)は、形の変化が現れる前の機能的な異常を、いち早くポジトロン(陽電子)を使って画像化する。これは、形を画像化するCTやMRIとは全く異なる大きな特徴であり、いまやPETはがん診断に不可欠な検査法となった。一方、認知症においては、発症機序と関連する脳内の異常タンパク質の画像化に強みを発揮しているものの、低い解像度が課題であった。

要因の一つは、放射線を捉える検出器のトンネルの大きさにある。一つの陽電子から2本の放射線がほぼ正反対方向に出るーこれがPETを支える物理法則であり、2本の放射線を同時に捉えて陽電子の位置を線上に特定する。しかし、この「ほぼ」がミソであり、従来の全身用のPET装置では、この180度からの揺らぎが数ミリメートルの解像度劣化を引き起こす(図参照)。

そこで量子科学技術研究開発機構(QST)では、頭部に特化したPET装置の開発に取り組んできた。具体的には、検出器自体の性能を世界最高レベルにするのはもちろんのこと、検出器リング自体を小さくすることにも注力した。その結果たどり着いた頭部用PETの理想形が、世界初となるヘルメット型PET装置である。

ヘルメット型PET装置は、7年間にわたるアトックス(東京都港区)との共同研究を経て、2022年1月に製品名「Vrain」として販売開始に至った。従来型の最新PET装置でも区別できないような脳の細かい神経核までもが、明瞭に画像化できる優れた性能を誇る。

半球型は、使用する検出器の数が従来PET装置の数分の一で済むため、世界最高レベルの性能でありながらも世界最小であり、高い普及性を併せ持つ。珍しい座位型もポイントであり、リビングでソファに座るのと同じような感覚で、リラックスしてPET検査を受けてもらえるだろう。

実はPET装置の約9割は輸入であるが、PET装置のコア技術の一つである光検出に関しては、日本製の部品が世界中のPET装置で使われている。Vrain開発の成功を支えたのはこのような日本の優れた量子科学技術であり、今後のより一層の医療への貢献が期待される。

図・写真

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所

先進核医学基盤研究部 次長

男性の顔

山谷 泰賀(やまや・たいが)

東京工業大学で機械工学を学び、それらを未来の医療に役立てる研究開発を推進。本質を捉えた独創的発想を大切にし、それを実用化し患者さんに届けることを重視している。博士(工学)

本記事は、日刊工業新聞 2022年10月20日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(67)認知症の超早期診断(連載記事 全8)​ヘルメット型PET開発 脳画像検査の切り札に(2022年10月20日 科学技術・大学)