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認知症の超早期診断 第69回 脳画像で認知症AI自動診断 スコア算出 鑑別に一役

掲載日:2024年3月27日更新
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認知症の超早期診断 第69回
脳画像で認知症AI自動診断 スコア算出 鑑別に一役

認知症の大半は、脳の中に異常なタンパク質が蓄積する神経変性型の認知症で占められ、アルツハイマー病(主に記銘力障害を呈する)、前頭側頭葉変性症(変性部位により人格変化や言語・運動障害など多彩な症状を呈する)、レビー小体型認知症(物忘れのほかに、幻視、体の動きがぎこちなくなるなどのパーキンソン症状を伴う)の3大認知症からなる。前頭側頭葉変性症には進行性核上性麻痺という、体の動きの障害を伴う認知症が含まれる。

これらの認知症の正確な生前診断・鑑別は困難であったことから、量子科学技術研究開発機構(以下、QST)では、まず認知症患者の脳内に蓄積する異常タンパク質「タウ」病変を陽電子断層撮影(PET)で画像化する技術を開発した。

これにより、画像上からタウ蓄積の有無や蓄積場所の違いが分かり、レビー小体型認知症を除く、タウ病理を特徴とするアルツハイマー病を含む各種認知症の識別が可能になった。しかし、PET画像から診断に役立つ情報を得るためには、熟練を要する読影技術や画像解析技術が必要であった。

そこでQSTは、脳内タウ病変のPET画像を人工知能(AI)で解析することにより、アルツハイマー病や、進行性核上性麻痺など、多様な神経変性型の認知症に生じる特徴的な脳内の病態を自動的に認識し、認知症の診断と鑑別に役立つスコアを算出することに成功したAIが算出するスコアによって、アルツハイマー病患者、進行性核上性麻痺患者、健常高齢者の3者を95%以上の正確さで識別することが可能になった。また、スコアの高さと疾患の重症度との関連を見出し、病期の進行度をスコアから客観的に評価できることも分かった。

このように、QSTが開発したAI解析技術は、認知症の全自動診断に向けた基幹技術であり、さらに様々なタイプの認知症の画像を学習させることで、幅広い疾患の鑑別が実現することが期待される。

現在、診断法としてのタウPETの臨床試験が進んでいるが、これと合わせて自動診断を実用化させることも構想中である。タウ病変に対する治療薬候補が多くの製薬企業により開発されているため、今後、治療薬の試験においてタウスコアによる被験者リクルートの精度向上や薬効評価の自動化も可能になると見込まれる。

疾患ごとに生体内タウ蓄積て医療測定し分類したパターンからAIで個人の集積値をスコア化

図タイトル:AI解析を用いたタウPETの定量・パターン分類とスコア化

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所

脳機能イメージング研究部 研究員

男性の顔

遠藤 浩信(えんどう・ひろのぶ)

北里大学医療衛生学部卒後、大分大学医学部へ編入。卒後神戸大学で脳神経内科医として臨床を経て、同大大学院博士課程修了(医学)。米国ジョンズホプキンス大学への留学を経てQSTに赴任。

本記事は、日刊工業新聞 2022年11月3日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(69)認知症の超早期診断(連載記事 全8)​脳画像で認知症AI自動診断 スコア算出 鑑別に一役(2022年11月3日 科学技術・大学)