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認知症の超早期診断 第70回 画像・血液BMを一体化 PET検査の欠点補完

掲載日:2024年3月27日更新
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認知症の超早期診断 第70回
画像・血液BMを一体化 PET検査の欠点補完

アルツハイマー病(AD)をはじめとする多様な認知症疾患を正確に診断するためには、客観的なバイオマーカー(BM)が必要であり、脳に蓄積する疾患特異的な異常たんぱくを画像化できる陽電子(ポジトロン)断層撮影(PET)検査は、病理診断の代替にもなりうる最も精密なBMである。しかし、PET検査は、検査施設が限定・低効率・高価などの欠点があり、低コストで高スループットの血液BMがPET検査の欠点を補完しうると考えられている。

量子科学技術研究開発機構(QST)では、患者脳のタウ病変およびα-シヌクレイン病変のPETによる画像化に世界に先駆けて成功している。また、血液BMについても、筆者らは、ADに特異的なリン酸化タウたんぱくを、血液中で定量できる高感度測定システム(従来法の1,000倍の感度)を世界で初めて開発し、その血液BMとしての有用性を報告しており、他にも複数の認知症関連たんぱくを血液中で定量できる測定系をすでに開発・報告している。

さらに、QSTは、近年、世界的に開発が進んでいるナノ量子センサーをプローブとする免疫アッセイの超高感度化においても、そのもっともコアとなる技術を保有しており、これを用いれば、上記のQSTの高感度測定法のさらに100倍以上(従来法の10万倍)の超高感度分子検出が可能になる。

筆者らはナノ量子センサーを用いた認知症・ウイルス感染症などの超早期診断を実現する研究にも着手している。以上のようにQSTは、多項目の画像・血液BMを、自施設で相互促進的に開発・検出し、一体化したシステムとして実用化して行くことが可能な国際的にも限られた研究機関である。

さらに、QSTでは、「血液・画像BMを一体化したシステムの開発・検証」を大規模コホート(集団)で実施するために、国内の多数の施設で画像データと血液検体の収集を行う組織Multicenter Alliance for Brain Biomarkers (MABB)を2020年に立ち上げている。MABBには、現時点で国内18施設が参加しており、全体で年間350例以上の多様な認知症患者の登録が可能である。

さらに、今後、MABB研究参加機関は、検証済みの画像・血液BMを用いた治療薬候補物質の治験における主要な実施機関となり、BMの医薬品・医療機器承認が得られた後も、その普及や市販後臨床試験を担うコア機関となることが見込まれる。

QSTで施行可能な画像・血液バイオマーカーを統合した包括的な認知症診断・層別化システムのイメージ

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所

脳機能イメージング研究部 医長

男性の顔

徳田 隆彦(とくだ・たかひこ)

信州大学医学部卒。脳神経内科専門医。東京都精神医学総合研究所、米国NY大学で認知症の蛋白化学研究を学んだ。認知症および神経変性疾患の体液バイオマーカー研究に従事。博士(医学)

本記事は、日刊工業新聞 2022年11月10日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(70)認知症の超早期診断(連載記事 全8)​画像・血液BMを一体化 PET検査の欠点補完(2022年11月10日 科学技術・大学)